記憶のないニート時代の思い出

3年間、ニートをやっていた。

何もやらないことをニートと言うので、「ニートをやっていた」はおかしいんだけど。
英語の「I have no money.」と同じ文法。
あと、意味も「I have no money.」とだいたい同じ。

きっかけは就活

大学時代は、自分のことを選ばれしマジメ人間だと思っていた。

「はぁ。何がどう転んでも、エリート会社員になっちゃうんだろうなぁ」と思いながら、4年生になるまで過ごしていた。

しかし、4年生の春、就職試験の面接が始まると、痛感した。
まぁ~ 、スーツを着た大人との会話ができない。

おれはマジメなのではなく、特に荒れたことをしないヤツなだけだった。

心が折れ、「もういいや。留年しよう」と、就活をやめた。


留年するために、「この授業を落としたら卒業できません」という必修科目で、最後のテストを受けに行かなかった。
テストを受けないなんて、必ずや不合格だ。

「これで留年確定だね!来年はちゃーんと就活するよね!ねっ、ハム太郎!」と、ロコちゃんをキメこみ、3月まで過ごした。

大学生活最後の思い出

3月上旬、送られてきた成績表を見て、ドン引きした。

テストを受けなかった科目が、合格になっている。

「は?…おれ、テスト行かなかったよね?なんで?」

どうやら、テスト以外の授業は全部出席し、それなりに気持ちを込めてレポートも書いていたおれは、テスト抜きでも合格でいいくらい、成績がよかったらしい。

え…なんか、「卒業が確定しました」とか、変なこと書いてある…


泣きそうになりながら、大学の事務センターに電話した。
「卒業するつもりなんてなかったんです。許してください」。

でも、あちらからは「いまさらダメです。自分で留年を希望するなら、期限内に申請しましょうと、全学生に告知してあったはずです」と言われた。

たしかに、そんな告知はあった。
でも、不合格で強制的に留年するおれには関係がない、とスルーしていた。

告知済みのルールを守らなかったために、「告知済みのルールを守ってないから、ダメです」と叱られている。

これはきっと、「告知済みのルールを守らなかったら、ダメ」という教訓を秘めた、おとぎ話だ。
メッセージが一つもファンタジーに包まれずにむき出しだけど、きっとそうだ。

「もう卒業が確定したので、あなたは、卒業です」
大学を卒業してしまった。
ニートになった。

ニート生活と万能ソフトウェア

今、ニートだったと人に言うと、「毎日、何してたの?」と聞かれる。

…記憶がない。

記憶に残るようなことをしないのが、ニートだ。

起きて、ご飯を食べて、洗濯や掃除をしていたら、一日が終わる。たぶん、テレビやネットもたくさん見ていたのだろう。それを1000日繰り返した。

普段は、ニートであることを何も気にしないで過ごす。それが可能なのは、脳の中に『ニートであることを何とも思わないためのソフトウェア』がインストールされているから。
それは、ニート開始から数か月でインストールされていた。

でも、たまに朝起きた瞬間に「え?おれニートなの?ヤバくない?」と不安になることもあった。

目が覚めて脳というパソコンのスイッチをつけたとき、たまに脳だけが先に起動して、『ニート不安ブロッカー』のソフトが作動しない日がある。そうすると、しっかり不安を感じることになる。

そういう日は、朝(本当は昼)起きてしばらくの間、「ニート?うわうわうわ」となってしまう。

でも、起きて10分もしないうちに、遅れて『ニートへっちゃら、それ遊べ ブロッカー』がちゃんと作動し始める。
「あぁ、平気か」。いつも通りの一日が始まる。

そんなことを繰り返していた。

ニートの責任はコイツにあった

だが、ある日、『ニートくん、今日もニコニコ。だってぼくには観たいアニメがある!ブロッカー』が、完全に壊れてしまった。

起きて10分以上経っても、ニートが不安で仕方がない。
何日経っても、不安が治まらない。
サポート期限を過ぎたのか、一向にソフトが直らない。

…え?
なんでおれはニートなんだ。
なんでおれは、ずっと部屋にいるんだ。

おかしい、おかしい、おかしい。まずい、まずい、まずい。
何が悪い? ねぇ、何が悪い?

憎しみの相手は、部屋だった。

部屋が悪い。
部屋が存在するせいで、おれは「ずっと部屋にいるニート」にさせられているんだ。
コイツが、4つの壁と1つの天井で、「部屋」という形を作っておれを閉じ込めている。だから、おれはニートなんだ。

この部屋さえなければ。この部屋さえなければ…

そうして、当時住んでいた部屋が、憎くて憎くて仕方なくなった。

耐えられず、おれは引っ越した。

振り返っても、なーんにも出てこない

そのうち、人から見てどうかはともかく、「全く何もしていないニート」ではなくなった。

今思うと、ニートなんて1日も要らない経験だった。(何も経験していない)

仕事でボロボロになりそうな人は、一度すべて放り投げてニートになるのも、生きる手段だと思う。
でも、おれはそういう事情があったわけじゃない。


4月。新しくニートを始める人も多いでしょう!
部屋でのご活躍、心から心配申し上げます!

さて、何かはしよう。

サポートは、上空から怪鳥が持っていかなければ、土岡に届きます。