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台風の日に、グレタ・トゥンベリさんの本を読みながら。『グレタ たったひとりのストライキ』(海と月社)(エシカル100考、62/100)

台風におびえながら、グレタ・トゥンベリさんの本を読む。

気候危機という言葉が、とてもリアル。

そしてグレタさんの演説が、トーンポリシングを引き起こすような強い警告なのかも、わかる気がする。

台風の真っただ中では、セクシー・楽しく・ポジティブよりは、正確に事実を見すえ、行動に移せる情報伝達が必要なのだと、今更ながらに思わざるをえない。

「私たちの家が燃えています。」

「このテーマで、いまもっとも必要なものが希望だとは思えません。それでは、この危機のいちばん大切な部分を無視しつづけることになるでしょう。もし僕たちが気候に関する本をつくるなら、まず第一に、差し迫った危機の真っただ中にいると伝えます。希望はたしかに重要ですが、それはもっとあとでいい。あなたの家が燃えているとしたら、のんびり家族でキッチンテーブルに座って『よかったな、これで建て直しや改築ができるぞ』なんて話さないでしょう?自宅が燃えさかっているのを見れば、誰でも消防署に通報し、周りにいる人を起こして、身をかがめて玄関ドアに向かうでしょう?」

「必要もないときにパニックになるのは最悪です。でも、家が燃えていて焼け落ちるのを防ぎたかったら、ある程度のパニックは必要でしょう。」

『グレタ たったひとりのストライキ』(海と月社)は、グレタ・トゥンベリさんを中心にした、グレタさん家族の物語。お母さんのマレーナ・エルンマンさん(世界各地で公演するオペラ歌手)が書き手となって、家族の歩みをつづった本。

グレタさん、ならびに妹のベアタさんともに、社会とのズレを抱えている。アスペルガー症候群、摂食障害、選択制緘黙症、ADHD、自閉症スペクトラム、音嫌悪症候群・・・。

それらとともに歩む家族の日々は、もうそれだけでドラマ。福祉国家の印象が強いスウェーデンでも、教育や日常生活においてケアや包摂がされにくい実情が書かれている。男の子なら早い段階で支援を得られるが、女の子が診断をうけるのはずっと遅くなる、などの性差の問題も挙げられている。

社会への違和感が基底にあるなかで立ち上がってきた気候危機への対応を求める活動だから、すさまじく芯の強い、存在をかけた訴えになるのかもしれない。

「両親を感化したのは私であって、その逆ではありません」

という言葉の通り、グレタさんが過集中気味に取り組む気候危機について、両親や妹がそれぞれの距離を保ちながら巻き込まれて自分事としていく過程は、家族再生物語のような様相もあり(もちろん、ワイドショー的お涙頂戴は全くないけど)、じんわりと感動的。

後半にかけて気候危機についての話題が多くなり、終章で「たったひとりのストライキ」の始まりと広がりが描かれている。

耳の痛い記述も多い。

「この世界でなにより大事なのは経済。本来なら危機として対処されるべきものまで、新しい「エコな」経済成長の可能性として扱われる。」

「持続可能な解決策を見つけることに関して、私たちは企業の努力と意欲に頼りきっている。だが、企業にだけ責任を押しつけることはできない。それは公平でも合理的でもない。株式会社の目的は経済的利益の追求であって、世界を救うことではないのだから。このふたつの目的は矛盾しないとよく言われるが、そんな主張は間違っている。だからグリーンウォッシングという現象が発生する。美しい言葉と実際の行為のギャップ。新しい技術に見せかける技術。」

「「気候は現代人の運命を左右する問題です」と、政治家たちは突然発言するようになったが、それは話のついでであり、話の分析の度合いは週刊誌に載っている星占いと同程度だった。対策をとるべきは他の国々ですーーこう言っていれば票が集まる。」※スウェーデンの政治について。日本なんて、、。

「いちばんやっかいなことは何?」「たとえば、原因は人口過剰だから、人口を減らせと主張する人がいる。」「それから、原子力について話す人たち。」「だけど、いちばんやっかいなのは売りこみに来る人たちね。」「便乗しようって人が多すぎる。私たちスト決行者は、気候を守る唯一の方法は誰もが謙虚になることだって言ってる。だけど私たちがしょっちゅう会うのは、野心家たちや機会があれば利用してやろうと思う人たち。」

「この星の限界を超え、持続可能とは程遠い生活をおくっているのは、ごく一部の人なのだ。問題は、私たちがそのごく一部に属しているということ。問題は、すでに十分すぎるほど事足りている私たちが、あらゆる状況で、もっとひどくなるように奨励されていること。」

巻末には、グレタさんのスピーチがいくつも収録されている。国連気候行動サミットの「How dare you」は載っていないけど、それぞれが読みごたえ充分。

思ったのが、たしかにグレタさんスピーチを基本は自分で書いているんだろうな、ということ。誰かに操られてるんじゃないの?なんて俗物的揶揄は多いけど、あのスピーチ力や機転はSNS時代の賜物で、クソリプ返しなどで磨かれたのだろう。クソリプも多少は役に立つのか・・。

気象独裁、なんて揚げ足取りもあるけど、自身がマイノリティとしていじめや無理解に苦しんできたこともあり、多様性や民主主義をとても重んじていることも伝わる。

そして、決して希望を否定しているわけではないのもわかる。条件つきながら。

「でも、人類はまだ失敗していません。そう、すべてを転換する時間はまだ残されています。まだ修正できるのです。すべては私たちの手の中にあります。ただし、いまのシステムの全面的な失敗を認めなければ、私たちはチャンスをつかむことさえできないでしょう。」

「私たちの家は焼け落ちつつあります。これからの未来は、これまでと同じように、文字どおりみなさんの手に握られています。行動するのに遅すぎることはありません。」「私の話を聞きたくないなら、それでもかまいません。なんといっても、私はスウェーデンから来た16歳の高校生でしかないのですから。でも、科学者は無視できないでしょう。それから科学も、未来を生きる権利のために学校ストライキを行っている数百万の子どもたちも。」

グレタさんを無視しても、科学者や科学や、数百万の子どもたちを無視しても、おそらく無視できないもの。

それは自分。

台風に危機感を、恐怖や不安を感じたなら、台風一過のその日から取り組めることはたくさんあるし、いままでのシステムを乗り越えていくチャレンジもできるはず。

まずは、台風で大きな災害・被害がないことを祈りつつ。我が身が無事であるように備えつつ。まだできることは、いろあるよ。

『グレタ たったひとりのストライキ』マレーナ&ベアタ・エルンマン、グレタ&スヴァンテ・トゥーンベリ(海と月社)


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