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ブックライターは《展開》《突破》《シュート》を繰り返す〜ライターなるには日記【第6回】<裏>

 今週の火曜日、マンションの宅配ボックスに荷物が入っていた。確認すると、小ぶりのダンボール箱がひとつ。私が「構成」で関わった、1月27日発売の『前だけを見る力 失明危機に陥った僕が世界一に挑む理由』の見本である。

 5冊の見本と共に、版元の編集者からのメッセージが目を引く。《厳しいスケジュールのなかでの制作となってしまいましたが、丁寧にご対応いただき、感謝申し上げます。》という一文が、ジンと胸を打つ。

 思えば去年の年末から今年の年始にかけて、ほぼすべての予定をキャンセルして、本書の完成度を高める努力をしてきた。それだけに、苦楽を共にした編集者の労いの言葉は、深く心に染み入った。こちらこそ、このたびはやりがいのある仕事をさせていただき、ありがとうございました!

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 今回は著者ではなく「構成」として関わったが、がっつり関わったという意味では「徹壱本」のひとつとしてカウントできるだろう。1998年のデビュー作以来、私が世に送り出してきた「徹壱本」はこれで13冊目となる。

1998年『幻のサッカー王国 スタジアムから見た解体国家ユーゴスラヴィア』(勁草書房)
1999年『サポーター新世紀 ナショナリズムと帰属意識』(勁草書房)
2002年『ディナモ・フットボール 国家権力とロシア・東欧のサッカー』(みすず書房)
2008年『股旅フットボール 地域リーグから見たJリーグ百年構想の光と影』(東邦出版)
2009年『フットボールの犬 欧羅巴1999‐2009』(東邦出版)
2011年『日本代表の冒険 南アフリカからブラジルへ 』(光文社新書)
2012年『松本山雅劇場 松田直樹がいたシーズン』(カンゼン)
2013年『フットボール百景』(東邦出版)
2016年『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)
2017年『J2・J3フットボール漫遊記』(東邦出版)
2020年『フットボール風土記 Jクラブの「ある土地」と「ない土地」の物語』(カンゼン)
2021年『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)
2022年『前だけを見る力 失明危機に陥った僕が世界一に挑む理由』(KADOKAWA)

 フリーランスの写真家・ノンフィクションライターとなって、今年で25年。その間に13冊の書籍を上梓したというのは、まあまあ悪くない数字だと思う。ただし2年に1冊、コンスタントに出していたわけではない。幸いにして2020年からは3年連続で書籍を出すことができたが、逆に2002年の『ディナモ・フットボール』から2008年の『股旅フットボール』までは5年のブランクがある。

 あらためてブックライターとしての自分の仕事を俯瞰してみると、この5年のブランクは、2つの意味で大きな意味を持っていることに気付かされる。すなわち「仕事の軸足の置き方」と「取材対象の広がり」である。

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 まず「仕事の軸足の置き方」。2002年から2008年の私は、ライターとして最も多忙な時期であった。紙媒体でいくつか連載を抱えていたが、主戦場は主にインターネットメディア。特にスポナビでは、ワールドカップやアジアカップといった国際大会では「日々是」と称するコラムを毎日アップしていた。こうなると、とてもじゃないが、書籍づくりをしている時間を作ることができない。

 次に「取材対象の広がり」について。『ディナモ・フットボール』を書いていた頃まで、私の取材対象はヨーロッパ、それも旧ユーゴスラビアや旧ソ連などの東欧がメインだった。逆に国内サッカーについては、スポナビの仕事で日本代表を追いかけるくらいで、Jリーグの取材現場に行くこともまずなかったのである。

 そんな私が今、再び書籍に軸足を置くようになり、さらにはどっぷりと国内サッカーの現場を縦横無尽に駆け回っている。そのターニングポイントとなったのが、上記した5年のブランク。ちょうど関連する質問をいただいたので、ご紹介することにしたい。今回の質問者は、OWL magazineの前編集長、大澤あすかさん。

 質問は「継続的に本を出し続けるために必要なこととは?」です。宇都宮さんはいわゆる「無所属」として、長年にわたり定期的に本を出されている稀有な存在かと思います。今まで出された本に関する、それぞれの企画の立ち上がり方や本ができるまでのヒストリーを通じて、宇都宮さんの現在までにつながるお話をぜひお聞きできればと思います。 

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 あすかさん、こんにちは。来月のJリーグ開幕が待ち遠しい今日このごろですが、お元気でお過ごしでしょうか?

 私のほうは『前だけを見る力』が手元に届き、年末年始にかかりっきりになっていた仕事から、ようやく開放されました。とはいえ、いつまでものんびりしていられません。新シーズンが始まる前に、まずは本書のプロモーションの仕込み、そして次回作の準備を進めておく必要があるからです。収穫したら、すぐに次の種まき。ブックライターの仕事は、まさに農作業そのものです。

 そんな中でのグットタイミングな質問、ありがとうございます。「長年にわたり定期的に本を出されている稀有な存在」というのは、ちょっと大げさな表現のようにも思いましたが(笑)、それでも25年のキャリアで13冊の書籍を発表できたことは密かな誇りでもあります。

 今回はあすかさんの質問に答える形で、私のブックライターとしてのターニングポイントについて、お話させていただければと思います。タイトルにある《展開》《突破》《シュート》の中で、2008年に上梓した『股旅フットボール』は、私とって初めて《展開》となる作品でした。本作が生まれた背景と経緯について、しばし語っていくことにしましょう。

【以下、OWL magazine読者のみに公開】OWL magazineでは、サッカー記事や旅記事が毎日、更新されています。Jリーグだけでなく、JFLや地域リーグ、海外のマイナーリーグまで幅広く扱っています。読んでいるだけで、旅に出たくなるような記事が盛りだくさん。すべての有料記事が読み放題になる、月額700円コースがおすすめです。

 なお、宇都宮が構成で関わった『前だけを見る力』は、徹壱堂でお買い上げいただきますと、著者サイン入りでお届けいたします。

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