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【小話と】『むらさききゃべつ』の物語【レジンクラフト】

ありがちな異世界転生魔王系の小話と、レジンを使ったアクセサリーの紹介です。第七章は『むらさききゃべつ』の物語。次回で完結するはずの続き物の中編となりましたが、雰囲気だけでも感じ取って頂けたら幸いです。


格差はなぜ存在するのか。なぜ真の平等は成立しないのか。
その原因のひとつは人間の優しさの限界にあると、常々考えている。

全ての人間に優しくすることはできない。

どんな人種・性別・年齢の人々をも慮る無限の思考。そしてそれを実行し続ける無限の体力。さらに揺るがないための無限の精神力が必要になるからだ。
そんなものを持てない人間は、優しさを与える人間を選別する他ない。自分に金銭的・精神的価値のある人間。血の繋がりが濃い人間。以前に与えてくれた人間。与えてくれることを期待している人間。
国家も人間がつくり、維持していく以上、少し大きくなった人間でしかない。経済効果に期待できる人々を。子孫繁栄に尽力してくれる人々を。国家の構成を大きく占める数の多い人々を。

真の意味での平等というのは、誰にも優しくしないことなのかもしれない。誰にも与えず、誰からも受け取らない。しかしそれを実現できた時、その人間の周りには誰か居るのだろうか?

「(いないだろう。人間が複数居れば、意識的にも無意識的に何かが交流するからだ)」

そして、魔物達の中でもそれは同じだった。思考も姿も異なる多種多様な魔物が生きる以上、当たり前のことだ。


『あの魔物、田舎者かしら』『そうね、ずっとめずらしげにきょろきょろしてる』『あの荷物ははずれの鉱山ばかりの世界の者だろう』『【体術】しか能のない魔物の住処か』『【魔技】もロクに使えない』『今時手作業なんて』『作っているものは綺麗なのにねぇ』


様々な声が聞こえてくる。遠巻きに、しかしわざわざ聞こえる程度に声を絞って。


訪れた水の都は美しい世界だ。透き通った水の上に立つ木製の建物の色調や造りは、落ち着いたものに統一されている。洗練された印象を受ける建物は、色とりどりの花々で飾られていた。雲一つない青空。心地よく耳をくすぐる美しい水の流れ。亜人の魔物が多い、活気に満ち溢れた街並み。都、と呼ばれるに相応しい外観だった。

そしてこの世界を統治する魔王は、非常に【創像力】に満ち溢れた有数の魔王らしい。そしてかつては【紫姫邪別(むらさききゃべつ)】という宝飾品を世界の姫のために魔界全てから奪い、自らの物にしようとした野心家でもあると。

元々宝飾品好きの世界なのだろう。歩く人は皆、華やかに彩られている。
しかし、どうやらよそ者、とりわけ彼らの中で下と判断された者に対するまなざしは非常に厳しいもので。
特に魔王の青年を案内する触手の少女は、あからさまに避けて通っていくほどの鋭い感情が向けられていた。

「……大丈夫です。慣れていますから」

元はといえば種族の出自にある、と少女は言いづらそうに語る。触手の魔物は、昔は他の魔物を魅了し、その精を食らって生きる、所謂淫魔のような存在であった。しかし、様々な魔物の成分を吸収していったことで、知恵を獲得し、同時に倫理観を備えた種族に変わっていった。今ではよほど治安の悪い世界ではない限り、良識を持って精以外を摂取して生きる触手が大多数らしい。

「それでも偏見は消えないんです。身の安全がかかっていることですし、仕方がないことだとは思いますが」

目の前で焼き菓子を頬張る少女の姿からは、恐ろしい魔物の気配は微塵も感じられない。今でも他の魔物を絡めとるような力を持つのか————と聞こうとして、やめた。都の魔物のまなざしを受ける度に弱々しく俯く少女の姿を見れば、自然と言葉は心の中に留まった。代わりに、と魔王は口を開く。

