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シリアスな音に宿る“人間味” - Cornelius夢中夢Tour 2023@Zepp Haneda

Corneliusのアルバム『夢中夢』を初めて聴いたとき、夢想的で美しいと思うと同時、「孤独な音楽だな」と感じた。

事前に小山田圭吾のインタビューを読んでいたのも大きかったかもしれない。今回は「変わる消える」を除き作詞を坂本慎太郎に頼まず、客演もなく、全て一人で作った(作るべきと思った)アルバムだと語っていた。もともと初期の作品以外はほぼ一人で、打ち込みで作っているとのことだが、これまでのアルバムは一人で楽しく音と遊んでいる印象があった。ときにゲストボーカルを招いたり、別アーティストのカバーを収録したりと、外界との繋がりを感じさせる要素もあった。

しかし、『夢中夢』に流れるのは、ひたすらにシリアスな空気である。使われている音の一つ一つは優しく柔らかいが、様々なレビューに書かれていたように、実験的、遊び的な要素はほぼない。歌詞にも「過ぎてった 瞬間が 突然に 蘇る」という歌い出しにハッとさせられる「火花」、「現実 軌道修正 綺麗な結末が 来ればいいのに」と淡々と歌う「蜃気楼」、「地水海風空 諸行無常」とまさに有限をテーマにした「無常の世界」など、その深刻なムードが現れている。外界(現実)から意識が独立し、自身の精神世界に入り込んでいくような、極めて内省的なアルバムであると感じた。

そんなアルバムを引っ提げた今回のツアー。Corneliusのワンマンに行くのは初めてということもあり、チケットを取った瞬間から楽しみ過ぎて心臓がバックバクだった。『夢中夢』の楽曲に映像がつき、生身の人間が演奏したらどうなってしまうんだ!?という未知への期待や謎の緊張から、Zepp Hanedaの最寄駅である天空橋駅に着いた瞬間からなぜか体が震えていた。数ヶ月の間に膨らみに膨らんだ期待が爆発寸前になった瞬間、いよいよ弾けるようにして「火花」でライブが始まった。

ライブになった瞬間、完璧にパッケージングされたCorneliusの音楽がリアルタイムで再構築されていく。もちろん精緻な演奏であることに変わりはないのだが、それぞれのパートに熱量と血肉が宿っており、ここでしか聴けないグルーヴを生み出している。映像も相まって、イヤホンの両耳で再生されていた音楽が、眼前に立体になって現れたような感覚をおぼえた。

「火花」に続き「変わる消える」「Too Pure」などなど、その後も『夢中夢』の曲が演奏されていったが、中でも驚いたのが「蜃気楼」だった。音源は他の曲に比べてシンプルなバンドサウンドなのでライブでも同じように再現されると思いきや、ほぼ別曲かと思うくらいロックな演奏になっていた。シンセやドラムはいい意味で音源にない肉体感をプラスしていたし、何よりアウトロのギターの熱量がすさまじかった。こちらもいい意味でCorneliusらしくなく、90年代オルタナロック的なギターソロを弾き倒していて(主観です)、ある種緊迫した非現実感のある音源と比べ、かなり地に足のついた雰囲気になっていた。

アンビエントの要素が強い楽曲「霧中夢」も同じく、4人が奏でる音の洪水から、音源に比べてかなり高い温度を感じた(あらきゆうこさんのフルートもあたたかい)。ギター以外は音源とほぼ変わらない音を使っているはずなのに、4人が演奏することによって、揺らぎや偶発的な音の重なりが有機的な音楽となって会場に溢れ出す。想像ではもう少し穏やかなアンビエントサウンドになるのかと思いきや、意外とパワフルで、メンバーの熱を感じる仕上がりになっていたことに驚いた。

また、今回のセットリストにも非常に小山田圭吾のパーソナルな部分を感じた。特に「Cue」〜「環境の心理」の流れはやっぱり高橋幸宏や坂本龍一のことを想起してしまうし(「Another View Point」の映像内にはこの前再放送された「細野晴臣イエローマジックショー」内のどてらYMOのカットも入っていた)、そこからの「あなたがいるなら」は、二人へのメッセージのようにも、ファンに向けての感謝のようにも、ファンからCorneliusへの総意のようにも聞こえてくる。

アンコールも、まさかのアコギアレンジで個人的にテンションが爆上がりした「Breezin'」は音源とはまた違った温かみを増していたし、「続きを」には言わずもがな、このアルバムを作りライブをするに至るまでの小山田圭吾の思いが全て歌われているように感じた。曲間のMCも、これまで言葉をつぐんできたことを考えるとかなりびっくりしたが、観客に自身の肉声で感謝を伝えようとしてくれていることに胸がいっぱいになった。

霧が立ちこめる中、音はそのままにメンバーがステージから姿を消すイリュージョン含め完璧なショーでありながら(めちゃくちゃに余談ですが、『コーネリアスの惑星見学』に収録されていた引田天功にイリュージョンをかけられている(?)小山田圭吾を思い出しました)、確かに「他者との繋がり」を感じさせる温かいライブだった。耳と目に飛び込んできた光景の破片を、じんわり思い返している。

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