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孤独になりたいと人とつながりたいは同時に心に宿る【ドキュメント72時間】

NHKドキュメント72時間を観て感じたこと、調べた事を書くシリーズ。今回は2020年6月7日に再放送された(最初の放送は、2016年)「四国海だけの小さな駅で」

今回の舞台は、インスタ映えスポットとして有名な四国の無人駅「下灘駅」。瀬戸内海に沈む夕日と海沿いの岸壁に立つ小さなホームをカメラにおさめることができる。

私の知人がこの駅のある伊予氏双海に住んでいることもあり、今回の放送にはいつもよりもちょっと楽しみにしていた。彼はよく言っている「沈む夕日が立ち止まる町『双海町』から来ました」と。

今回の72時間の撮影は、火曜日の午後からスタート。金曜日や土曜日など週末を含めることが多いが、今回は平日のみ。でも9月頭なので夏休みの観光客が多い。最初にカメラに捕まったのは、東京から来たOL3人組。早朝、羽田を出て、午前9時過ぎには松山空港に到着。そこから直行でここに来たという。なんとも、金をもてあました独身OLみたいな動きだ。

彼女たちを含め、今回登場する人たちはほぼみんな目的はもちろん撮影である。列車が着けば、人がいっぱい降りてくる。降りてきた人は、急いでホームから出る列車を撮影している。「5分ほどで撮影は終了」とのナレーション。撮影用にちょっと長く止まってくれたりしているのかな。

東京から来た大学生は「…きっと一生忘れない」ポエムと共にツイッターに写真を投稿。うん、まぁ気持ちはわかる。というかオレもきっとやる。でも「一生忘れない」なんて言うほど感激は絶対にしていない(笑)「1人の孤独感も大事だけど、人とつながっていたいという心情もあるのかもしれない」と正直な青年だ。そうなんだよな。なんだろう、孤独にぷらっと自由な旅に出たいという気持ちと、1人はさびしくて、旅先での出会いに期待をしたり、そのことを友達に知ってほしかったりする気持ち。

彼は若い女性から撮影頼まれていた。なかなか派手な姉ちゃん2人組だ。心中絶対ドキドキだろうな。あわよくば仲良くなって…みたいな妄想を一瞬のうちにしただろうな。でも当然そこからは何の展開はない、俺と一緒だな。がんばれポエム大学生。

次に現れたのは、地元の89歳のじいさん。プランターの手入れに来た…というのは口実で、若いおねえちゃんたちにポストカードみたいなの渡して喜んでいる。「じいちゃんやばあちゃんばっかりと話しよったりテレビばっかり見よったらなクシュンとなるけど、若い子とタッチしたり握手したりしよるとな、どうしても若返るよ」とハグぐするポーズ。旅先のじいさんだから許されるセクハラである。でもこんなじいさんがいるから楽しんだよな。きっと地域でも有名なんだろう。

このじいさんの他にも、あと3人地元の人が登場している。「こんなとこまでよく来るなぁ」と観光客を見ている子供連れの若い女性、毎朝ホームで体操することを日課にしえいる元漁師の85歳の男性、そして夜の撮影によく来るという郵便局の臨時職員という30代男性。

この郵便局の男がなかなかいい味出している。「仕事でミスしたりそういうことあった時に忘れられるんですよね」とカメラのシャッターを切る。これまで何千枚という写真を撮ってきたという。帰り際に行った一言がおもしろくて「今日もなんかミスしちゃったみたいなんで」と…オイ!ミスしすぎじゃねーか(笑)この放送、地元の人もみんな見て笑ってるだろうな。「あいつまじでしょうがねぇやつだな、写真とってミス忘れてる場合じゃねーよ(笑)」ってテレビの前で言ってるよ。いじられるだろうな。

撮影に訪れる人がもっとも多くなるのは、もちろん夕日が出る時間帯。ホームに人が立ち、逆光で影となった人と夕日をおさめるのが定番の写真。時間が限られている中で、皆が最高の写真を撮りたがるわけだが、意外とこれが秩序だっている。きちんと順番に並んで、自分の番になるとホームに走っていきフレームイン、自分の番が終わればまた走ってフレームアウト。この誰もしきっていないのに(たぶん)みんなが協力し合って、撮影している姿はほほえましい。

撮影2日目の夕日タイミングに登場したのは、撮鉄の元カメラ屋さんのじいさん。今回の72時間のメインキャストだ。車で寝泊りしながら四国を撮影していて、40万円の軍資金が尽きたら帰る。とにかくそんな風に自分のことをどんどんしゃべる。しかしその明るいじいさんがここに来た目的は「終活」だという。もう治らない病気をもっている、筋ジストロフィーの一種。そう遠くないうちに目蓋が上がらなくなり、声もでなくなる。その前にやりたいことをやり倒してやろう、そんなエネルギーでここに来ている。

小太りで汗でびっしょりのTシャツを着て、やたらごついカメラをいくつも抱えて、病気の影響だろうかちょっと歩く姿もぎこちない。事情を知らなければ、なんか変なじいさんいるなぐらいしか思わないだろう。話してみれば、みんな色んな事情抱えて生きている、そんなことがわかるのがこの72時間の良さだと改めて思った。

2日目の夕方は、くもりで夕日が撮れなかったが、このじいさんあきらめきれずに次の日も夕方現れた。くもり空ながら、雲の間からきれない夕日が出た。「とりあえず気持ち的には満足しました。きれいな夕日のベスト3ぐらいにははいるでしょう」最後までじいさんはよくしゃべっていた。

番組的にはできすぎなラストではあったが、今回も非常におもしろい回だった。でも私が一番印象に残ったのは、ポエムをツイッターにあげていた大学生かな。「一人旅」の目的は、たぶん「自分の内面的な成長」と「思いがけない人との出会い」だと思う。でも「別に放浪の一人旅したって自分が変わるとか成長するなんてことはない」と言うことは私たちおじさんが実証済みである。もちろんまだ自分で実証していない大学生は大いに一人旅に出てほしい。でももうすでに実証済みのおじさんも、まだ何かを期待して一人旅に出たい気持ちっていったいなんなんだろう。

あぁ旅に出たい。

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