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【小話と】『逡巡のなす』の物語【レジンクラフト】

たくさんつくったへちまとなすのストラップ。
そのひとつひとつに物語をつける新しい取り組みです。魔王様の創作物なので、彼の世界には直接関係がない話かもしれません。
最初は『逡巡のなす』。いつもと違った装いですが、雰囲気だけでも感じ取っていただけたら幸いです。


「つくったものに、何か言葉を込めてみたいんだ」
「言葉、ですか?」
「少しでも、僕達の想いが此処にいない誰かに伝わるように」


~『逡巡』の那守(なす)~


あるところに、ひとりの少女がいた。彼女はいつでも悲しい未来を想像で創り出して、憂いていた。
聡明な彼女はいくらでも自らの脳という箱庭で、破滅の道を辿る幾人の自分の姿を描くことができたし、だからといって箱庭だけに目をやるのではなく、現実的にいまここに生きている世界にまなざしを向けることもできた。その視線は、他人には悲観的だと言われて離れられてしまうのだけれど。

思考の糸を張り巡らす。自分にとって必要な情報を捕まえるための蜘蛛の糸。そして思い巡らせれば、いつかきっと報われるのだと、そう救いを託した蜘蛛の糸。

ある日、女性の下にひとりの人間が現れた。その人間は、蜘蛛の糸を手繰る女性に手を伸ばす。

「ひとりぼっちで遊んでいないで、たまには一緒に遊ぼうよ」

女性は一層蜘蛛の糸を手繰った。この人間は信用に足りる人間か。全てを見抜かんと観察の糸を巡らせて、何か怪しい挙動を見せた瞬間捕らえられるように、慎重に、慎重に。

人間は言った。

「こんなに周りに糸があったら、遊びにくいよ」

そして、絡まる糸をほどいて去っていった。


少女は恐怖した。言葉は確かに嬉しかった筈なのに。糸を張り巡らせで動かない自分に、言葉をかけてくれたこと。それは確かに冷え切った心にあたたかさをもたらした筈なのに。けれど、糸を張り巡らせることはやめられない。何故?考えてみれば簡単だった。自分にとって、悲しい未来を想像することは自分の心を守るための防衛策なのだと。予想外のことで裏切られるくらいなら、あらかじめ想像していた方が傷も小さくて済む。相手の欠点に目を向け続けていれば、「やはりそうだった」とすぐに目をそらすことができる。

少女は巣の中でうろうろと歩きまわる。冷静に外を見つめることは容易いことだったのに。いまはこの巣の中から出たくて仕方がない。巣から出て、声をかけてくれた人間の元へ行って、共に遊ぼうと言えたらどんなに良いか。しかし、本当に遊んでくれるだろうか?その日限りの気まぐれだったのではないか?思いを巡らせる度に、糸は増えていく。そしていつしか糸は脚を絡めとる。迷いが、躊躇が、彼女を動けなくしていく。

この糸は本当に自分を守ってくれるのか? わからない。
この糸は本当に救いになるのか? わからない。


それでも。少女は絡まった糸を引きちぎり始めた。幾重にも重なったそれを、手が痛くなっても、爪に血が滲んできても、本当に良いのか?と何度も自分自身に問いかけられても。信じてみたかった。自分に声をかけた人間を。自分を『守る』糸を取り払ってでも、手を伸ばしてみたかった。此処に来た人間の瞳が、きらきら輝いているように見えたから。

「遊びに来てくれたんだね」

自分の姿はひどくみすぼらしい。随分と長く、己を守るだけの生活をしていたから。そして、その生活から抜け出すことは、ひどくむずかしいことだったから。

「大丈夫。一歩踏み出した貴女の瞳は素敵だよ」

涙のしずくが頬をつたう。それはきらきらと、外の陽に輝いていた。


こんな感じの短文を、これから連載するかもしれません。
様々な色をつくったので、たくさん種類が増やせるように……自分の語彙力との戦いですね。
でもきまぐれにまた魔王様とやさいの物語に戻るかもしれませんし、別の話をつくるかもしれません。でも、何かしらつくることはやめないでいきたいと思います。
これからもよろしくお願いします。
閲覧ありがとうございました。


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