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リース会計基準の大型改訂を読み解く

実務担当者が恐れていたリース会計基準の改訂案が公表されました。
多くの会社に共通して影響がありそうな点をざっくり見ていきましょう。


てりたまです。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めました。

いよいよ、日本のリース会計基準もIFRS、米国基準に追いつきます。
2023年5月2日、ASBJより改訂案が公表されました。
会計基準と適用指針を合わせて109ページ、これに加えて設例がちょうど100ページあります。

コメント募集文書や結論の背景を手がかりに、たくさんの会社に影響がありそうな点をまとめます。
読んでる時間がない場合は、目次だけでも見ていってください。

最重要な変更点

まずは経理や監査人だったら、今の段階でも知らないと恥ずかしいかも、という点から挙げます。

❶ 改訂は借手リース取引が中心、貸手の改訂は限定的

❷ 借手はファイナンス・リース、オペレーティング・リースの区別がなくなり、一律に資産、負債を計上する

新基準では、オペレーティング・リースも資産、負債計上します。
リース資産の勘定科目も変わります。

有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産の区分に「使用権資産」として表示します。なお、原資産の勘定科目(建物及び附属設備など)に含める表示も選択できる(含めた金額を注記)ことは、現行基準のリース資産と同じです。

❸ 所有権移転リースと移転外リースとで減価償却が異なる

所有権移転か移転外かの区別は残ります。
移転する場合は、減価償却方法、耐用年数、残存価額は原資産と同じ。
移転しない場合は、実態に即して原資産と異なる減価償却方法を適用でき、リース期間にわたって残存価額ゼロまで償却します。


その他注意するべき点

❹  リース期間の見積りに注意

使用権資産の計上額を算定するために、また償却期間を決定するために、リース期間が重要になります。
リース期間は、次のように算定されます。

「合理的に確実」がキーワードで、この解釈次第でリース期間はいかようにでも変わります。改訂案の検討過程ではこの言葉の見直しも議論されたようですが、IFRSの文言(“reasonably certain”)から変更するだけの理由は見いだせないとして、直訳のままとしています。

土地や経済的耐用年数の長い建物などを賃借する場合が悩ましいですね。
先回りして設例も用意されていますが(設例8-1~8-5)、機械的に計算できるわけではないので、もやもやが残ります。

気をつけないといけないのは、ほかの会計処理との整合性です。
資産除去債務で「永遠に借りるから見積れません」と言っていたり、減損会計のキャッシュ・フローを長期間にわたって見積っているようなときに、関連する使用権資産のリース期間は短期間だというのは自己矛盾しているかもしれません。

❺ 少額リースの基準に苦悩のあと

実務的にありがたい少額リースの簡便な処理ですが、日本の会計基準に米ドル建の閾値が明記され、物議をかもしています。

適用指針の結論の背景を読むと、「これまでの日本の実務を継続できるようにしたい(∴300万円)」vs.「IFRS適用企業に対して、単体だけ異なる処理を強いたくない(∴5千米ドル)」と悩んだ結果、両方OKにした、と苦渋の決断が伝わります。

上記の(1)、(2)①、(2)②はそれぞれ検討する「単位」が異なりますので、注意してください。

❻ 単体にも適用される

連結と単体とで異なる会計処理を認める理由がない、とのことで、今回の改訂は単体にも適用されます。ただし注記については、連結で開示していれば一部を除いて省略できます。

IFRS適用会社の場合、GAAP差に要注意です。
少額リースでも触れたように、GAAP差は極力排除されていますが、一部の差は残ります。
例えば、セール・アンド・リースバックについては米国基準に準じた処理になっているため、IFRSとの差があります。そのほかにもあるかもしれませんのでご留意ください。

❼ 適用時期は、公表から2年程度

改訂案では正式な公表時期は記載されていませんが、8月までコメント募集していますので、それ以降になります。
日経の記事では「3月期企業なら早ければ27年3月期、2月期企業なら28年2月期から適用される見通し」とのことです。


おわりに

ASBJからは会計基準と適用指針の新旧対照表も公表されていますが、これを見ると現行基準から大規模に改訂されていることが分かります。
ここで取り上げた以外にも変更点はあり、各自読み込んでいただくしかないのですが、この記事がその際の手がかりになれば幸いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはTwitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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