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【小話と】贈るやさいの物語【レジンクラフト】


ありがちな異世界転生魔王系の小話と、レジンのやさいの紹介です。第十三章は平和な話。そして続きものの後編のお話です。雰囲気だけでも感じ取って頂けたら幸いです。


「はい、朝ですよー!ご飯ですよー!ゆっくり食べて、たくさん働いてくださいー!!」

フライパンを打ち鳴らす音と共に起床。すごしやすい気候の朝は、ベッドとの戦いから始まる。

「この踊りしたら肩がよく動くんだ!」
「生きてるアンタは、動かし過ぎても腕が千切れなくていいなぁ!」

豪快に笑うゾンビが敵かと思ったら、一緒に珍妙な踊りをさせられた。身体を動かす意味はよくわからないがゾンビ達に敵意はない。むしろ仲間意識を持たれているようだ。気のいい奴らばかりだったが、細かい作業の集中の敵ではある。

「そこはひたすら掘って蒼い石が見えたら手を止めてくれ。判断に迷ったらたらいつでも聞けよ!」

初対面で斬りかかろうとしていた狼の魔物が、ツルハシ片手に採掘現場を仕切っていた。私も剣を志した者。刃を交えてみたいと思ってはいたが、この場では仕方がないと私もツルハシを手に目の前の鉱山に立ち向かうことにした。

「はーい、お昼ですよー!サンドイッチ持ってきましたから、食べてください!」

此処へ来てから、食事が豊かになった。触手の少女が出す食べ物は品目も多いし、パンもふわふわで焼き立て。腹の虫から勝利を討ち取った甲斐があるものだ。

「別に無理に重いもの持たなくていいよ。この次元に来てくれただけで、そこそこ面白いもの手に入ったし」

傾きかけた赤い鳥の家で、他の世界に売る装飾品を運ぶ。此奴の言う「面白いもの」とは何なのだろうか。【門】を目にした時は元の世界に帰れるのかと期待したが、そう上手くはいかないらしい。忍耐も修行のひとつだと家に咲いた花々をつつきながら適当な声音で言われた。間違ったことではない。しかしもっともらしく言ってほしかった、というのは傲慢だろうか。

「いや、この金額は譲れない。だがこちらとしても貴方とはこれからも穏やかに過ごしたいと思っているのだ。……このくらいならどうだろうか?」

行動を共にする魔王は、目の前で他の世界の魔物と商談をしている。笑みをたやさず、しかし一歩も引かない彼や、その相手の心はいま同じ戦場に在るのだろう。闘技場で眺める客の気分とはこういうものなのだろうか、と魔物に擬態するためにつけられた偽物の獣耳の毛並みを撫でながら思った。


「ぬるい戦いだ」

すっかり日が沈み、闇が世界を支配する。ゆらめく炎に照らされる横顔に吐き棄てれば、「そうだろうか」と首を傾げられた。

「命の取り合いと無縁な戦いを、ぬるいと呼ばずしてなんと呼ぶ?」

視線を投げれば、魔王はふむ、と考え込んだ後にひとつひとつ言葉を選ぶ。

「こちらの命がかかっている。何かを売らなければこの世界の魔物は食事を食べることはできない。売る物は自然の中から掘り出さなければ存在し得ない。掘り出したとしても、技術を用いて加工をしなければ、商品としての価値は見出されず、売ることはできない。我々にとっては商いが剣と盾なのだ」

君のその剣のように、と示され、思わず柄を握りしめる。正直に言えば、何度も死線を潜り抜けた身体にこの世界の平穏は甘すぎた。人としての尊厳を踏みにじるような暮らしと戦火の中に、再び身を投じることが怖くなるほどに。剣を握り敵の魔物の首を討ち撥ねることに躊躇いを感じてしまっては、次の瞬間屍となるのは自自分自身だ。敵の魔物、という言葉を頭の中の話でも使った自分に愕然とする。魔物は皆、敵だった筈なのに。

「これも、この日常も戦い……ならば、平穏とは何なのだ?戦いのない世界とは、何なのだ?」

絶望に俯く。恐怖に手が震える。慄きで身体に力が入らない。
思い浮かぶのは大切なヒトの顔。美しい光の中にいるそのヒトは、いつだって平穏を願い、同時に戦いのない世界を知らぬことを恐れていた。
全て終わった後は、悪はどうなるのかと。悪が在ることで正義は成り立つ。悪が滅びた時に、世界はどうなるのか。問いをぶつければ、魔王はめずらしくどこか遠くを見てしばらく悩むそぶりを見せた。

たいまつが小さな音を立てる。窓から見える闇の世界は、ひどく静かだった。

「……戦いは、終わることはないのだと思う。どんなに悪を倒しても、疎外しても。感情が在る限り————人間が在る限り、戦いはやめられない」

しかし、と魔王は言葉を続ける。

「僕らができることは悪を破壊するだけではない筈だ。自分がただしいと思うもの、好きなもの、愛するものを創ることが僕らにはできる」

その手で、と再び手を示される。剣を握りしめていた手を離して呆然と見つめる。斬ることしか、傷つけることしかできなかったこの血まみれの手で、一体何を創ればいい?

戸惑いのままに視線を上げれば、世界が光に包まれ始めていた。闇が光に侵食されていく。魔王は「そうか、君が元の世界に帰る時が来たか」と頷いた。思わず手を伸ばす。そこに、小さなきらめきが投げられた。

掴んで見てみれば、それはふたつの装飾品だった。


「ひとつは貴女の色をつかった【那守(なす)】。君自身を護る御守り」

そしてもうひとつは、と少し早口で言葉を続ける。


「【平知誠(へちま)】。平穏に、知恵深く、誠実に。同じ志を君も持っている、そう思ったから」

暢気に手を振りながら、魔王は微笑む。

「そういえば、君が来てから【魔技】の作用で生えた花のような鉱石は緑のものは【玲多澄(れたす)】桃色のものは【陽玲多澄(さにーれたす)】と名付けたよ。意味なんだが———」

笑顔の言葉の中で、それを最後まで聞くことはできぬまま。

気づけば光の中にたたずんでいた。魔法の陣の中心に立ち、周りを囲んだ人々は喜びの声をあげている。
その中から駆け寄る人に、目を奪われる。それはまるで光が人間になったかのような————。


魔王の言葉を実現できるとは、まだ思えない。けれど、会いたかった人へ捧ぐ言葉を創ることはできる。

エルというひとりの人間は、言葉を創るためにその唇を開いた。

さて、第十三章は贈るやさいの物語です。続きものの後編です。様々な色で遊んでいたらできた作品です。他の色もTwitterでつくっているのでもしよろしければそちらもご覧ください。閲覧ありがとうございました。

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