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こんなひといたよ 第19話「小規模な絶望を抱え生きる男」

福満しげゆきのマンガがたまらなく好きだ。主に「妻」をネタにした「僕の小規模な生活」や「うちの妻ってどうでしょう」などで有名な人気漫画家である。基本すべての著作に自身が出てきているので、その人柄を感じることができる。

その人柄はなかなかやばい人である。特に初期の作品で、高校時代~マンガ家になる前の自身の生活を描いた「ぼくの小規模な失敗」の中では、なかなかヒドイ自虐的で、世の中のレールにのれなかった自分を責めている心情をつづっている。

今回は、この作品の中から福満氏が人生に絶望したときを拾って紹介する。若者らしい「小規模な絶望」と言えばそれまでだが…私も実感としてすごくわかる、という今もちょっとその節がある私はやばいか?とも思ってしまう。

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絶望①コースから外れたことに気づいたとき

男は定時制高校に進んだ。そこは事情があって昼間の高校に通えない生徒が来るところ…ではなく、ヤンキーばかりだった。いま頃になって、中学3年の時に周りが急に一生懸命勉強し始めた理由に気づく。自分にできることを考えた結果、マンガを書くことにした。授業中にも先生を無視して描き続けたが、コンクールで落選。勉強なんて何もしなかったので留年。周りの同級生は恋だSEXだと浮かれている。

「どうしよう…恋愛ゲームにも参加できず、漫画コンクールで相手にされず、学歴コースからも脱落しちゃって。僕はどのスタート地点にすら、立てていないわけだから、まだ何もはじまっていないわけだ。なのにもうずいぶん失敗しちゃったような」

絶望②まわりは気にしないという強い意志を自分は持てないと気付いたとき

男のマンガがはじめて雑誌に載った。男はうれしくて、中学時代の友人たちに雑誌を見せに行った。彼女を自分の部屋に連れ込み肩を抱きながら煙草をふかす友人にも、「オレさーこのあいだ巨乳の女とやっちゃって」とすまし顔で煙草をふかす友人にも…自分のマンガを見せた…。

「『僕はこれに価値を感じるからまわりは気にしない』…てな感じの強い意志を持って強く生きていけるタイプじゃない…。同い年の人たちがあ~~~」

絶望③逃げた先でも行き詰ったとき

男のマンガはなかなか雑誌に載らなかった。気持ちはどんどん落ちていく。ニュースで親の財産を食いつぶす若者が話題になれば、これは自分のことだと自らを責める。外を歩けば、誰も自分なんて見ちゃいないのに、人の目が気になる。校舎裏で友人に大学の推薦を譲ってくれとヒドイ態度と顔で迫る。そんな自分をまた責める。

「リハビリに新しいバイトでもして社会に接しよう。しかしもともとは社会に通用しないと思ったからマンガを描き始めたんじゃないか…けっきょく僕は何もできないのか…」

絶望④学校の近くまで来ているのにたどり着けないとき

男はいつも大学まであと少しという坂の前で立ち止まる。どうしてもその坂が上れず、見知らぬ会社の前で座り込んでしまう。何が苦しいのかもはや自分でもわからないが、苦しいのだ。とりあえず一目のつかない裏道の道路の隅や何かのビルの非常階段で座り込んでしまう。

「今日もこんな近くまできたのにたどりつけない…。なんでこんなにくるしいんだ…悩んでいるのか?悩みってどんなだ…」

絶望⑤自分がバカにしていたような女にメロメロになったとき

友達を通じて知り合った金髪の女にメロメロになった。「彼氏と別れようと思っているんだ。なんか友達優先とか言ってー」というどうでもいい話にもかわいいというだけで許せる。バイト先に来てくれたり、電話をくれたりする。もうこんな自分を構ってくれるだけで、好きだ。

「オシャレしてる人達を『恋愛関係しか頭にないアホ人間グループ』とバカにしてたクセに。そのクセに、今風の髪を染めたオシャレでカワイイ頭の悪そうな女の子が目の前に現れたら激しくメロメロになってしまったじゃないか!!うっ…」

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まわりとの比較の中で生きている高校生から20代のころの絶望である。もっと大人になれば「周りの評価軸」ではない、「自分の評価軸」を得られる…わけでもないが、じょじょにそういう方向にはなっていくものだと思う。

あとがきで著者はこんな風に語っている「わかったのは『死にたい』だの『生きているのがイヤだ』などと思うのはただの性格の問題で、そーいうタイプの人は何があっても、だいたいずっと、そーいう性格なまま生きていくのです」なかなか絶望的なコメントである(笑)


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