「【体術】についての蔑視が強いのには驚いたかな。それほどまでに他の技術は素晴らしいものなのかい?」

温かいお茶を一口すすると、少女は「この魔界の格差ですよ」と静かに語り始めた。


魔界においては、強い者が最も優れており、序列も高い魔王の器となる。その強さの種類はおおむね三つに分けられ、【神・技・体(しん・ぎ・たい)】と呼ばれている。

【神】は【創像力】。万物が存在する神の世界から、創像という形で取り出す。神の領域に介入することからその分類がなされており、序列は最も高い。
【技】は【魔技(まぎ)】。創像力がない者でも力を発揮できるように編み出した技術。基本的に触媒を使用し、ひとつの【魔技】に対して起こせる現象はひとつである。様々な【魔技】を扱える魔物は識者として扱われるが、【創像力】より序列は低い。
最後は【体】、【体術】。【創像力】や【魔技】の力に頼らず己の身体を扱う技術。様々な武具の取り扱いもこの中に含む。しかしよほどの達人でない限り、自然を超えた力を持つ【創像力】や【魔技】の力と渡り合うのは難しい。さらに武具は基本的に【魔技】から作られたものがほとんどであり、さらにその【魔技】も【創像力】から作られたため、【神・技・体】の中で最も序列が低く、蔑視の対象となっている。

「そして、どの力に適性があるかは種族ごとに異なります。私達の世界には【体術】に適性がある魔物が多いので、世界自体が軽く見られがち……言ってしまえば舐められるんですよね」

そんじょそこらの【魔技】使いじゃ狼くんなら一ひねりですけどね!と頬を膨らませながら少女は憤る。魔王の青年は宥めつつ思考を飛ばす。
この魔界にも格差があること。そして向けられる視線の意味や魔界の広さを改めて感じる。
しかし地域ごとの風習や連帯感、結束のために誰かを生贄として下げて落とす、といった元いた次元にあったものよりかはわかりやすい。上に立つなら強くなればいい。しかし、始めに立っている場所から進もうとしてもどこかに限界がある。明快だが、残酷な世界だ。

「あ、ちょっとゴミ捨ててきますね。魔王様、ここから動かないでくださいね!」

頷きつつ、紅のお茶を口に含んだ。口あたりも良い、良質な茶だった。生命の源である水に彩られた街並みも華やかで活力に満ちている。文化は確かに自分の世界と比較しても洗練されている。


「だからといって、自分の世界だって負けていない!とでも言いたいのかな?」


声に顔をあげる。いつの間にか目の前の椅子に、耳の尖った少年が当然といった面持ちで座っていた。所謂エルフという存在だろうか。細面の整った顔立ちだ。表情も声音も見た目通り幼いものだが、どこかくたびれた老人のような響きを感じさせる。
名前を聞いてみたが、素知らぬ顔で無視された。肩を竦めて少年は笑う。

「比較するのはやめなよ。大きな世界と小さなキミの世界。結果は何もかもが決まっている。キミとそのオトモダチに待っているのは破滅だけさ」
「……」
「ああ、そんなに怒らないで。ボクは事実を言っているだけなんだ!キミのためを思ってね!」

大げさに悲しみを表す少年を無視し返してお茶を飲む。都は居づらい場所だと思えば、帰宅した時の落ち着きは増すはずだ。つまらなく思ったのか少年はすぐに表情をなくした。置きっぱなしの商品、【紫姫邪別】をつつく。

「別に的外れでもないはずだよ。この世界自体が強い。【魔技】使いは山ほどいるし、かつて【紫姫邪別】を奪いつくす程の野心に満ちた魔王もいる。キミの世界の民達がいくら絆で結ばれていても勝敗は変わらない」

ティーカップを置き、少年をじっと見据える。尖った視線を受けたにも関わらず、少年は懐かしそうに笑った。

「ま、キミが何を言うかはどうでもいいんだ。ボクにとって重要なのは、『キミがキミとして何をするか』。せいぜい見させてもらうよ」

ふと瞬きを終えた時には、少年の姿は忽然と消えていた。戻ってきた少女に何か見ていないかと問いかけるも、首を傾げられるだけで。脳裏に残るのは、少年の微笑みと比較を否定された事実、そして『キミがキミとして何をするか』という言葉。


「(魔界には明確な格差がある。そしてそれを関係ないと突っぱねるのはおそらく美しいが、その先にあるものが滅びでは意味がない。僕の役割は。僕は魔王として何ができるか……)」

お茶をすする。冷めきってもなお、その味は変わらなかった。




さて、第七章はむらさききゃべつの物語です。続きものの中編です。名前がながぁい!ひらがなにした時の文字数の多さにビビりました。
野菜という題材の都合上、どうしても青を入れるのは難しいのですが、紫パワーで詰め込みました。実はミスで上下逆になってしまったので作り直したいのですが、いかんせん季節外れの風邪をひいてしまったので、資材を買いに行けません……とりあえず風邪を早く治そうと思います。
皆様も体調にはお気をつけて。
閲覧ありがとうございました。

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