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監査法人は、なぜ減損させたがるのか

企業と監査法人とで、減損でもめることがよくあります。
例えば、土地・建物や機械など固定資産の減損。もうかっていないビジネスの工場がやり玉に挙げられます。
企業側としては、その事業部では社長の指示ですでに対策を始めているし、監査法人に言われたとおり資料も作成している。それなのに、毎回違うところに文句をつけてくる。謎の情熱で、なんとか減損させようとするので困る。というところ。

私も監査パートナーとして、四半期ごとにCFOと何時間もかみ合わない議論したクライアントがありました。
当時のCFOには申し訳なかったですが、今になって思うと、かみ合わない理由は「重要な仮定」の考え方にありました

会計上の見積りのポイント、「重要な仮定」とは

減損会計の適用のように、将来が不確実なときに、仮定を置いて金額を決めて会計処理します。これを「会計上の見積り」と呼んでいます。
減損会計や税効果会計で必要になる将来の事業計画は、仮定のかたまりです。市場規模がどう変動するか、シェアは変わるのか、価格は上がるのか下がるのか、新製品は開発できるのか/どの程度の売上になるのか、コスト高になるのか低減できるのか、急成長する場合は供給が追いつくのか、などなど。

監査法人は、無数の仮定から「重要な仮定」を選んで深掘りします
重要な仮定とは、見込みを外す可能性があり、外した場合に会計処理に大きな影響を与えるような仮定です。
「新製品の開発に成功する」という仮定は、その新製品によって利益が大幅に増えるのであれば「重要な仮定」ですし、小規模でほとんど影響がなければ「重要」にはなりません。
「市場規模が毎年3%成長する」といった仮定は、よほど小さいビジネスでなければ、「重要」になります。

重要な仮定は、同じ会社の同じ論点でも毎年の状況によって変わります。
もうかっていたビジネスがもうからなくなると、よりシビアな検討が必要になるので、重要な仮定を新しく取り上げたり、一個一個を詳しく見ていくことになります。
また、原材料や商品を輸入するビジネスでは、急に円安になると、しばらくは在庫でしのいでいても、いずれ利益を圧迫するので、為替相場が重要な仮定になりえます。

監査法人に対抗するための理論武装

監査法人が毎回勝手に重要な仮定を決めて突っ込んでくるのは、フェアでないと思われるかもしれません。
監査法人に対抗するために企業の経理部門ができることは、

  • 重要な仮定になりそうなものを先回りして特定する

  • 事業部門が作ってきた計画をたたいて、重要な仮定を中心に証拠固めをする

  • 監査法人が、思わぬ仮定を重要だと言ってきた場合は、重要でないと考えた理由を説明する

特に、計画の未達が続いていると、「この会社は計画の精度が低い」ということになり、個々の仮定をより強力な証拠で裏付けることが求められます。

実は、これら三つのうち最初の二つ、「重要な仮定の特定」と「証拠固め」は、内部統制として必要な作業です。
また、三つ目の「監査法人への説明」は、最初の二つが機能していればできるはずです。
いつも防戦一方で、言われたい放題になる、ということは、内部統制が十分でない、とも言える状況です。監査法人側の言い分になってしまって申し訳ありません。

そもそも「重要な仮定」は、会計や監査以前に、経営としても重要なはずです。
将来のことはどうなるか分からない、というのはそのとおりですが、それでも年度計画は立案し、多くの会社は中期計画も公表しています。そこで「売上高は5%成長で、よろしく」と安易に決めていると、未達の場合に何を読み誤ったか投資家に説明できず、リカバリープランも抽象的で説得力のないものになってしまいます。

監査法人の問題も…

もちろん、監査法人が反省するべき点もいろいろあります
前期より状況は改善しているのに、前期忘れていた重要な仮定を持ち出してきたり、期中に分かっていたはずの議論を決算発表直前に始めたり。
これについては、私自身も心苦しい点があり、別の機会に監査法人向けに書きたいと考えています。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、これまでの投稿より会計や監査に振ってみました。迷いながら手探りで進んでいますので、この投稿へのコメントや、Twitter(@teritamadozo)などでご意見をいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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