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宇都宮を「全宇宙首都」と言うおじさん

ぼくのふるさとは栃木県宇都宮市。
人に言うとだいたい「宇都宮の餃子おいしいよね」と言ってもらえる町だ。

しかし、前に帰省したとき、異変が起きていた。
JR宇都宮駅の前に広がる大通りを進んで行くと、突然「全宇宙首都・宇都宮」という文字が見えたのだ。

そう書いてあるのは、何かの事務所のような建物。
ドアや窓にとにかく大量の文字が書いてあるその建物は、一目見ただけで何かしらの過激派の拠点だとわかる。

しかし、どっち系の過激派なのか。「全宇宙首都・宇都宮」と言われても、「過激だ」ということしかわからない。

何やらこの事務所の掲げる思想が書いてありそうな長文の貼り紙を読んでみた。
この事務所の持ち主は「宇宙の都の宮、宇都宮は全宇宙の首都である。ここはその基地である」と主張していた。

ぼくの地元は、字面だけで大はしゃぎして基地を作るおじさんの遊び場にされていた。

「土地代のかかるアンサイクロペディア」ことその基地に、誰かいないか様子を見るが、その日は誰もいないようだった。

ゆっくり文章のつづきを読むと、そもそも栃木県が銀河の中心なのだと言っている。

銀河都市中央区(ぎんがとしちゅうおうく)」という初めて聞く言葉が太字で書かれていて、その「ぎ」「と」「ち」のところが赤丸で囲われている。

略して「ぎとち」。

宇宙は不思議だ。自分で作ったオリジナルの言葉でも省略に失敗することがあるらしい。
略して「とちぎ」になるためだけに生み出された言葉なのに。

おじさんは、荒れる宇宙をまとめるために宇都宮が正統な首都だと知らしめようと、基地を構えたのだろう。

でも、そんなことしたら反対勢力を刺激して、かえって宇宙に混乱を招くと思う。
あと、その場合の基地は、居抜きじゃない方がいいと思う。

事務所の窓には新垣結衣のポスターが貼られている。制服を着ているので、まだガッキーが高校生役の頃の、ちょっと前のポスター。

ポスターに油性ペンでふきだしが描かれていて、ガッキーが「新垣結衣です!宇都宮は全宇宙の首都です!」と言っている。

ガッキーが言えば、みんな聞いてくれると思ったのだろう。
「みんな新垣結衣が好き」という判断しか、まともなところがない。

留守だったため、基地についてこれ以上のことはわからなかった。

次に帰省したとき、もしまだこの基地が残っていたら、また訪れたい。
おじさんにはどうかその日まで、宇宙からやってくる敵や、「おれはこんな事務所まで借りて何やってるんだヤバいヤバいヤバいヤバい」という理性に負けないでほしい。

サポートは、上空から怪鳥が持っていかなければ、土岡に届きます。