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白饅頭日誌:5月24日「キモチップが描き出す『快適化する社会』のジレンマ」

 2015年3月に発売された文具「キモチップ(KIMO TIP)」が、なぜか2019年5月に炎上した件についての話だ。

 そもそものところ、別に悪さをしたわけでもなんでもないものですら、なんでも「ただしさ」で焼こうとする最近の風潮そのものに危険性を感じているのだが、この文具がなぜ焼かれたのかを整理するのは後学のためにもなるだろう。

 この文具の炎上には、少なくともふたつの文脈が存在する。

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 ひとつめは「善意の押し売り(独りよがり)」という文脈だ。

 ようするに「感謝を伝えるならこんな文章ではなくて金(チップ)を出せ」というものだ。「キモチップ」は主に飲食店での使途が想定されているようだが「こんなものを残されても不要なレシートと一緒にポイだ」などと、飲食店従業員からは批判がなされていた。

 チップ文化のない日本だからこそ、せめて感謝の気持ちを伝えよう、という前向きなコンセプトであるという評価はできるはずだ(いうまでもないが、本来適正な報酬を支払うのは顧客ではなくて雇用者だ。キモチップの感謝というコンセプトは前向きに評価されるべきだが、経営者が「ありがとう名刺」などを出して報酬の代替にしようという行為は言語道断だろう)。

 こんな紙切れに書き残されても、激務薄給で働く従業員にはなんの足しにもならない――たしかにそうした向きは一理あるだろう。

( https://twitter.com/aruma_kanjiro/status/1131448370780749826 より引用)

 しかしそれでは、中国人の女性がはじめて食べたグラタンに感謝の手紙を残した一件がSNSで拡散され、大きな感動を呼んだつい先日のできごとと真っ向から対立してしまう。

 中国人女性が残した手紙は「キモチップ」を使って書かれてはいないが、やっていることは同じである。中国人女性のそれはどうして感動の渦に包まれ、一方の「キモチップ」は「善意の押し売りはやめろ、気持ちよくなってるのはお前だけ」などとバッシングされることになってしまったのだろうか。

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