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内部統制の問題を「なぜなぜ分析」で掘る【内部統制ガチ勢向け】

「我こそは内部統制を担う者なり」との自覚のある皆さまを「内部統制ガチ勢」と勝手に命名させていただきました。企業で内部統制・内部監査部門や経理部門にいらっしゃる方々、その他内部統制を担当されている方々を想定しています。内部統制にこだわりたい監査人も含めちゃいましょう。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

トヨタで有名な「なぜを5回繰り返せ」。
不具合が起こったときに「なぜ起こった?」「それはなぜ?」と繰り返すことで、根本的な原因にたどり着く思考法です。

製造業で広く使われましたが、サービス業やITなどほかの分野でも使われてきました。
公認会計士・監査審査会(CPAAOB)も、監査の不備が発見されたときには「なぜなぜ分析」などを使って根本原因を分析するよう監査法人に求めています。

企業で内部統制の問題が発見されたときも同じですね。
根本的な問題に行き着かないと真の解決には至りません。

今回のてりたまnoteでは、なぜなぜ分析を参考に、内部統制の問題を掘るシミュレーションをしてみましょう。



「なぜなぜ分析」を行う際のコツ

やみくもにやるとうまくいかないので、ちょっとしたコツがあります。

  • 最終目的は再発防止
    何ごとも目的を見失うと迷走してしまいます。
    問題を分析するのは、最終的に再発を防止するためであることは常に念頭に置きましょう。

  • 根本原因にたどり着くことが最重要
    再発防止という最終目的のために、根本原因にたどり着く必要がある。その手段が「なぜなぜ分析」です。
    「なぜなぜ分析」自体がきれいにできていることは重要ではありません。

  • 必ずしも5回繰り返す必要はない
    「なぜ」を5回も繰り返すのはなかなかたいへんです。頭を使いますし、全体を俯瞰して見たり、細かく見たりして、足りない情報があれば追加しながら検討します。
    しかし、「なぜ」を細かく刻んで5回に引き延ばしても意味ないので、5回という数字にこだわる必要はありません。1回や2回であれば浅い分析になっている可能性がありますが、根本原因にたどり着けば終わってOKです。


なぜなぜ分析の例❶

それでは、いくつか例を挙げてやってみましょう。

発見された問題点
紙伝票の承認がいくつか漏れていた

べたな例ですがよくありますね。
承認者に漏れた原因を聞いてみると…

なぜ1
承認者が伝票をめくるとき一度に2枚めくってしまった

ここで、「次から漏れのないように気をつけます」では再発防止になりません。
改善策としては、できればリスクをなくしてしまうことが最適。それが無理でもできるだけ仕組みで防止、発見できるようにしましょう。
そのためのなぜなぜ分析です。

では、2枚めくった原因って、何でしょうか? 複合的な要因のようです。

なぜ2
A 伝票の紙質によりくっつきやすかった
B 承認漏れを発見する仕組みがなかった
C 承認者は毎日短時間で大量の伝票承認を行っていた

いっぱい出てきました。それぞれについて「なぜ3」「なぜ4」と進めそうですが、3つ目の「C」を例にやってみましょう。

なぜ2(再掲)
C 承認者は毎日短時間で大量の伝票承認を行っていた

なぜ3
C 2名いた承認者が1名に減らされ、業務過多になっていた

なぜ4
C 人員減少により承認行為を含めた業務への影響が検討されていなかった

なぜ5
C 人員減少によりリスクが変化するとの認識がなかった

いかがでしょうか。
再発防止策としては、次の二つが有効と言えそうです。

  • 電子承認に切り替えるなどして承認漏れのリスクをなくす

  • 人員を減らすときにはリスクへの影響を検討して内部統制を見直す


なぜなぜ分析の例❷

次に、経理部門での問題を取り上げましょう。

発見された問題点
繰延税金資産の評価性引当金の計上を誤った

監査法人に指摘されたのでしょうか。

なぜ1
A 税効果会計の知識のない経理部員が税効果会計を担当していた
B 承認者は実質的な承認を行っていなかった

以下ではAについて分析を続けましょう。

なぜ1(再掲)
A 税効果会計の知識のない経理部員が税効果会計を担当していた

なぜ2
A その経理部員は、税効果会計など高度な会計処理について研修など学ぶ機会がなかった

なぜ3
A そもそも経理部において、各部員の会計スキルのレベルが組織的に把握されておらず、会計知識をレベルアップする機会も提供されていない

税効果会計だけ気をつけていても、ほかの会計処理でつまずくことになりそうです。
再発防止策は例えば…

  • 経理部員の会計スキルを過去の経験などにより把握する仕組みを取り入れる

  • 外部研修の利用と部内での指導係の任命によりレベルアップを図る


なぜなぜ分析の例❸

もう一ついきましょう。最後は不正が見つかったときです。

発見された問題点
倉庫担当者が包装材(段ボールなど)の業者からキックバックを受けていた

これは典型的な不正ですね。どうやって見つかったかも気になりますが、なぜなぜ分析を進めましょう。

なぜ1
A 包装材については、合い見積もりなど購買のルールが守られていなかった
B 建屋や機材が古く小規模な修繕が頻繁に必要になり、部門内で修繕費の資金を捻出する必要があった

A、Bそれぞれについて続けます。

なぜ1(再掲)
A 包装材については、合い見積もりなど購買のルールが守られていなかった

なぜ2
A 包装材については資材部門ではなく、購買のルールを知らない倉庫部門が発注していた

なぜ3
A もともと外部倉庫を使っていたが、内部倉庫に切り替えたときに一時的に倉庫部門が発注を担当したまま見直されなかった

なぜ1(再掲)
B 建屋や機材が古く小規模な修繕が頻繁に必要になり、部門内で修繕費の資金を捻出する必要があった

なぜ2
B 倉庫担当者から予算の申請は再三されていたが無視されていた

なぜ3
B 物流費の高騰を吸収するため、運送費以外の費用は削減要請が厳しかった

すいません、「なぜ4」「なぜ5」と続けられると思いますが疲れてきたのでこれくらいにしておきます。


J-SOXでの留意点ほか

ちょっとおまけです。
J-SOXでは、財務報告に関係するミスや不正が発生したときには、次の手順が必要です。

  • 経営者評価対象となっている内部統制のうちどれに不備があるかを特定する

  • その不備が及ぶ範囲を評価し、開示すべき重要な不備か否かを判断する(ほかに不備がある場合は、複数を組み合わせたベースでも判断)

なぜなぜ分析とは切り口が微妙に異なります。


おわりに

ここではあえて書きませんでしたが、なぜなぜ分析の過程では次のような煩悩にさいなまれることでしょう。

「監査人が騒ぐと困る」
「改善できない根本原因になったら困る」
「期日までに導入できない再発防止策になったら困る」
「J-SOXと結び付いて、開示すべき重要な不備になったら困る」

一旦はそんな煩悩には惑わされずに分析する方が、結果として再発防止に近づくと思います。

内部統制の問題は起こって当たり前。その都度、根本原因を正しく把握し、再発防止を確実にされるために役立てていただければ幸いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはTwitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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