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着物の美と京友禅

「着物に興味ある?」

大学の先輩から不意に来たメッセージ。
その先輩のご実家は京友禅をやっているといい、良かったら染めの現場を見に来ないかとの内容だった。

そんな素晴らしすぎるお誘いありますか?
というか先輩のご実家すごくない?

有難すぎるお声がけにすぐさま返信をし、トントン拍子で話をつけて頂き、京都へ行く日程が決まった。京都の学校でテキスタイルを勉強している友人と共に足を運んだのは、京都駅から程近い西大路駅。

吉江染工さんは、京都でも珍しい一貫製造を行う工房さん。京友禅は分業体制が一般的であるので、1つの工房で京友禅のすべてを見学出来るのはとても貴重なこと。ニ代目から一貫製造へとシフトしていったそうな。

京友禅とは、着物の生地を染める技法のことで、伝統工芸である。金沢の加賀友禅、東京の東京友禅と並ぶ三大友禅の1つであり、その中で最初に生まれた友禅だ。従来は絞りや刺繍、箔を施すことが主流であったが、華やかすぎると幕府からの奢侈禁止令により、友禅染めの技法が誕生することとなった。

吉江染工さんでは、

図案、型彫り、色合わせ、板場友禅、引き染め、手差し友禅、蒸し、水洗、湯のし、金加工、刺繍、地直し、仕立て(外注)

を行う。1枚の着物が仕上がるまでには2~3ヶ月もの時間を有する。

図案は昔からのストックも使うとのことで、今は使われていない程古い型紙も見せて頂いた。

超!絶!技巧ッ

これを人の手が生み出しているなんて考えただけで震える。このような柄の他に、縦縞の型紙も見せて頂いたのだが、(写真は無い)これがすごい。髪の毛のような細い縦縞が並んだ型紙。千や万の名で呼ばれる程に細かい縦縞。万と呼ばれるまで細かい技術を持つ職人さんは、人間国宝に指定されていたそうだ。

縦縞の型紙に関わる職人さんにはもうひとり人間国宝がいる。糸入れという工程を担当する方。柄がずれないようにするために、絹糸を使って型紙を固定するのだ。予め2枚の型紙を彫り、その間に糸を渡して柄を固定する。縞と縞がずれないように型紙をぴったりと合わせる繊細な技術だ。私達はその説明を聞くだけでため息が出た。もうその国宝級の技術は無いとのことで少し寂しく思ったが、そんな素晴らしい技術があった事実に感動した。

他にも、実際に型紙を彫る様子や板場友禅の型染めの様子など見学したが、印象的だったのは引き染め。模様以外の地を大きな刷毛を使い全体を染めていく。地染めは染料にどぶんと浸けている訳ではないのだ。伸子(しんし)という道具で反物を張り、細長い部屋に渡して染めていく。その際、染めムラのみならず乾燥のムラにも気を遣う。その日の気温や風の様子で染まり具合が変わるため、天気に気を配らなければならない。日々、長年、やってきたからこそ成せる技だ。



反物が仕上がるまでには様々な工程を経るが、その方向は一通ではなく、行ったり来たり、その反物によって様々。細やかな工夫をたくさん凝らして完成する反物によって作られるお着物の美しさは、荘厳で圧倒的であった。


「着物は芸術品ではない、人が着て機能し美しくあることが大切。」


吉江染工の三代目はこう語った。美しさの象徴であるような着物でさえ芸術品ではなく、衣服であり、人が着るということが最も重要であるのだ。人をより美しく見せるための衣服に関わる職人さんたちの手と眼差しは何よりも美しい。



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