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Godotを待ちながら

Godot Engineとは

皆さん、ゲームエンジンという言葉を知っていますか?ゲームエンジンは、3Dや2Dのゲームを作成するための基盤となるツールです。特に3Dゲームの場合、重力の計算や光の反射といった複雑な処理が求められますが、これらの計算や処理をゲームエンジンが効率的に行ってくれます。

ゲームエンジンはUnityやUnreal Engineが有名ですね。特にUnityは、多くのゲームに使われるだけでなくたくさんのプログラミングスクールでも採用されており、その普及率は非常に高いです。TENTOでも多くの子どもがUnityを学んでいます。

Godotの編集画面

しかし、この9月、Unityは価格体系を変更し、ダウンロード数に応じて料金が発生するようになりました。ゲームを基本無料で配布し、特定のユーザーから課金を受けるビジネスモデルを採用する場合、大量のダウンロードがあると高額なコストが発生します。例えば、ダウンロードが10万回で1回あたり30円の場合、合計300万円の費用が発生するということのようです。

この変更でUnity界隈では大騒ぎになり、これまでUnityを使っていたけれど、ほかのゲームエンジンに乗り換えを考えているという方々が現れ始めています。移行先としてUnreal Engineなどと並んで名前が取り沙汰されているのが、タイトルにもあるGodot Engineです。つい最近の発表では、Terrariaで有名なRe-LogicがGodotへの寄付を発表して話題になりました。

2015年の試み

Godot EngineもUnityのようなゲームエンジンで、実は過去にTENTOでも学習用に利用を検討していました。2015年、つまり8年前の話です。当時はUnityではなく、このGodot Engineで教材を開発しようと考えていました。ワークショップも試してみました。Godot Engineを選んだ理由は、Unityが高スペックなPCないと動かないからです。高性能なゲーミングPCでないと、Unityはスムーズに動かないことが多いのです。それに対してGodot Engineは非常に軽量です。例えば、Unityはギガバイト単位の容量が必要ですが、Godot Engineの最新バージョンは約100MBしか必要ありません。

2015年のGodot教材トビラ

また、Unityは基本的に有料で、無料版もあるもののいくつかの制約があります。それに対して、Godot Engineはオープンソースで無料で使用できるのです。また、Pythonと似た文法でゲームを作成できるという特徴がありました。2015年はいまよりもPythonが流行ってなかった頃で、PythonイチオシのスタッフがこのGodotを紹介してくれました。

そんなわけで、当時Godot Engineを採用しようと考えました。しかし、よくよく調べると日本語の情報が非常に少なかったため、何回か試した後に本格的な導入を断念しました。それからは、私たちはUnityを教材として利用してきました。しかし、最近のUnityのこの騒ぎで、再びGodot Engineを教材として使えないかなと考え始めています。

ゴドーを待ちながら

Godotという名前、変わっていますよね。Godotと書きますが最後のtを読まず、「ゴドー」と発音します。もともとフランス語だからです。(フランス語では、単語の最後の子音を発音しないのです。)
このゴドーという名前は、私には少しだけ縁があります。大学で私は文学部に所属していたんですが、そのときの先輩がアイルランドの劇作家サミュエル・ベケットの研究をしていました。ベケットの代表作が『ゴドーを待ちながら』という作品です。登場人物の2人が「ゴドー」を待ち続けるけれど、最後までゴドーは現れません。いわゆる不条理演劇と呼ばれるジャンルの作品です。Godot Engineの名前は、この戯曲にちなんで名付けられたと聞きます。

ソフトウェアは、常にアップデートが続き、アップデートに終わりがないのが普通です。これはまさにゴドーを待っているような状態です。つまり、完成を追い求めるが、完成は永遠に到来しない。そういうソフトの本質を表しているのがGodotという言葉だという考えのようです。

2023年のGodotエンジン

さて、2015年から8年が経過し、長~く待った今、Godotはどのような立ち位置のゲームエンジンになったでしょうか?PCでもっともシェアの高いSteamというゲームプラットフォームでのゲームエンジンの利用状況を調べてみたところ、Godot Engineは6番目でした。ボリュームとしてはUnityの40分の1程度ですが、トレンドとしてずっと上昇していることがわかりました。実際、トップ10内で最も伸びているエンジンの一つとなっています。

https://steamdb.info/tech/Engine/Godot/

このような状況を考えると、2015年と比較して日本でも開発者や情報発信者が増えているのではと期待しましたが、まだその数は多くないようです。関連の書籍はあまり増えていない状況です。

とはいえ、私たちが2011年にプログラミングスクールを開始した当時、子供向けのプログラミング教材はほとんど存在しなかったことを思い出します。例えば、スクラッチの教材や本は現在は豊富ですが、当時はほとんどありませんでした。このように、Godot Engineも今はまだ知名度が低いかもしれませんが、将来的には大きく成長する可能性があると感じています。

公式ドキュメントしか存在しない良さ

Godot Engineの特徴として、公式ドキュメントが非常に充実している点が挙げられます。多くのソフトウェアやプログラミング言語には、公式マニュアルやドキュメントが存在します。実際、プログラマーにとって、この公式マニュアルをしっかり読むことは、良質なプログラムを作成する上での基本となります。

しかし、特に有名なツールや言語、例えばPythonやUnityのようなものは、公式マニュアルを読まなくても、インターネットで情報を簡単に探し出せるため、公式マニュアルを見過ごしてしまうことが多いです。しかし、長い目で見た場合、正確さや深さの点で公式マニュアルを読むのは避けて通れません。

Godot Engineの場合、公式マニュアル以外の情報はほとんど存在しないため、逆にユーザーは公式ドキュメントに頼るしかない状況です。特に日本語の情報は少ないですが、公式マニュアルは日本語化も進んでいます。この状況は、Godotを学ぶ子どもたちに公式マニュアルをしっかり読む習慣を身につけさせる良い機会となるかもしれませんね。

(TENTO代表 竹林)

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