見出し画像

会社の会計判断にポジションペーパーが必要な理由【経理ガチ勢向け】

「ポジションペーパーなんて最近まで聞いたことなかったけど、本当に要るんか?」
経理の方も監査人も、いっしょに考えましょう。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

X(Twitter)で、こんなご意見がありました。
「ポジションペーパーなんて、最近になってはじめて聞いた」
「監査人のためだけに作っていて、ムダなので止めたい」

これまではなくてOKなはずだったのが、実は必要だったと言われると理不尽に感じるかもしれませんね。
なんで必要だと言われるのか、深掘りしましょう。

「ポジションペーパー? 何それ?」という方のために説明しますと、以前のてりたまnoteで次のように定義しています。

ポジションペーパーとは、会社が決定した会計処理や開示について、その根拠を説明した文書。

私が考えた定義ですが、大きくは外していないと思います。
詳しくはその記事をご覧ください。


本題に入る前に

まず確認しておきたいのが、会計基準にも監査基準にも「ポジションペーパーが必要」とはどこにも書いていないことです。
それどころか「ポジションペーパー」という文言も、ポジションペーパーを差した別の言葉もありません。

このため、ポジションペーパーがないことだけをもって即アウト、ということはありません。

「なんだ、要らないんだ」と早とちりせず、まあ続きを読んでください。


会計処理についての会社の責任

まず、そもそもの話からはじめましょう。
会計について、会社はどんな責任があるでしょうか?

会社は、適切な財務報告を行う義務がある(❶-A)

そりゃそうですよね? 異論ないと思います。
「適切な」とあいまいな表現にしていますが、「正しい」「真実の」「重要な点において適正な」などを想定しています。

❶-Aをもう少し具体的にすると、

会社は、会計基準に準拠して財務諸表を作成する義務がある(❶-B)

このあたりは経営者確認書の最初にも出ています。

❶-Bを分解しましょう。

会計基準に準拠して財務諸表を作成するためには、個々の会計処理が会計基準に準拠していることが必要である(❶-C)

これはいかがですか? 「全体として適切だが、個別の処理は知らん」なんてことはないと思います。

ここで、ちょっと見る角度を変えます。

会社は、財務報告が適切であると考える根拠について説明できないといけない(❷-A)

これについては、どう思われますか?
根拠は説明できないが適切だ、というのはおかしいですよね?
たまたまラッキーで適切になっているだけのように聞こえます。

これと❶-B、❶-Cとを組み合わせると、こうなります。

会社は、会計基準に準拠して財務諸表を作成したと考える根拠について説明できないといけない(❷-B)

会計基準に準拠して財務諸表を作成したと説明するためには、個々の会計処理が会計基準に準拠していることが説明できる必要がある(❷-C)

だらだらと書きましたが、財務諸表の作成責任と監査の責任を表した「二重責任の原則」からも導ける結論だと思います。


ポジションペーパーが必要な理由

先ほどの結論を再掲します。

会計基準に準拠して財務諸表を作成したと説明するためには、個々の会計処理が会計基準に準拠していることが説明できる必要がある

「説明できる」と言っていますので、監査人の求めに応じて説明できればよいのです。
もちろん、監査人に問われてから「会計基準はどうなってるんだろう」と調べるようではダメですよ。会計基準に準拠していることは、すでにクリアしているはずです。(❶-Cを参照)

これを文書にしていないと、次のような問題が起こります。

  • 時間が経つと記憶があいまいになる

  • 複数の関係者の間で認識がすり合っていないかもしれない

  • 会計基準の準拠性に関する内部統制について証跡がない(上場企業の場合は経営者評価も証跡がないため困難)

  • 重要な検討事項の漏れ論理の飛躍論理矛盾がないか、頭の中だけで検討する必要がある

これらは文書化することでどうなるでしょうか?

  • 記憶があいまいになっても、文書で確かめることができる

  • 関係者が文書の原稿を閲覧することで、認識の差を明確にしてすり合わせすることができる

  • 例えば上席者が文書をレビューし押印することで証跡となる

  • 重要な検討事項の漏れを検討しやすい(さらにテンプレート化することで検討漏れを防止できる)

  • 論理の飛躍、論理矛盾がないか、文書の方が検討しやすい

経理部門にとっては、さらに次のメリットもあります。

  • 過去の文書を蓄積することで、結論の根拠を引き継ぐことができる

  • 過去の文書を参照することで、過去の案件を踏まえて効率的かつ矛盾のない結論を導き出すことができる

  • 監査法人への説明が効率的になる(会社のストーリーに誘導できるかも)

  • 文書を作成し、上席者がレビューし指導することで、経理スタッフのレベルアップを図ることができる

ポジションペーパーを作ってみると分かりますが、会計に関する相当な力量が必要になります。取引に関する情報を集め、会計基準を調べ、論理的に結論を導く作業を行うことで、教育的な効果が期待できます。


おわりに

正しい結論を導くサポートになり、監査法人への説明に役立ち、経理スタッフの教育にも活かせるポジションペーパー。

監査法人の協力も得ながら、作り始めてはいかがですか?


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはTwitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?