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アーカンソー州の鉱泉に行ったときの話

 日本に住んでいれば温泉に行くのはとても簡単だけど、今住んでいるアメリカ中西部の州には温泉が出ない。グーグルマップで温泉を探すと、コロラド州、サウスダコタ州、アーカンソー州などに温泉は点在していて、直近でも車で12時間以上の距離にある。

 5月の半ば、ぽっかりと一週間休みが取れた夫につきあい私も有休を申請した。温泉行きたいねー、と話していたが温泉に入るためだけに片道12時間も運転したくないという夫の意見も取り入れて、車で8時間のアーカンソー州ユーレカスプリングスに行った。8時間でも充分遠いのだが、土地の構造上それくらい行かないと何も無い。厳密にはここで湧出するのは熱くない鉱泉で、さらに4時間南下すれば天然温泉の湧くその名もホットスプリングスの町がある。

 ユーレカスプリングスも昔は保養地として鉱泉浴場が立ち並んでいた歴史がある町。そこに、一軒だけいまも天然鉱泉に入浴できるPalece Bath House and Spaという施設が残っていた。



 日本で温泉と聞いて私が思い浮かべるのは温泉旅館の露天風呂やら岩風呂。夕食の前や就寝前はもちろんのこと、朝湯に入ったり。お湯はいつでも浴場にあるのだし、外で川のせせらぎや海の波の音を聞きながら温かいお湯にいつでも入れるのが当たり前だった。


 アメリカの1900年代初頭のバスハウスは病院のような雰囲気だ。実際、昔は療養目的が多かったのかもしれない。ここでの入浴はアポをとって個室で1人、琺瑯製のタブに浸かるというシステムだった。時間通りに着いた私たちは事前に係のお姉さんがタブに溜めて置いてくれた鉱泉に浸かる。私の背丈には大きすぎるタブで、思いきり脚を伸ばしてもタブの反対側に届かなくて身体が浮いてしまう。落ち着かない。
 15分ほどでお姉さんが戻ってきてドアをノックし、「そろそろ蒸し機に入りますからタオルを巻いて出てきてください」という。個室から出ていくと、温泉饅頭を蒸すような大きな木製の機械から頭だけ出して首から下を蒸気で蒸す事になった。

 係の人が蓋をしめて行ってしまったあとで箱の中の蒸気がとても熱くなってきて不安になった。でもちゃんと途中で熱さはどうかチェックしに戻ってきてくれたので、蒸気を調節してもらった。そのあと、マッサージの個室に移って、全身のマッサージとクレイパックの施術が終わるころにはすっかりリラックスしてほろ酔いのような気分に。


 スパをでてから少しユーレカスプリングスのダウンタウンを散策した。街のあちこちに湧水がある。坂の途中にへばりつくような街並みはとても道が狭くて土産物屋でごちゃごちゃしていたので、スパの余韻が消える前に車に戻り、少し離れた場所で遅い昼食をとった。