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アパレル販売を辞めてアパレル販売を始めた話

「店長、私、ここのバイトを辞めたいと思ってます!」
緊張のあまり、前振りもなく唐突にそう言い放った。

高校三年生の時、オープニングメンバーとしてアパレル販売のアルバイトを始めた。無事に採用され、カジュアルファッションを取り扱うチェーン店のアウトレット形態の店舗に勤めることになった。家からも近いし高校生でアパレルバイトができるなんて、と意気込む18歳の私。その時から丸2年が経ち、ついにそこでのバイトを辞める。

広いひろい店舗に並ぶアウトレットの商品たち。そのどれもが型落ちや売れ残りであるため、どうしてもぞんざいに扱われる。段ボールにぱんぱんに詰められた洋服たちはすぐさま値下げプライスが貼られ店頭に並ぶ。ラックから落ちて埃まみれになることだってしょっちゅう。畳みの商品はすぐに乱れ放題になる。あっという間に毛玉がつくし、生地の質も縫製も、良いとは決して言えない。値下げに次ぐ値下げ、割引に次ぐ割引。働く中で、服の値段とは…?と何度も考えた。と同時に、この服を作っている人とは?この服を買う人たちとは?と疑問がわいてきた。タグには“made in japan”の文字はほとんどない。どこか国のどこかの工場でミシンを踏むどこかの誰かに想いをはせた。こんなに安い値段で服が売れていいはずがない、私はそう何度も思った。それをきっかけにして、まっとうなファッションの生産・消費に興味を持つようになった。「1000円のジーンズ」だなんて話題になったが、それよりも安価な服に囲まれ働いてきたことで、真剣に服に向き合いたいと思うようになった。

ここで働き続けるわけにはいかない、まっとうな価格でまっとうに服を売りたいという気持ちを抱えていた私が出会ったのが、とあるセレクトショップ。そのお店には、生地も仕立てもデザインもこだわりぬかれた洋服たちが整然と並んでいた。そこへやってくるお客さんも、しずかに丁寧に洋服を選ぶ。ああ、そうだ、「一着の服を選ぶってことは1つの生活を選ぶってことだぞ」と山本耀司氏が言っていた。服を選ぶということは、簡単にしてはいけない気がする。生地の産地、丁寧なつくり、生産背景、適正な価格…そういったものも配慮したうえで服を買うに至るというのはとてもまっとうだと思う。もちろん、それが正しいというわけではない。そんな小難しいことを考えずともファッションは楽しめるし、むしろ考えないほうが楽しいかもしれない。けれど、知っているということが重要であると私は信じている。

そのセレクトショップのオーナーさんとお話をする中で、流れるようにそこで働く運びとなった。それを機に、冒頭の話へと進んでゆく。アパレル販売からアパレル販売へ。服の両極端を知る経験。



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