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ひとりになり、時に人とめぐり会う港のうどん自販機前【ドキュメント72時間】

NHKドキュメント72時間を観て感じたこと、調べた事を書くシリーズ。今回は2020年5月8日に再放送された(最初の放送は、2015年)「秋田・真冬の自販機の前で」

舞台は、1月という東北の冬の寒さが最もきびしい時に、日本海の港という最も風雪の強い場所の「うどん、そば」の自販機前。もうその舞台設定だけで神回だと確信した。

話はちょっとそれるが…このシリーズ2週間さぼってしまい…久しぶりの投稿になってしまった。言い訳すればこの2週間の放送が好みでなかった。そして今回は超好みだったということだ。

今回のような回の何がいいって「いつ」「どこで」だけが決まっているから。これが本来の72時間だと思う。例えばイベントを舞台にすると、登場する人たちが「なぜ」「何をしに」そこに来るのかということが限定され過ぎる。ただのテーマを持ったドキュメントになってしまう。こないだやってたビジコンのやつなんてまさにそう。私が求めているのはそれじゃないんだ。時と場所だけ決まっていて、あとは偶然そこに現れる人たちの人間模様、人間交差点がみたいのだ。

さて話を戻すと…この自販機は港の商店前にある。この商店は港に着く外国船に食料や本を販売する商売をしているとのこと。店の側面には「秋田の発展は秋田港から!!」という看板がついている。すごくいい。右肩上がりの勢いのある時代を感じる。

この自販機がまたいい。あらかじめ商店のじいさんが軽く茹でた麺(?)とネギなどの具材をセットする必要がある。つまり仕込みをしたものをこの自販機の中にセットするわけだ。じいさんが店でネギを一生懸命切っている絵は「自販機とは?」という気にもなってくる。

しかもこの自販機もう年代物で色々とガタが来ている。そのせいで汁が溢れて出てくる。しっかり「汁があふれます」という注意文が貼ってある。買った人は、その場で汁をちょっと捨てたり、汁がこぼれないように慎重に器を運ぶ、お盆持参なんて人もいた。

器を運ぶ先は、自販機の脇つまり屋外にあるベンチとテーブルのスペース。屋根はある。その屋根から、紐で七味が吊るしてある(!)。それにしても屋外だ。1月に海沿いのベンチでうどん食う人の気が知れない。吹雪くとテーブルの上が真っ白になる。でもそんな中震えながら、うどんをすする人がいっぱいいるんだからおもしろい。

訪れる人は、ホントにさっと腹を満たしたい仕事中の人から、仕事終わりに立ち寄る人、年寄り、親子、子どもたち、デート中のカップルなどなど。大人たちは皆子どもの頃から来ているという人たちが多い。

この人たちにとってこの場はどういう場所なんだろうかと思いながら見ていた。

運転代行の仕事を終えて明け方近くに来た男性が「海の風が来て、この(うどんの)温かさと、癒される感じ。ちょっと忘れられるかなっていろんなこと。心が温まる感じ」なんて話をしていた。

あぁなんか行きつけの喫茶店みたいな場所なんだなと。家に帰る前に、仕事の途中にふっと寄って、ちょっとぼーっとする時間を作る。ここに集まる人はそんな時間を求めているように感じる。お気に入りの場所だから、恋人や自分の子どもを連れて来たくなる。

しかも行きつけ喫茶店と違うのは一人になれること。行きつけになるとよくも悪くも店主も顔見知りになって、それ事態は楽しいことでもあるんだけど、ちょっとそのことを気にするようになる。私みたいな人間にとっては無人の自販機の方が気が楽だ。

いいなこの場所。コンビニのイートインじゃせまいし、喫茶店じゃコーヒー高いし、ただ飲み物自販機じゃつまらんし。

最後に、小学生の男の子と2人暮らしのシングルマザーの少々まだやんちゃな感じの女性の言葉「200円あれば温かいうどん食べられて、屋根があって港が見えてイスがあって、そう思うと(息子にも)ここに来なさいって教えておいたほうかいい。そういう時にぶち当たるよね、きっと。きと、きっと。ここにいればみんな見つけてくれるもんな。知らない人がおごってくれたりする訳ですよ、ここにいれば。」一人来ても、時に誰かと巡り会う場。そう「時に」くらいがちょうどいい。そんなちょうどいい場。

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