土器_渡辺隆之

いしのうつわ、つちのうつわ

前回、「土の食事」と「石の食事」の話をしました。

今回は器(うつわ)の話です。

そう、

器にも土の器と石の器があります。

土の器とは文字通り素焼きの土器。

石の器とはガラスや磁器はもちろん

釉薬のかかった陶器もここに含まれます。

この二つの差は

水やお酒を入れると顕著です。

石の器は香りなどの「美味しい風情」を前面に押し出します。

「美味しい味」=「前味」は上へ上へ登ってくるからです。

一方、

土の器は水分を急激に吸うため

内部に独特な対流が生まれるそうです。

この対流が底に沈んでいたベースとなる「後ろ味」を引っ張り出します。

その結果

前味はマイルドになり

余韻が先にくる、という不思議な現象がおこります。

美味しい酒を石の器で飲むと

美味しさが前面に出て、飲んだ瞬間に「うま!」となります。

ところが、

土の器はこの「美味しさ」をなんだかよくわからなくしてしまいます(笑)

そのかわり余韻が強調されるのでいつまでも飲み続けられる。

よくわからないから、ついついいつまでもいつまでも飲み続けてしまう。

土の器は

実に危険です(笑)

石の器は美味しい食物を美味しくする器。

土の器は、普通の食物の真価を引き出す器です。

あと1、2年で

時代は石の器から土の器に

完全に移りかわります。

時代の空氣が、ということです。

「前味」はいくらでもごまかしが効きますが

「後ろ味」はそうはいきません。

土の器は

真価を、中身を引き出す器です。

偽物はどんどん淘汰されていくでしょう。

だからこれからは

外側を取り繕う努力をほとんどしなくてよくなります。

石の時代を生きてきた身としては寂しくもありますが

時代の流れに乗ってみようと

ぼく自身は決めています。

「ふつうにおいしいがいちばんだよね」

これからはそういう時代。

子どもたちはすでに知っています。

大人になってしまったぼくらは

くやしいけど、いかにあきらめて楽しんじゃえるか

だと思うのです。

変化に戸惑いを感じているのなら

あなたがすでに「土の器」に乗っている証拠です。

ぼくの尊敬する先達たちは流石で、もう準備万端です。

ご一緒しません?

だって

おいしいほうがいいじゃありませんか。

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