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劇団「地蔵中毒」と大谷さん

6月7日、劇団「地蔵中毒」の過去作上映会があり、ぼくは司会をする。

ぼくは以前にも、劇団「地蔵中毒」のイベントで司会をした。
受けに来た全員が合格する「全員合格オーディション」や、ダルマが客席に飛び出たら終了する「舞台上のダルマが徐々に迫ってくるイベント」だ。

劇団「地蔵中毒」、そして主宰の大谷皿屋敷さんについて、一回整理しよう。

観る者の心に何も残さない演劇

地蔵中毒を観た人の感想で多いのが、「観ても何も残らない」「内容を覚えていない」だ。

この記事を書くにあたり、自分が観た公演の画像をネットで漁った。劇中のシーンとして、こんな写真があった。

鬼がホットドッグプレスを読んでいる。

…全く記憶にない。観に行ったのに。

この写真を見て笑ったぼくは、きっと客席でも笑っていたはずだ。でも、見た覚えがない。一体、どんな話の流れで鬼がホットドッグプレスを読むことになったんだ。

2時間の上演中ずっとこんな感じだから、その場で忘れながら観ている。


劇団メンバーの人たちと話すと、よく「第◯回公演のときと同じ会場だよ」とか「第◯回で、このシーンあったじゃない?」と言ってくる。

そんな言い方されても、覚えてない。

裾に生け花を付けた「裾生け花さん」というキャラが突然舞台に登場して、即ハケていったのが、第何回公演かなんて覚えてない。

人を家系ラーメンの店と間違えたカップルが人体に入店しようとして怒られたのが、第何回公演かなんて覚えてない。

受付でじゃがいもが配られて「これを握って観てください」と言われたけど、芝居中、観客の握るじゃがいもが一切話題にされず2時間が過ぎたのが、第何回公演かなんて忘れた方がいい。

それなのに劇団の人たちは「第5回のときの小道具でよければ貸そうか?」と、一体いつの何を貸してくれるのか分からないことを言ってくる。

面白かったのは覚えているから、また観に行っている。それで勘弁していただきたい。

主宰・大谷皿屋敷

以前、地蔵中毒は「ハムレット(ウエストポーチ着用ver.)」という劇をやった。

なぜシェイクスピア作品をやったのか。主宰であり、脚本・演出の大谷皿屋敷さんに尋ねた。

「ハムレットやりますって言ったらウケるかなと思って」とのことだった。

(実際に告知の反響は大きかったし、本当に登場人物全員がウエストポーチを着けたハムレットが上演された。)


大谷さんは、学生落語の先輩だ。
高座名は、是家リアル(これがりある)。今でもたまに一緒に落語をする。

ある落語会の帰り、ネタをどこで書くかという話になった。
ぼくは「ファミレスですね」と答え、「リアルさんはどこで書くんですか?」と聞いた。

大谷さんの答えは、「100円ローソンの前。」だった。

つまり、どこだ?

人が行く場所の選択肢に、「100円ローソンの前」という場所はない。

100円ローソンがあって、かろうじて「100円ローソンの前」があるだけだ。

もちろん100円ローソンにネタを書く場所はない。でも、100円ローソンの前に、我々が場所と認識している空間はもっとない。

わざわざ家を出て、100円ローソンの前でネタを書く。
でも、大谷さんの家はゴミ屋敷なのだから仕方がない。

ゴミ屋敷ワークショップ

大谷さんはかつて、ゴミ屋敷となった自分の部屋を綺麗にするため、「ワークショップ」を行なった。 

地蔵中毒の劇に出たい人は多い。大谷さんは、そんな人の心につけ込み、自分の部屋の掃除を「ワークショップ」と言い張って他人に行わせた。

部屋が片付いた大谷さん以外に、この経験が生きた人はいないだろう。

ちなみに、芸人仲間「竹内ズ」の竹内くんが、このワークショップに参加している。まだ人力舎の養成所に通う前の竹内くん。きっかけを探していたのだろう。
そして、竹内くんは「全員合格オーディション」に見事合格し、地蔵中毒の本公演に出演した。

ぼくが出演して分かったこと

ぼくも、地蔵中毒の短編に数回出させていただいた。

初めてお誘いをくれたとき、大谷さんは「お笑いの人が演劇に出るのって、演劇の色が付いちゃうとか抵抗あるかな?」と、気をつかってくださった。

そんなお気遣いいただいて。ぼくは喜んで出演した。

実際にぼくがもらった役は、プテラノドンをアシスタントに従えたテレビ司会者の役だった。

大谷さんには、演劇の色が何色に見えているんだろう。


稽古中、こんな光景を見た。

ある役者さんが、大谷さんに芝居の演出を求めた。
「ここは、どういう感情でやればいいの?」

聞かれた大谷さんは、半笑いで「感情?」と聞き返した。

役者が芝居に込める感情を質問したのに対し、演出家が半笑いで「感情?」と返したのだ。

まさか芝居の稽古中に役者から感情について聞かれるなんて、思ってもみなかったのだろう。


『劇団「地蔵中毒」過去作上映会vol.1 ~母を待つ乳呑み子、意思を持つ築地市場~』
6月7日(金) 開場19:45 開演20:00
場所 アップリンク吉祥寺

過去の短編を観て、その場で大谷さんに「今のは何ですか?」と聞けるチャンス。チケット完売しました。(ちなみに「絶品シマリスの会」と戦った話がこのイベントにつながる)

そして、6月10日の『阿佐ヶ谷落語』。
大谷さんにも落語をしていただく。こちらもチケット完売。来る方は、一緒に楽しい時間を過ごしましょう。

サポートは、上空から怪鳥が持っていかなければ、土岡に届きます。