フリーランス翻訳者の交渉ごと

クライアントやエージェントといった企業と、翻訳者や通訳者といった個人事業者では、商慣習や法務的知識において情報量で圧倒的な違いがある。どうしても優位な立場にある企業側のご都合でものごとが進み、仮に誠意のない企業が相手になると、弱い個人が不公平な条件で仕事をさせられたり、泣きを見ることが多いようだ。

一方で、次から次へと様々な規模の企業が業界へ入ってきており、日本翻訳連盟が発行している翻訳白書を見ると、翻訳関連企業の6割が年商1億未満という規模の小さな企業である。このことを踏まえると、実は商慣習や法的知識に乏しい会社を相手にしたが故に、不公平な取引を強いられている可能性もある。

ただし、仕事を受けた側の個人は不満を感じはするものの、知識不足からそれが正しいか否かを判断できず、「そんなものなんだろう」「仕方がないか」と諦めているようす。これは企業側の思う壺なのかもしれないし、こんな関係が許されるようでは、健全な業界なんて作れやしない。

できれば、企業側が正義と高い理念を持って、個人事業者の利益も考えた公正な取引がなされれば良いのだが、現実的にそうなるには、かなり時間を要しそうである。

であれば、個人事業者が自分の身を自らが守っていくしかないのは明らか。私は以前から個人翻訳者や個人通訳者の方々には、せめて、下請法消費税転嫁対策特別措置法を勉強して欲しいと思っている。今までも、そんな情報発信をしてきているけど、一部の方からは「刑事罰はないのだし(言ってみても仕方がないでしょう)」といったコメントを受けたりする。それはそういう状態に陥った時の話であり、必要なのは正しい知識を持ち、自分なりにあるべき姿を理解した上で、それらの知識を武器として法人と交渉できるようになることだと思う。上述のとおり、知識を持たない法人が多いようだし、単に相手も知らないだけなのかもしれないのだから。

・振込手数料は本来誰が負担すべきだと思いますか?
・報酬の支払いにおいて、消費税はどう扱われるべきですか?
・仕事の正式依頼とは何をもって判断しますか?

もし、わからないようなら、その根拠とともに調べて欲しい。交渉の材料とするのだから、根拠は法律やルールが好ましい。

そういった知識を得た上で、おかしいことはおかしいとハッキリと伝え、そして、そこからどこまで歩み寄れるのかを交渉する、そういう流れで話を進めないと、相手も間違いに気付けないし、仕事の仕方が変わらない。

面倒がって、相手と交渉をしないのは、ある意味、独り善がりな考え方だと言えるし、玄人として失格だと思う。

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