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キャプテン・キングの英雄譚

キャプテン・キングの英雄譚 
 
 俺という眠れる魂を呼び起こしたのはお嬢ちゃんかい? なんて罪作りな女なんだ! 欲しいと呼ばれれば、俺はそれに応えざるを得ないと、そう分かっていて? 甘い声で俺を呼ぶお前に、くれてやれるものなど、俺にはたったひとつしかないというのに!
 阿呆な男、莫迦な男。そう呼ばれたことは数知れず、そんな男をお前が呼ぶというのなら、くれてやろうじゃねえか、俺様を!
 誰にも秘密だ、お嬢ちゃん。俺はお前のためだけに、宝の山を見せてやる。俺はしがない船乗りで、船長なんかをやっていた。暇に任せたその日々に、七つの海に飽き足らず、幾多の紺碧(あお)を越えて来た。
 レーヌの畔でぶんどった、傷一つないエメラルド。こいつがどんなお宝か、女のお前が知らねえとは言わせない。一際粒の大きな奴は陽に透かせ。緑も絳も本物だ。耀き違いの金緑石。秘めた想いを曝け出せ。
 ナポリの港で引っかけた、血の色をした大玉ルビー。鳩の血とまでは行かねえが、張りある肌に、良く似合う。情熱の炎に気をつけろ!
 カスピの沖で手に入れた、翡翠なんかも大量だ。中にはちっと夕焼けの、海に染まったやつもある。お前を彩る宝石にゃ、物足りないかもしれねえが、守り石には使えるはずだ。
 飽きれて見せるな、お嬢ちゃん。とっておきはまだまだあるぞ。
 大空を飛ぶ鳥を追い、金剛石を見つけたことも、英雄譚にゃあ欠かせねえ。珊瑚、スピネル、ガーネット。黒曜石にアメジスト。耳飾りにはいかがかな?
 こいつら全部を奪うには、穏便なんかじゃ済まされねえ。刃も罠も、血も汗も、なにもかにもを詰め込んだ、お宝箱をとくと見ろ!
 自慢の宝をしまうのは、無粋な金の箱じゃない。
 天使の寄越した白い羽、蘭の花びら敷き詰めた、絨毯だけだと思うなよ。
 俺は船乗り、船長だ。幾多の海を渡り終え、ようやく陸でお前と逢った。
 宝の山を乗っけるに、海賊船よりふさわしい、場所が他にあるものか!
 単なる船と笑うなよ。こいつは特別手をかけた。メインマストは当然に、木材全部、生え抜きよ。錆びた釘などひとつもねえし、十二のセイルは天鵞絨だ。きめの細かな編み目のやつを、俺様自ら選び抜き、三年かかって見付けた逸品。頬擦りしても良く分かる、なめらかな手触りは本物の中の本物よ。
 太平洋を一周し、太陽に焼かれて良く動く。どんな嵐も凪の日も、灼熱地獄も共にした、俺様自慢の大船だ。
 航海に疲れたこの俺の、魂を呼んだお嬢ちゃん。
 ここで出逢うのは運命だった。俺は迷わずそう言える。
 空の星みてえなその瞳に、俺の魅力が映っていれば、遠慮はいらねえ、齧りつけ。まずはめったに晒せねえ、俺の首筋なんかどうだい? お前の熱を待ちかねて、咽喉仏がごくりと動く。焦らすな、頼む、お嬢ちゃん。
 そこでようやくお前は俺に、くふんと笑みを見せたんだ。
「一度やってみたかったからって、ほんとにホールでタルト買う~?」
 海鳥の声には耳を貸すな。さあ、お嬢ちゃん! 早くその銀のジョリー・ロジャーを俺の身体に突きたてて、お前という海に溺れさせてくれ!



お題は「フルーツタルト」です。
子供の頃考えていた、大人になったらやってみたいことのひとつに、おいしそうなケーキをホールで買って一人で食べる、というものがありました。
ホールケーキを切り分けずに、フォークでぐさっと食べたいところから食べるやつです。

大人になって、分かりました。
大人は大人でも、早めの二十代前半にそういう系は全てやりつくした方がいい、と。
三十超えると、生クリームが重たくて、2ピースすら怪しくなります。
焼肉食べ放題も、元を取るのが難しいお年頃です。
さあ、若人よ。
今のうちに全てを食べつくしておくのです。
多少の贅沢も、憧れた経験と引き換えなら、人生を豊かにする充分な投資となりますよ!!!

心の底からの、作者のアドバイスでした。

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