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誰にでもやさしい大人にはなれない

子どもを連れてスケートに行った。
上の子は1人で靴も履けるし、滑るのもうまい。
ちょっとぐらい転んだからっていちいち泣かない。
要はほったらかしても大丈夫である。

しかし下の子はスケートはほぼやったことがない。
去年も1~2回行ったきりで、靴は自分じゃ履けないし、立つこともやっと。手を離して少し進めるだけですごい。
もし転んだらワンワン泣いて崩れてしまうだろうから目が離せない。

昨日夫が子どもふたり連れてスケート行ったら、夫の教え方が上手かったのか下の子が何にも掴まらず4歩ぐらい歩いている動画が送られてきた。
動画を見た私が「1人で氷の上歩けるようになったの!すごい!!」と褒めちぎっていたら、お母さんにも実際見てもらいたいと言われ、今日また行く羽目になったのだった。

しかし私は基本的に運動音痴なので、教えるのも超絶下手くそである。
一応スケートは滑れるけどね。でも教えるとなると全然上手くない。
スポーツに関わることは基本、体育会系の夫にお任せしている。

そもそも、基本的に私は「教える」こと全般があまり上手くない。
勉強も子どもと一緒にやってると「わかれや!!」みたいになって空気が悪くなって終わる。
人から教わるより自発的に勝手に学ぶタイプだから教えられないのだろうか…

でも本の感想を話すと端的でわかりやすいって言われるんだよ。
文章も読みやすいって良く言われるよ。
なんで『教える』になると上手く行かないんだろう。謎。

そんなわけで、スケートに行ったものの。
私が連れて行った次女は何故か全然スケートが滑れなかった。全く歩けないどころか、氷の上では私にずっとしがみついてピーピー言っていた。
どういうことかわからない。昨日の動画では出来てたじゃないか。

昨日やれたなら今日もやれるよ!と言っても、次女はずっとへっぴり腰でまるでダメダメだった。私と両手を繋いでいるうちは余裕たっぷりだけど、ちょっと離れるとすぐひっくり返りそうになる。

昨日は夫が何かいい感じにコツを教えたのだろう。さすが夫。

そんなわけで、今日は手放しで歩く様子を見ることは叶わなかった。
「昨日お父さんと一緒にお母さんもくればよかったんだよ!」と怒られた。
いや、こんなことになると思わんかったもん。

…さて、本題はこれからである(いらん前フリが長い)

そんな我々親子以外にも、スケートをしに来ている子どもが何人か来ていた。冬休み中はスケートリンクが開放されているので、小学生は子どもだけで滑りにやってきている。

その中でひとり、ちょっと気になる子がいた。
最初は全然楽しくなさそうに、隅っこの方で滑っていた。

私たちがリンクに入るとその子は少しずつ我々に近づいて来た。
だからといって声をかけてくるわけでもない。
でも半径2メートル以内ぐらいの距離でずっと近くにいる。

2~3年生ぐらいだろうか。
コソっと、上の子に学校での友だち?と聞いたら、知らないと言う。
下の子にデイサービスの友だち?と聞いても、知らないと言う。

つまり子ども同士、全然面識がないのだった。

長女はスケート滑れるのでスイスイ勝手に滑っているのだけど、そっちにはついていかない。

私と次女が手を繋いで「まっすぐ立って!大丈夫だよー」とか大騒ぎしているところに寄ってきて、何となくずっとそばにいて、何となくかまってほしいオーラを出している。

冬休み中の平日、開放されたリンクに1人ぼっちで来ている時点で、家には大人がいなくて、一緒に遊んでくれる友達もいない、寂しさを抱えた子なんじゃないかと想像してしまう。

でもこっちとしては、いつ転んで大泣きするかわからない爆弾をかかえてスケートリンクに乗っているので、見知らぬ知らない子に声をかけてなにかするなんて余裕は到底ない。
というか、一体何をどうしてほしいのかもよくわからないのだった。

一緒に遊ぶ相手が欲しいなら余裕で滑っている長女に近寄って行くんじゃないかと思うのだが、その子は明らかに私に何かをアピールしていた。

何か助けを求めているのだろうかと思うところはあれど、中途半端な優しさが後々困ったことになるケースが頭をよぎる。

***

昔、私が実家に住んでいた頃、姪っ子が同居していたのだけど。
姪っ子のお友達に「放置子」と思われる子がいた。

大体その子は休みになると11時ころに遊びに来ていた。
でも、家に来ても姪っ子と遊ぶのではなく、何故かリビングに座り込んで一緒にテレビを見たりしはじめる。
そしてお昼時になると当然のように食卓に座り、食事が出てくるのを待つのだった。

最初のうちは(実家同居だったので母がお昼を作っていた)母もその子に帰れとも言えず「ごはん食べていくかい」とか声をかけて、姪と一緒にお昼を食べさせてあげたりしていたのだけど。

