「働き方」の呪縛

 第四次安倍内閣の目玉法案として掲げられてきた「働き方改革関連法案(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案)」が、2018年5月26日衆院厚生労働委員会で可決した。

 2015年に初案が提出されてから、このたびの採決にいたるまで紆余曲折があったが、最大の争点となったのは、「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」である。いわゆる「高プロ制度」は、年収の高い一部の専門職を労働時間規制から完全に外す制度だ。

 当初の法案では、適用には本人の同意が必要だと定めている一方で、いったん適用されたのちに撤回するための手続きや規定が明示されていなかった。このことから、立憲民主党は高プロ制度を「実質的な残業代ゼロ法案」であるとし、高プロ制度そのものの撤回を求めていた。

 与党の自民・公明と野党の日本維新の会・希望の党は、高プロを適用された人がのちに撤回する手続きを行えるよう案の修正を行うこと」で実質的に合意した。

 もちろん、働き方改革の主旨は高プロ制度の設定だけではない。労働基準法等の改正が盛り込まれている。政府の資料によると労働基準法改正によって影響を受けるのは、上述の高プロを除き以下の項目となっている。

1. 時間外労働の上限規制の導入
2. 長時間労働抑制策・年次有給休暇取得促進策
3. フレックスタイム制の見直し
4. 企画型裁量労働制の対象業務の追加
5. 勤務間インターバル制度の普及促進(労働時間等設定改善法改正)
6 .産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法・じん肺法改正)

 すなわち、長時間労働が慢性化し、休暇もろくに取れないような労働環境を改善しようというものだ。法的なルール整備を進めたとしても、それを遵守するような意識が育たなければ意味がない。働き方改革に沿った労働体系を促進するべく、労働基準監督署は中小企業向けのコンサルティングチームを結成するという

 この法案によって、日本の働き方は改革されるのだろうか。この国の労働環境は、夢を抱いて来日する途上国の外国人労働者すら恐れて逃げだすほどの過酷さをのぞかせる。労働時間は長いにも関わらず、あくまで数字の上での情報ではあるものの、労働生産性は(一般的に「休みたがり」の国民が多いとされる)イタリアとほとんど変わらないのだから皮肉なものだ。

 昨今ようやく、過労死問題、ブラック企業問題などが認識されるようになっている。死人が出るほどにがむしゃらに働いているのに、なぜ生産性が上がらないのだろうか。いったいなにがこの国の労働環境、あるいは労働観を歪ませてしまっているのだろうか。われわれの社会における「労働の歪み」を整理しながら検討してみよう。
 

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