見出し画像

借金×借金が貯金になるのおかしくない?

子「借金×借金が貯金になるのおかしくない?」
親「なんだい突然。どうしたの?」
子「負の数のかけ算を習ったんだけど、負の数に負の数をかけると正の数になるんだってさ。でも借金に借金をかけたら貯金になるってどういうこと?」
親「お金にお金をかけるってどういうことだと思う?」
子「100円玉を3つ貯金したら+100×3=+300だから300円の貯金でしょ」
親「そうだね。その式だと100は100円を表しているね。+100は100円の貯金と考えていい。じゃあ3は何を表しているのかな」
子「ええっと、3円?」
親「100円と3円があったら何円になる?」
子「あれ?100円と3円があったら103円だよね。あれ?足し算になっちゃった」
親「その通り。お金とお金があったら、普通は足し算か引き算をしているんだ。貯金と貯金でも、借金と借金でもおんなじだね。100円入っている通帳に300円貯金したら、100+300=400円の貯金。-100円を100円の借金と呼ぶと、100円の借金に300円の借金を重ねたら、(-100)+(-300)=-400で400円の借金。これなら文句ないだろ?」
子「それはわかった。じゃあ借金×借金はどうなるの?」
親「まず一度落ち着いて、足し算からよく見てみよう。100円の「円」や20kgの「kg」、4冊の「冊」のようなものを単位と呼ぶんだ。そして足し算や引き算はおんなじ単位同士でする
子「足し算はもうわかったし、単位ってのも知ってるよ。けど、足し算は同じ単位でするのか。考えたことなかったな。でもそりゃそうだね。3センチの細い棒と1立方センチのサイコロを足したら、長さは3センチのままだし、体積も1立方センチからほとんど増えないはずだよね」
親「そういうこと。3冊の本と5個のリンゴの足したらいくつになるか、という問題もあったかもしれない。そういうのも、難しく考えると、ホントは足し算しにくいんだ。もしかしたら本は上下2巻セットかもしれない。それぞれを1個と考えるなら合わせて6個になるかもしれない。5個のリンゴを4つずつに切ったら20個になるかもしれない」
子「そういうめんどくさいこと言うやついたよ」
親「3冊の本を3冊=3個と変換し、5個のリンゴと足して3個+5個=8個、という計算をしている。そうしないと足し算はできないんだよ」
子「普通みんな頭の中でそうやってるよ。当たり前じゃない」
親「じゃあ100円玉1枚と1円玉2枚を合わせると何枚?」
子「3枚」
親「何円?」
子「102円。そっか、100円玉を100円に変換したり、1枚に変換したりしてるのか」
親「1kmと10cmとか、同じ長さどうしでも1+10とやっちゃいけないこともある」
子「それはわかりやすいね。足し算は同じ単位のもの同士でやらないといけないんだね」
親「じゃあコーヒーに角砂糖を足して休憩しよう」
子「コーヒー1杯に角砂糖1個足してもコーヒーは1杯のままだね」

休憩

子「なんかいつの間にか足し算の話になっちゃった。借金に借金かけたらどうなるの?」
親「最初の質問に戻ろう。お金にお金をかけるってどういうことだろう」
子「さっき、100円玉を3つ貯金したら+100×3=+300だから300円の貯金だった。ここまではあってる?」
親「あってる」
子「じゃあ貯金かける貯金は貯金でしょ。そしたら借金・・・」
親「ちょっとまった」
子「何?」
親「100円玉は100円のお金でいい。3は何だ?」
子「この話、さっきもしたよね。でも3円じゃないぞ。3円と100円なら足し算になる。3は100円玉3枚の3だから、3枚?」
親「その通り。3枚と100円を掛け算しているよね」
子「かけ算は違う単位のものをかけ算しても良いの?」
親「良い。というかむしろかけ算は異なる単位のもの同士でやるのが普通なんだ」
子「えーっ!?じゃあ借金と借金をかけるってどういうことだ?」
親「そう。そんなことは現実には無いんだよ。100円の貯金を3回するのも、3枚使うのも、3分持ってるのもあり得るけど、100円の貯金を100円するって意味わからなくない?
子「なんかこんがらがってきた。じゃあ-100かける-3ってどういうこと?」
親「お金の損得はみんないつも考えているから、-100を100円の借金だと考えるのはとてもわかりやすい例えだよね。でもかけ算をしたいなら2つの種類のマイナスを持ってこないといけないんだ」
子「小学校で1つあたりの数かける個数でかけるんだってよく言ってたね。順番が大事とか」
親「かけ算の順番問題は気になるんだけどここでは置いておこう。でもこれまでも、かけ算する2つの数の単位は違ってたんだよ」
子「たしかに。でも借金以外の負の数って温度くらいしかわからないよ。」
親「そうだよね。そして温度とお金をかけ算することもないよね」
子「じゃあかけ算できないじゃん」
親「そうなんだ。だからマイナス×マイナスがプラスになることが本当にわかるためには、温度とお金以外のマイナスを理解するのが必要なんだ。」
子「温度とお金以外だと数直線とか?」
親「それもある。でも数直線や、高さ・深さ、好き嫌いなんかの考え方を足しても、負の数のかけ算は出てこない」
子「えーっ!?じゃあ何やると出てくるのさ」
親「温度、貯金額、数直線などは、「今どこにいるか」を表す量になる。そしてかけ算というのは「作業」をかけるものなんだ」
子「なんじゃそりゃ。でもなんか長くなってきたね。ちょっとお水飲んできてもいい?」