だんだんそれが当たり前になって、夏休みになると毎日来るようになって、おやつまで催促するようになった。
日に日にその態度は加速して、その子は休みになれば朝から夕方までびっちりいるようになった。しかも子ども同士で遊ぶのではなく、大人がいる空間に混じって会話に普通に参加してくる。
まるで家族になったかのような素振りだ。
突然、親戚の子が1人増えたかのようなその状況に、私と母は大いに戸惑った。

だからといってその子の親御さんから連絡が来たことはなく、こちらから電話しても、出ることも、折返し着信があることもなかった。

さすがに困るということで、母は少しずつ姪に「あの子とは遊ぶんじゃない」と言うようになった。姪も実はその子と仲が良かったわけではなく、何だか知らないけどつきまとわれている、という感じで。
この家は遊びに来ても断らないとわかって家に来ている感じだった。

とはいえ、遊ぶことを断るよう伝えることはあの子を路頭に迷わせるんだろうか、とか…そういう思いも大人の胸にはよぎる。
それは、とても嫌な気持ちだった。

でもその子はその後、姪以外のターゲットを見つけたようで、違う子の家に入り浸るようになっていたようだった。
その子はその子で、生きることに必死なんだと思う。
そうしないと食べ物がないし、居場所もない。

でも、親が育児責任を放棄したよその子を、突然笑顔で何事もなく毎日受け入れられるほど、器が大きな大人なんてそんなにいないのも現実だろう。

***

長女が「見てー!」と滑走するのに私が気を取られた瞬間、私の脇にいた次女が転んだ。

私が、慌てて次女を抱え起こそうとしているすぐ近くで、その子がわざとらしく転ぶ。

もう嫌だ、帰る、と次女が泣き出したので、椅子に座らせて靴を履き替えさせていると、その子は沢山空いている椅子があるのにあえて隣に座って、一緒に靴を脱ぎ始めるのだった。

スケート靴を脱いで普通の冬靴になった次女は身軽に歩いてリンク周りで雪遊びを始めた。私が靴を拭いたりして片付けをしている横で、その子は無言で距離をつめてくる。何か話しかけてくれないかな、という風に。

きっとこの子は、大人である私に何かしらの助けを求めているのだろう、と思う。

とても寒い日だった。この後私は、家に帰る前に子どもたちとコンビニに行って温かいものを買ってあげるつもりだった。この子にもあんまん一つぐらい買ってあげるぐらい大して難しいことではなかった。

でも、優しくすればするほど、この子はその後も付いて来ようとするだろう。でも私はそれ以上何かしてあげられないし、してあげるつもりもない。

中途半端な優しさは、最後まで貫けないなら返って残酷になる。
なので私は目の前に転んだ二人の子がいても、我が子にだけ手を差し伸べる。

冷たいと感じるかもしれないが、我が子だけでいっぱいいっぱいの状況で、他の子に手を差し伸べる余裕なんて私にはない。

『将来の子どもたちの未来が明るくなりますように』なんて言いながら発信活動をしてはいるけれど、それは、私自身が手が届く範囲の子すべてに直接手を差し伸べて子どもを助けたいというものとは少し違っている。

子どもにやさしい世界を作りたい、という願いと、私個人が関わるすべての子に優しく出来るかは別の話なのだが、伝わるだろうか。

私自身という人間のキャパでは、正直、自分の子ふたりで手いっぱいなんである。自分一人で生きるのもいっぱいいっぱいなのに、何故二人も産んだんだと思うことすらある。だが、産んだからには1人で生きていけるようになるまでは手を差し伸べられる親ではありたい。

よその子を助けるために手を使って、我が子に手を差し伸べられなくなることを、私は望まない。

その子は私たちが帰るための車に乗り込んだあと、ひとりぽつんとうつむいてスケートリンク脇に立っていた。帰るでもなく、また滑るでもなかった。

後ろ髪を引かれる思いだった。
私はあの子に、何かしてあげるべきだったんだろうか。
あの子は何を求めていたんだろう。

自分が直接何もしてあげられないなら、児童館とかに連れていけば良かったんだろうか。そうしたらせめて温かい思いは出来たろうか。
でも、ひとりでスケートしに来る行動力がある子なら、ひとりで児童館ぐらい行けるんじゃないだろうか。何で、そこで、スケートだったんだろうか。

もしかして私の勝手な思い過ごしだったろうか。

そうだったらいい。

あの子はただ何となく1人でスケートに来ただけで。
これから家に帰ったら、ストーブにあたって、温かい飲み物が飲めるような、そんな子だったらいい。

そう思いたいのは、私がその子に何もしなかった後ろめたさのようなものなんだろうとも思う。

こういう子は子どもを連れて遊びに出かける中で何度か遭遇した事がある。
子ども同士で遊びたがるのではなく、大人に媚びるようについてくる子ども。何か助けを乞うような目で見てくる子ども。

そういう子にはどう接するのが正解なのか、いつも悩む。

もしも今まであったそういう子たちが、私の想像した通り、ひとりぼっちで頼る大人がいない子なのだとしたら。

その子の家族は…目の前の小さな命を差し置いて、一体何をして過ごしているんだろう。


後日追記

放置子だった人のカミングアウトが載っていたので、メモとしても貼っておく。参考になります。感謝。


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