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【小話と】リメイク、そして販売の告知の話【レジンクラフト】

ありがちな異世界転生魔王系の小話と、レジンを使ったアクセサリーの紹介です。第九章は何かが始まりそうなリメイクの物語。最後にふわっとした告知等がありますが、雰囲気だけでも感じ取って頂けたら幸いです

世界を広げたい。自分の瞳に映る世界を。

そのためには、『眼』を増やすしかないのだと思う。自分のふたつの『眼』だけではない、他の人々の『眼』を取り入れてこそ見える世界は広がっていく。『眼』は様々な場所にある。それは画面の向こう側にあったり、書物に記されていたり、はたまた何の変哲もない日常的な会話の中に隠されていたり。

様々な『眼』を見つける、という意志を持った『眼』もまた必要なのかもしれない。ただ眺めているだけでは、取り入れることもできないのだから。

「さて。僕の創像を始めるにあたって、用意してもらいたいものがあるのだけれど」

魔王の青年は触手の少女に羊皮紙を渡す。少女は内容に目を通すと、首を傾げて去っていった。
狼の魔物は興味深そうに黙って眺めている。やがてそう時間も経たない内に少女は戻った。触手の手の中には小さな籠。きらきらと夕の陽を受けて輝く【夜彩(やさい)】がいくつか詰め込まれていた。

「————まずは、既存の作品を僕なりに創り変えていくことから始めていく」

籠を受け取り、陽の光にかざして目を細める。

「既存の作品の価値を否定するつもりは一切ない。その姿で応援してくれている人がいるということは、そのデザインに魅力があることの証左なのだから。しかし、同じ作品でもさらなる別の一面、魅力を引き出す工夫をすることは可能だと思っている」

まずはそもそもの作品の研究だな、と玉座に改めて座り直し、魔王は籠の中のものを手に取る。
集中の海に潜っていくふたつの『眼』。それを目にした二匹の魔物は、目配せをして玉座の間から去る。
夕の陽は既に傾いて、ともしびとなって魔王を照らす。
玉座の間の中には、既に彼の————彼だけの世界が広がっていた。


「ところで、お腹がすいたのだけれど」
「えっ、普通にご飯は忘れないんですね?」
「せっかくだし美味しい焼き立てのパンが食べたいなぁ」
「魔王サマはいつもそれだよな!しっかり気持ちを込めて焼き上げてやるから安心しろよ。まだ見ぬ旅路に幸あらんことを、ってな!」


デザインというものは、足し算と引き算で成り立つものだと考えている。

好ましい要素を『足して』いくと作品はできる。無から創り出すためには、何かを足さないと生まれないからだ。しかし、より洗練されたものにするためには『引く』ことも重要な行動だ。足し算は無限にできるからこそ、やり過ぎで原型が見えなくなってしまうことがある。そのために無駄な要素を『引いて』いく。残すべきものは残し、不要なものは引く。時には別の形に変えて再度足すことも必要かもしれない。

だからといって、引き算をすれば良いか?と聞かれれば首を横に振る。原型が欠けてしまっては意味がない。さらにはより豪勢に、余計なものを引かずに足し算をしたままの姿を好む人もいる。

要は自分の表現の原型————本当に表現したいものとは何か?ということを常に頭の中に置いて、その上で足し算と引き算をしていく必要があるのだ。自分の好み、理想の作品、手に取ってほしいと思う人……。たくさんのことを思い浮かべながら。


窓の外は夜の帳が落ちて、部屋はあたたかい松明に照らされる。炎はゆらゆらと不規則に揺らいで、【夜彩】も曖昧にその煌めきを魔王の瞳に映し出す。

「僕の表現を……創像をするためには。そして作品としての魅力はそのままに……」

言ってしまったがなかなかに難しい話だな、と魔王は椅子の背もたれに深く身を預けた。



「あの……魔王様、うず高く積まれたこの羊皮紙の山は…………」
「自分の頭の中にあるものを書き出していたらこうなった」
「ではこの、石の壁に書かれた白い文字は……」
「書き出していたらインクが切れてしまってね。手ごろな白い石を拾って壁に書いていた」
「はい、インクは取り寄せておきますね。じゃあ最後にひとつだけ……」


