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指導されたこと

自分でいうことでもないが、僕は結構素直なタイプである。言われたことは「ふむふむ。そうなのか」と一度受け入れることにしているし、専門家や年長者のいうことを、一旦は素直に聞こうという心持ちを持っていると思う。

もっとも、自分で自分のことを素直と思っているというのも、なんだが厄介な感じがする。本当に素直な人というものは、自分が素直かどうか、自信を持てない人ではないか。

その点、僕の素直さというのは末っ子特有の要領の良さによって培われたものだ。要は人のアドバイスは採用するにせよ、しないにせよ「一度聞いておいて損はない」という功利的な立場から「素直さ」に価値を置いているのである。

いわゆる「良い人」とは違う発想で、素直だということはお分かりいただけたと思う。見ようによっては偽悪的に振るまったわけだが、多分、こうした方が胡散臭さが消えて、信頼感が増したのではないかという気がする。

人間て不思議なものですね。

ところで、言われたことは素直に聞くタイプの僕であるが、幼少時代に「怒られたこと」については、あまり気にしなかった。末っ子で甘やかされて育ったので、兄弟と比較すると親にはあまり怒られていないようだけれど、学校ではすごく、すごく怒られた。
多分、僕らの世代ではバケツを持って立たされるなんてことはドラえもんの中だけの話で、もっと年若い人にとってはなんのことわからないと思うけれど、僕はバケツを持って廊下や教室の後ろに立たされたことが何回もある。
バケツの中には、その後床にかける用のワックスが入っていて、これは牛乳を腐らせたような匂いがする。
とんでもないサディスティックな教師だったのだと、大人になった今ならわかる。あるいはあの時に僕のMっ気が醸成されたのかもしれない(違)。

この教師には指し棒で殴られたりいろいろあったのだけれど、本題とそれるので置いておく。

教師の「怒り」には多分に、生徒へのコントロール欲が入っていて、そういったものを素直に聞く価値はあまりないと判断していたのだろう。
「身体だけ大きくなった子供」に対しては有効な対象法だとういうことだろうか。今でも肯定はできないが、理解はする。あの閉鎖的な「ムラ」の掟を教えこむことが秩序を保つために必要だったのだ。

学生も高校〜大学生くらいになると「怒られる」ということは次第に減っていった。その年代くらいになればコントロールする必要はなくってくる。
そんな調子で、大人の入り口に立ったつもりでいた僕らも、社会に出て働くようになった途端にめちゃくちゃ怒られるようになる。

思い当たる節がある人も、けっこういるのではないだろうか?

僕は新卒で企業イベントやその販促物を制作する会社にはいった。イベントの現場は、一歩間違えると死人が出るような過酷なものだった。だからこそ「安全」を脅かしそうなときには烈火のごとく怒られた。これは純粋にその仕事の成功と後輩の僕のことを思って言ってくれたことなので、感謝しかない。
そういう「安全」というところから離れてみて、指導してくれたことを振り返ると「かなり怪しいな」と思う教えもなくはない。
振り返ってみると、怒られたり指導を受けたりしているその瞬間から、「この話はわからんな」と思うものや「納得いかないな」と思うもの。正直に告白すれば「ぜんぜん的外れだな」と思うこともあった。

僕は当時から健全な批判精神を持っていて、ときにそれは「生意気」と言われたりした。

それからだいぶ時間がたって、経営者になった。「怒ってくれる」人がいなくなるとーー多少、的外れなことや納得いかないことがあったにせよーーありがたいことだな、と感じる。
怒るのには多大なエネルギーがいるはずだが、僕みたいなものにその力を注いでくれたのだ。これも感謝すべきことだろう。それによって今の自分があると言っていいと思う。

現在、彼らと同じく指導する立場になった。いまだに引っかかるのは、彼らの中の「何人か」が持っていた確信や拠所の在りか、ありようである。

彼ら一人ひとりは尊敬できるところもたくさんあったし、人望もあった。それに、なにより魅力的だった。

しかし、そんな彼らがなぜあれほどの確信を持ってーー言い換えるなら偏見を持ってーー断定的に指導したり、怒ったりできたのだろう?

僕の仮説を言うと、あれはきっと「ムラ」の教えの伝承であったのだろう。

しかし、愚鈍なる僕は自分がムラの中にいることに気づいていなかった。そこには、ラベルも手触りもなかった。ただ、儀式だけがあったのだ。

さまざまな偶然を経て、野に放たれて思う。

この「自由」な場所でムラの真似事はしないでいこう。狩猟民族として頭と身体を駆使して生き残っていこうと。

※この文章は朝から何も食べず、極度に腹の減った状態で書かれました。




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