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オバケのいる学校

ある町に、はなまる小学校という学校がありました。
そこでは300人くらいの子たちが毎日勉強をしていました。

その学校には少しだけこわいお話がありました。
3階のいちばん奥のトイレにオバケが出るという話です。

3年1組はそのトイレに一番近い教室でした。
その組にはシンゴ君という子がいました。

シンゴ君は勉強もできて、運動も上手、教室のみんなとも仲良しでした。
とてもまじめな子なので、みんなの賛成で学級委員長になりました。

学級委員長のお仕事は大変です。
みんなより早く学校に来てその日のおしたくを始めないといけません。

シンゴ君はとても真面目な子なので、他の教室の学級委員長よりもっと頑張ります。 毎日、授業は午前9時から始まりますが、シンゴ君は毎日午前8時に学校に行きます。

先生たちも来ていない時間なので、どの教室も廊下も電気がついていません。まずは廊下の電気をつけてから、自分の教室に向かうシンゴ君。

学級委員長はそれぞれの教室のドアのカギを持っています。
ですが3年1組のドアのカギは古くてなかなか開きません。

シンゴ君もこれにはとっても苦労しています。
いつも開けるまでに5分くらいかかります。
今日もやっぱりなかなか開きません。

つかれてしまったシンゴ君、少しお休みしていました。
手がシビれてしまっています。

少しお休みしてからまたカギを開けようとしたシンゴ君。
とつぜん、ななめ後ろから誰かが自分を見ているような気がしました。

ふり返ってみましたが、男の子のトイレがいつものようにあるだけです。
気のせいだと思ったシンゴ君、カギを開けることに集中します。

いつも大変なカギ開けですが、今日はとくに大変です。
シンゴ君はとてもつかれてしまいました。

ちょっと床にすわって休もうとしたその時、
「そのカギ、少しだけ上に動かすと簡単に開けられるよ。」
後ろからいきなり声がしました。

いきなり声が聞こえてとてもおどろいたシンゴ君。
そーっと後ろをふり返ります。

でも、やっぱりそこには誰もいません。
男の子のトイレがあるだけです。

そーっとトイレの中をのぞいてみます。
でも、やっぱりそこには誰もいません。

「誰かいるの?」

おそるおそる聞いてみます。
でも、何も返ってきません。

やっぱり気のせいだったと思ったシンゴ君。
教室のドアまで戻ろうとしたその時、

「僕の声が聞こえるの?」

やっぱり誰かの声が聞こえます。
シンゴ君、ちょっとこわくなりました。
それでも勇気を出して返します。

(ここから先はシンゴ君の言葉が大きく見えます。)

「聞こえるよ、君は誰?」
「僕は、名前がないから分からないの。」
「なんで名前がないの?」
「覚えてないの。」
「お父さんとお母さんはいないの?」
「いないみたい。」
「君は今どこにいるの?」
「君の目の前に立ってるよ。」
「でも見えないよ。」
「うん、誰にも見えないみたい。声が聞けたのも君がはじめて。」
「そうなんだね。僕まだちょっとこわいや。」
「僕と話してるのはいや?」
「ううん、やさしそうな声だと思う。」
「ありがとう。人と話すのひさしぶりだから、僕すごくうれしい。」
「ずっと一人だったの?」
「うん。」
「どれくらい?」
「わかんない、ずっとずっと一人だった。」
「ずっとこのトイレにいたの?」
「うん、外には出られるけど、みんなが楽しそうにしてるのがうらやましくて、みんなを見てるともっとさびしくなるから、ここにしたんだ。」
「じゃあ僕がはじめての友達だね。」
「とも、だち?」
「こうやってお話してるんだから、友達でしょ?」
「僕、君から見えないのに友達になれるの?」
「見えなくたっていいじゃん。楽しくお話できれば友達だよ。」
「ほんとに?」
「僕が友達じゃいや?」
「ううん、すごくうれしい。」
「じゃあ、これからよろしくね。」
「でも他の子には僕の声が聞こえないから、ちょっとこわがられるよね。」
「それなら今日みたいに朝早くからお話しようよ。」
「いいの? ねむくない?」
「僕、朝早く起きるの得意なんだ。」
「よかった。 僕はねることもできないから。」
「ねむれないの?」
「うん、だから夜の間はずっと学校の中を歩いてるの。」
「そうなんだ、夜でもお話したいけど、先生におこられちゃう。」
「うん、だから朝だけでもお話できればうれしい。」
「うん、そうしよう、僕そろそろクラスに戻らないといけないから。」
「そうだね、じゃあまた明日。」
「うん、また明日。」

それから毎日、シンゴ君はだれよりも早く学校に行きます。
教室に誰もいないあいだは、友達もトイレから出られるので、教室の中でお話をします。

友達は勉強が苦手だったようです。
シンゴ君は、国語の本を読んであげたり、算数の計算を教えてあげました。
むずかしい漢字を書いてみせてあげたり、図鑑を広げていろんな動物をみせてあげたりしました。
友達も勉強が好きになっていきます。
勇気を出して、授業に出てみることにしました。

