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就活中だからマニキュア塗った


現在大学4年の私は、7月に入った現在も就職活動を続けており、潔く完敗中である。そんな中、Instagramを開けば友人達が某テーマパークに行ったストーリーを投稿していたり、色鮮やかな髪を染めていたり。何も言わずとも彼女達は『就職活動』という戦を乗り越え、地獄から解放されたのだと画面越しの私へ猛烈なアピールをしてくる。「私たちは幸せ!自由を手に入れた」と。

もちろんその幸せは彼女達が努力したからこそ手に入れたものであって、妬む対象ではない。妬むのであれば未だにやりたい事が曖昧で、行動にも移さないヘタレな自分を恨むべきだ。
しかし、それでも何の枷もなく走り回る彼女達は私よりもはるかに美しく、幸せに満ちている。
私も髪を染めたい。可愛い服を着て旅をしたい。好きなアーティストのコンサートに行ってひたすら涙を流したい。そんな願望だけは一丁前に溢れ、救いようのないダメ人間だと自分を認めざるを得ない。
今の私は似合わない黒髪を結い、ボコボコの額を見せびらかして猛暑の中スーツという名の鎧を纏い、初対面の人たちにぎこちない笑顔を振りまいている。なんとも滑稽な存在である。ホコリの方がまだまともな人生送っている。そして私は未だにリクルートスーツを纏った自分の姿を鏡越しに直視できない。こんな姿は本当の私ではないと無駄に抵抗し続けている。無駄に。

ある時、私の好きなモデルが新しいネイルをSNS上に投稿していた。細く美しいその指先には強く凛々しい黒色が塗られており、何故か私はそれに不思議と惹かれ、数日間ずっとその爪が頭から離れなかった。

後日、私はカピカピの眼球を潤すために薬局へと足を運んだ。そのついでにドラッグストアに並ぶ化粧品をぐるりと一周して新作を見る。まあ髪も染められないし、就活も終わってないから購入できないけど。見るだけ無料だと自分に言い聞かせて、綺麗に陳列された棚を眺める。するとそこには、黒色のマニキュアが並んでいた。今まで意識していなかったけど、黒色って薬局にもあるんだ…そんな小さな驚きと共に、先日見たモデルの指先が頭に浮かぶ。私は、しばらくその商品を眺め、目薬と黒色のマニキュアをレジで購入し、店を出た。
就活を始めてからオシャレを尽く封印していた私にとって、このマニキュアは『お主も悪よのう』と悪友のような笑みを浮かべている風に見えたが、それと同時に久しく感じるワクワク感が生まれた。

私は手帳を開いて予定を確認する。なんて情けない就活生なのだろう、と思うくらいには予定がスカスカだった。今日から一週間後まで企業先に爪を見せるような機会はない。なら、塗るなら今だと私は先ほど購入してきた黒いマニキュアを取り出し、丁寧に塗っていく。
久々にネイルをして気付いたのだが、普段あれ程丁寧にケアしていた指先はかなり不格好になっていた。人は『爪先を見ればその人の性格がわかる』と言うが、あながち間違いではない。本来ならば爪や甘皮などのケアをしてから塗るのが一般的だが、私はとにかく爪に色を足したかったため、その工程をすっ飛ばした。

そして45分後、ついに私の爪は黒色になった。私は何度も爪を眺めては頬が緩んだ。やはり、オシャレって楽しい。心無しか最近サボっていたスキンケアにも力が入りそうなくらいだ。明日は近場に行くくらいしか予定ないけど、思い切ってメイクしちゃおうかな。とにかく私は嬉しくて仕方がない、オシャレはこんなにも人間の背中を押してくれるものなのか。就職活動に必死で忘れていたけど、やはり私は可愛いものが、オシャレが大好きだ。一週間後に色を落とさなくてはいけないが、それでも私はこの時間を大切にしたい。また予定が空いたら爪に色を塗る。それを繰り返していこう。

オシャレは人の背中を押す最大の武器になる。だから私は、就職活動中にマニキュアを塗り続ける。

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