休憩


親「今までの話をまとめよう。かけ算は異なる単位のものをかける。だからマイナス×マイナスを考えるためには2種類のマイナスを考えないといけない。そのためにマイナスの作業を理解する必要があるよ。ってことだった。」
子「うん」
親「最初の例に戻ろう。100円を3回振り込むと300円の貯金になる」
子「うん」
親「+100円を100円の貯金とすると、-100円は100円の借金と考えて良い」
子「うん。そこまではわかるんだよ」
親「大事なのは、-100っていうのは+100の反対、ってことなんだ。西に100mを+100と書くなら、東に100mは-100とかける」
子「実はその辺からモヤモヤするんだよね。東を+100って書いちゃダメなのはなんで?運勢が悪いから?」
親「別に東を+100、西を-100って書いても良い」
子「そしたら+100って書いてもどっちかわかんなくなっちゃうじゃん」
親「その通り。北に100かもしれないし、南南西に100かもしれない。それは、その場その場で決めた、その場だけの約束事なんだ。
子「誰が決めるの?」
親「問題に書いてあったら問題が決める。書いてなかったら自分で決めて良い。ただし、一度決めたらその問題の中では変えてはいけない。」
子「遊びのルールみたいなものね。キーパー無しってルールではじめたのに途中でキーパー増やしたりするのはダメなのね。」
親「そうそう、その通り。こういうのを数学では定義と呼ぶ。定義は、好きに決めて良いんだ」
子「でもあるときは西に行く話をしていて、別の時は体重が増えた・減ったって話をしてたら、答えがかわっちゃうんじゃないの?」
親「それが変わらないんだな~。いつでも-100×-3=+300なんだよ」
子「どうして?絶対?」
親「絶対。正しく定義すれば。数学って言うのはそういう絶対に正しいものを追求する学問なんだ。」
子「なんか難しいこと言い出したね。よくわからないよ」
親「ごめんごめん。ここは大事なところなんだ。今は西と東、上と下、貯金と借金という正反対のものがあったら、片方をプラス、反対をマイナスと君が決めて良いんだよ。って話だったね。
子「まあそこまではわかった」
親「じゃあお金の振り込みの反対は?」
子「お金を引き出す」
親「3回振り込むのを+3とするなら、-3は?」
子「3回引き出す」
親「そのとおり。次。3日先の未来を+3とすると、ー3は?」
子「3日前の過去」
親「わかってるじゃん」
子「うーん、とするっていうのが、さっきいってた定義なの?」
親「お、鋭い。その通りだ」
子「3回振り込むのを+3とする、っていうのは、誰が決めても良いけど、問題に書いてあったら問題が決める。書いてなかったら自分で決めて良い。ただし、一度決めたらその問題の中では変えてはいけない。だっけ。」
親「そうだ」
子「3回振り込むのが+3なら、三回引き出すのが-3っていうのは自動的に決まるの?」
親「これは自動的に決まる。マイナスの数はプラスの数と完全に反対で無いといけない」
子「それはいいんだけど、、、反対って何?振り込みの反対は引き出しってどういうことだろう。ちょっと不安になってきた」
親「君の今の不安は、正の数・負の数を理解するために一番大事なポイントだ。ー3ってのは、-3の後に+3をやったら元に戻るもの、だ」
子「それも定義?」
親「そう、教科書の裏側にある、大学の数学、群論ていうんだけど、そこで定義されているルールだ」
子「-3をやって+3をやったら元に戻るってことは、3回振り込んで三回引き出したら元に戻るから、3回引き出すが-3ってことか」
親「そう」
子「あたりまえっちゃ当たり前だけど、迷ったときにルールがあると安心だね。3日未来に行ってそこから3日過去に戻ったら何もしないのと同じだから、-3は3日過去ってことね」
親「そうだ」
子「4日過去を+4にしたら、4日未来が-4になるけど良いの?」
親「さっきの定義と別の場所でやるなら良い。」
子「借金を+100円、貯金を-100円でも良いの?」
親「全く問題無い。負の数は悪いもの、ネガティブなもので無くても良いんだ。正の数が不幸なもので、負の数が幸せなものでも全く構わない」
子「でもそんな例あるかな」
親「あるある。いっぱいある。例えば女性のダイエットの広告はデカデカと-15kgとか書いてるよ」
子「女の人は痩せたがってるもんね。そんで若く見られたがってる」
親「そうそう、体内年齢-10歳みたいなのもあるね
子「負の数ってのは、正の数の反対。それだけの意味なんだ」
親「もう準備はバッチリだ。100円玉を3回貯金したら+100×+3=+300と定義しよう。そしたら-100×-3はいくつになるだろう。アンチエイジング体操をしてリフレッシュしてから考えよう」