「この焦げた料理場は?」
「……夜食にパンを焼こうとしたら誤って焦がしてしまった。すまない」


煤の目立つ魔王の頬に、触手の少女は濡らしたタオルを差し出した。部屋の隅では狼の魔物が腹を抱えて笑っている。魔王は受け取ったタオルで顔を拭った。顔をあげたその表情には、謝罪の感情が残っているが、達成感にも満ちあふれていた。

「でも完成したんだ、作品が。……今の僕にできるベストは尽くしたつもりだよ。見ていってほしい」

魔王は玉座の間に戻ると、籠を手に取る。その中にはいくつかの【夜彩】が仕舞われていた。


「まずは【平知誠(へちま)】。形はそのまま保っている。平和の緑が映え、知性を洗練性で見せ、より透明感を出すことで誠実さを表現した。豪勢さは減ったかもしれないが、魔物の飾らない精神とは素朴なものだと思っている」


「次に【那守(なす)】。これは逆に豪勢さを増してみた。【なす】は美しいものを守る……御守りの力は強くなくてはならない。これをくれた魔物達への感謝の強さをどこかに表現したかった。そこに在るだけで、力を感じさせる迫力を……その思いから生まれた作品だ」



「【美衣都(びーと)】。これは都の印象をそのまま色合いに表した。風光明媚なその鮮やかさと、とらえどころのない強さ。磨き上げることで輝きもより強くした。この作品には僕の都への憧れの気持ちも詰まっている」



「最後に【むらさききゃべつ(紫姫邪別)】。僕はこれを欲した都の姫を見たことはないが、これを求めた姫はさぞ絢爛で強かな美しい姫だったのだろう。都の華やかさ、そしてそれを統べる魔王を動かした姫の精神の揺るがなさを落ち着いた色合いで表現した」


二匹の魔物の思い思いの反応に頷くと、魔王は触手の少女に声をかける。

「そして……僕をこの次元に呼び寄せた力……君の異次元に干渉する力はどれだけ残っているのかい?」

触手の少女は新しい【夜彩】を見つめつつ口を開く。

「えっと……魔王様を五体満足で次元の隙間から取り出した時にほとんど力を使ってしまったので……また魔王様を元の次元に戻すとなれば百年はかかります。干渉するだけでも……おそらく抽象的な概念を一方的に送ることくらいしかできないでしょう。向こうから何かを受け取るには非常に強い力が必要になるので……」

言葉に魔王は頷いた。想定内、といった表情に少女は首を傾げる。

「もうひとつ僕がやりたいこと————それは僕の元いた次元の人間を一人選び、その人間にこの次元の作品を伝え、販売してもらうことだ。別の次元の評価は、創る上でも参考になる」

魔王は手の中の籠に目を落とした。そして顔を上げる。

「今の僕は未熟でちっぽけだ。実際に動いて、触れて、始めて……それから見える様々なものをこの『眼』でとらえて世界を広げる必要がある————協力してくれるだろうか?」


求めた手が返ってくるのには、時間は必要なかった。




「ところで、異次元でも干渉しやすい存在があるのですよ」
「そうなのか。どんな人間なんだい?」
「そこに在り生きていながら別の世界に……例えば夢の世界とか、死後の世界とか、そういうものに精神や身体が依りかかっていると、力が馴染みやすくて干渉しやすいんです。あ、ちょうどいい人間を見つけました!」
「大丈夫な人間なのかい、それは」
「こちらとしては干渉しやすいほうがより多くの情報を渡せますから。この人間は……酒を夜通し飲み、変な時間に運動をすることでとても疲れて身体も死に少し依っています。かつ睡眠不足でだいぶ精神と身体共に夢の世界に近いです。この人間にしましょう!」
「……それは本当に大丈夫な人間なのかい……?」


さて、第九章は過去作リメイクの物語です。
そして販売の予告回でもあります。一応今週中をめどに開始予定です。
場所はminnneで名前はこちらと変わらずてんたこん。販売開始と同時にTwitterで屋号も公開します。

四月から始めたいことがたくさんあり、目が回るような忙しさで三月末をすごしました。今もまだ少し慌ただしいのですが、諸々注文したものが届き次第、始めていく準備はそれなりに整っております。
これもいつも支えてくれる皆様のお力の賜物です。本当にありがとうございます。
感謝の気持ちを込めて、Twitterでもこれから開始する企画があります。ご覧いただけたら幸いです。

よろしければこれからもご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。
閲覧ありがとうございました。


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