教室の後ろのほうにすわりながら先生の話を聞いています。
誰にも見えないので、誰もきづきません。

シンゴ君、先生からの質問にどんどん答えていきます。
1つも間違えません。
友達はそれを見ながら感心していました。

次の日も、2人の会話はつづきます。

「シンゴ君はなんでそんなに勉強ができるの?」
「毎日家で勉強してるからだよ。」
「どうしてそんなにがんばるの?」
「僕ね、将来はお医者さんになりたいんだ。」
「そうなんだね。」
「君はなりたいものあるの?」
「僕は、わかんないや。 誰にも見えないし、何にもできないよ。」
「僕は君の声が聞こえるんだし、君が見える人もいるかもしれないよ?」
「そうかな?」
「そうだよ。だからその時のためにもやりたいことを決めておかないと。」
「うん、僕考えてみる。」
「そうだよ、だから勉強を頑張らないとね。」
「うん。」

そんな毎日がつづいていたある日、事件が起こってしまいました。

その日は同じ教室のタケシ君がいつもより早く学校にきました。
サッカーの練習をするためです。
シューズをクラスに置いてあるので、シューズをとりに行きます。

タケシ君が教室の近くまで歩いていると、話し声が聞こえます。
こんな早い時間に誰がいるんでしょう?
そーっとクラスの中をのぞいてみます。

そこにいたのはシンゴ君。
教科書をゆびさしながら、ずっと話しつづけます。
他に誰もいないのに、ずっと話しています。
タケシ君、少し気持ち悪くなって教室には入りませんでした。

タケシ君は学校でも有名なイタズラっ子です。
先生や他の子たちをこまらせるのが大好きなタケシ君。
シンゴ君をこまらせることを思いつきました。

はなまる小学校では、教室で一日のおわりに「帰りの会」をします。
シンゴ君のいる3年1組も同じです。

その日の帰りの会、先生が明日の授業のお話をしている時。
とつぜん、タケシ君が手をあげました。

「どうしたの、タケシ君?」
「先生、僕、今日の朝は早めに教室に来たんです。
 そしたら、もうシンゴ君が来てたんです。」
「シンゴ君はいつも朝早くからおしたくをしてくれてますね。」
「シンゴ君、誰もいないのにずっと話してるんです。」
「どういうことですか?」
「ずっと話してるんです。」
「シンゴ君、それは本当なの?」

シンゴ君、がんばって説明しようとします。

「僕にも見えないけど、友達がいるんです。」
「友達?」
「声だけが聞こえるんです。」

もっとシンゴ君をこまらせようとするタケシ君。

「おかしいよ、シンゴ君。声だけが聞こえるなんて。」
「でも、聞こえるんだもん。 すごくやさしい子だよ。」
「じゃあなんで僕には聞こえなかったのさ?」
「僕にだって分からないよ。」
「じゃあやっぱりシンゴ君がおかしいんだよ。」

とってもこまってしまったシンゴ君。
タケシ君に言い返そうとしますが、うまく説明できません。
ちょっと泣きそうになってしまいました。

すると、黒板の横にあったチョークが動き出しました。
ゆっくりと、黒板に文字が書かれていきます。

「シンゴ君をいじめないで」
「シンゴ君の言っていることは本当だよ」
「見えないけど、聞こえないけど、僕はいる」
「これ以上シンゴ君をこまらせたら、ゆるさないぞ」

先生とみんな、信じられずにおどろいています。

シンゴ君はうれしくて友達にお礼を言いました。

「ありがとう、君が友達でよかったよ。」

黒板にまた文字が書かれます。

「僕のほうこそありがとう」


教室のみんな、はじめはおどろいていました。
でもシンゴ君の言うことを信じはじめました。

その日から、友達は教室の一員になりました。
みんなで友達に話しかけます。
シンゴ君が友達のかわりにみんなに答えます。

授業にも堂々と参加できるようになりました。
先生も友達に質問したりします。
シンゴ君がかわりに答えます。

あのタケシ君も、友達となかなおりしました。
今ではシンゴ君と同じくらいなかよしです。

そんな楽しい日々が何か月も続きました。


でも、それはあまり長く続きませんでした。
とつぜん終わりをむかえます。

その日も朝早くから教室にきたシンゴ君。
タケシ君はもっとはやく来ていました。

教室に入ると、タケシ君が泣いています。
シンゴ君が理由を聞くと黒板をゆびさします。

黒板にはこう書かれていました。



シンゴ君とみんなへ

今までありがとう
みんなと話せて本当に楽しかったよ

僕ね、シンゴ君といっしょにお医者さんになりたい
だから、もっと勉強がんばるね

あのね、お父さんとお母さんがむかえに来てくれたんだ
今、横で待っていてくれてるの

みんなと会えなくなるのはさびしいけど
やっぱり2人といっしょにいたい

シンゴ君、お母さんから聞いたんだけど
僕の名前、シンゴ君と同じだった
キセキってあるんだね
シンゴ君に漢字教えてもらったけど、まだうまく書けないや
もっと勉強しないとね

そろそろ行くね
またいつかみんなとお話したり、一緒に勉強できたりしたらいいな

シンゴ君、みんな、

元気でね
さようなら

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