休憩

子「よし、じゃあ考えてみるよ。最初の-100は100円の借金。-3は3回引き出すこと」
親「そうだね」
子「あれ?100円の借金をひきだすってどういうことだろう」
親「ちょっとわかりにくいな。こういう時は「マイナスは反対」ってのを思い出そう。-100×3=-300だから、100円の借金を預けたら100円借金が増える。」
子「そりゃそうだ」
親「じゃあその反対だから・・・」
子「100円借金が減るのか。借金を引き出すというか借金を減らすって考えたら良いのね」
親「それを3回やるのが-3をかけるってことだから」
子「借金が300円減る」
親「ってことは?」
子「貯金が300円増える」
親「正解」
子「100円の借金を増やすのが-100を足す。0+(-100)=-100ってやつね。100円の借金を減らすのが-100円を引く。0-(-100)=+100。貯金が100円増える。それを3回やるのが-100×(-3)=+300。」
親「完璧」
子「なんかあっけないな」
親「そうよ。だから教科書にも問題集にも特に詳しく書いてない。でも本当はこれくらい考えて納得してから進むべきなんだ。君がモヤるのは間違っていない」
子「定義の話があったけど、貯金を-100にしても、西を-100にしてもやっぱり-3をかけたら+300になるの?」
親「もう何となくわかってるだろ。-100というのは100の反対。-3というのは+3の反対。-100×-3は100の反対に3の反対の操作をかけるから、反対の反対でプラスになる」
子「借金×借金ていうのも、もしできれば、やっぱりプラスになるって考えても良いの?」
親「そう考えてもいい。でもそれはもう貯金では無い。そもそもお金では無い」
子「どういうこと?」
親「同じ単位のもののかけ算ていうと、典型的なのは面積の計算だ。タテ3センチ×ヨコ5センチってやつ。これは長さ×長さで面積になる。出てきた数字は15平方センチという面積で、元の長さとは別のものだ。3センチと15平方センチは、足すこともできなければ大小を比べることすらできない」
子「お金かけるお金だったら平方円になるの?」
親「そういうことだ」
子「平方円てなんだ?よくわからない」
親「だからよくわからないものだ。無理矢理考えたければ考えても良い。但し貯金でも無ければ100円より多いとも少ないとも言えない、全く別のものだ」
子「さっきはそんなものは無いって言ってたじゃん」
親「そんなものは無いって言ってしまっても良い。でもね、数学って「そんなものはない」ってものを無理矢理考えて発展してきたんだ。だから数学が好きな人は「そんなものは無い」って言わずにその変なものを考えるのが好きなんだ。だから繰り返すけど、無理矢理考えても良い。でもお金では無いべつのものだ」
子「ふーん。まあいいや。最初の質問の借金×借金は正の数にはなる。でもよくわからない平方円というもので、貯金にはならない。こういうこと?」
親「その通りだ」

終わり



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?