リクルート写真02

(続編)リクルート社員が”意識高く”行動できる理由。それは人事制度なんかじゃない!


前回、12月の中旬に人事の人達が持ち回りで担当するアドベントカレンダーでリクルートの人事制度周りのことを書いた。


前回伝えたかったことは、3つあって、

1. 組織においては、現場での日常的なコミュニケーションやカルチャーこそが人を動かす。人事制度が動かすのではない。
2. とはいえ、コミュニケーションやカルチャー浸透を後押しするものとして人事制度は必要。
3. 人事制度が力を発揮するためには、力の強いお兄ちゃん的存在が必要。それは「業績管理」と言われる仕組み。リクルートはここが強い。


という感じ。


リクルートの事自体を書くのが目的ではなく、あくまでも題材にして、経営が良くなるための人事の本質を抽出できたらうれしいな。

前回、3つめの「業績管理」について書くことができなかったので、今回はそこをメインにしたい。


業績管理とはそもそも何か?



「業績管理」という言葉は、世の中的には2つの意味で使われる。“パフォーマンス・マネジメント”とも言われる。

1.戦略的/管理会計的な意味

会社が目指すゴールと打ち手を決めて、その進み具合をみていくこと。

会議などで「戦略の筋が悪くて突き返された。」とか「数字が未達で詰められる。」などの風景はこっちの領域。

小難しく言うと、ビジネス上で重要なKPIやKGI(たとえば売上、粗利など)の進捗を定期的に把握し、PDCAを回すこと。


2.人事的な意味

一方で人事的な文脈で使われることも多い。ゴールを達成するために、「人にどうやってモチベ高く行動してもらうか?」という方法論のこと。

人事評価とも近い概念。

GE(ゼネラルエレクトリック社)が有名な評価手法(9ブロック)をやめたとか、評価しない方がパフォーマンスが上がるんじゃね?(“ノーレイティング”)で管理しようとか。

今回の「業績管理」はあくまでも戦略的/管理会計的な意味で使います。


「業績管理」のどこが強いのか?どの部分がお兄ちゃんなのか?



業績管理が強い(=機能している)と、人事制度も強くなる。リクルートで人事制度が強いとするならば、それは「業績管理」が磨き上げられているから。


業績管理の強さは、タテとヨコにある。


(タテ)
1 業績(=ゴール)の決め方がうまい。みんなが自分事になる。
(タテ)
2 作った業績(=ゴール)の進み具合を確認する方法がうまい。カルチャーが浸透する肝もここにある。
(ヨコ)
3 戦略の指揮者が人事を兼務していて必然的に”戦略的人事”になる。


業績管理のタテとヨコ?

タテは組織の縦糸のイメージ。
そしてヨコは横糸のイメージ。

要は、組織の階層間(上下)のコミュニケーションと、部門間(ヨコ)のコミュニケーション。



業績管理って、組織におけるコミュニケーション管理のこと。


一般的な業績管理とは、戦略と予算をトップダウン的にまたはボトムアップで決めて、共通経費を各組織に配賦して、、、など、とてもテクニカルだ。

でも、実際に現場で行われていることは、業績(=ゴール)をテーマにしたコミュニケーションでしかない。



今回は業績(=ゴール)をテーマにして人と人が何をどうコミュニケーションすれば強い業績管理になるのか?という点から見ていきたい。

「業績管理が強い状態」というのは、組織のタテのコミュニケーションとヨコのコミュニケーションが隅々まで行き交うこと。

という前提でまずタテについて見ていきたい。

(タテ)
1. ゴールの決め方がうまい。みんなが自分事になる。


まず、どうやって業績(=ゴール)が決まり、組織として動き出すのか?という話。

12月、1月頃から次の4月に向けて役員が業績(=ゴール)やそれに向けた戦略や予算などを考え始める。だから役員(執行役員レベル)の人事は年内に決める。ちなみに4月以降の予算は2月までに決める。

役員の業績(=ゴール)やら戦略やらを考える際には、部長またはマネジャー層を巻き込んで議論をする。投資や重要な打ち手は経営会議の場での承認が必要だけど、そこへの起案の段階から巻き込む。

業績、予算、戦略かマルッとはいっているものをリクルートではみんなミッションと呼んでいたので、ここでも以後はミッションと呼ぶ。

起案して決定したミッションは、部やグループへ分解されて落とし込まれていく。その様子が樹形図のようだから、「ミッションツリー」と呼んでいた。最近で言うところのOKRとも非常に近く、”OKR”という言葉があるずっと前からそれをやっていた。

例えば、「地域で働く人を増やすという」という最終ゴールがある場合のミッションツリー。

形式は様々だけど、自分がみてきたミッションツリーの粒度はだいたいこんな感じ。(か、もうすこし細かいか)

「目的」のところに書いている内容が”部”のミッション、「取り組みテーマ」に記載している内容が”グループ”のミッションというようなイメージ。

リクルートのHPに公表されているものをサンプルとして使わせてもらっています。

内部的にはもっと野心的な言葉が使われているけど、外部公表のものだから数字も入っていないし大人しい。


ミッションにヒトの想いと温度を乗せていく。


ポイントは、”本当に上下関係なく、意見をとり入れて作り上げる”ということ。
部長やグループマネジャーレベルが最初に作ってくる場合も、役員レベルの上位者が一旦作って持ってくる場合も、あくまで「たたき」の位置付け。


「たたいて良くする」という前提があるので、職位に関係なく本当に遠慮なく意見をストレートに言う。


業務時間としてやる場合もあるし、合宿好きなので、そこでじっくりとたくさん議論をして創り上げる場合もある。

「そのミッションを達成できたら誰がどういうふうに嬉しいんだっけ?」
「自分たちは”何屋です”と言えるんだっけ?」
「今のリソースでやりきれるんだっけ?」
「それって圧倒的No.1になれるんだっけ?」

理想と現実を行き来しながらゴリゴリと議論。

ミッションはツリー上に連鎖し、きれいにグループや個人まで展開されていくけど、ミッションツリーという「フォーマット」ではなく、それを作り上げる時の「コミュニケーション」が肝。


「忌憚なく意見をストレートに言うことが正義」


という場づくりは、マネジメントする側の責任。そして同時に、立場にかかわらず意見を言わなかったら後々自分の責任だよ、というルールで議論をする。

この”ストレートさ”があるから組織としての進化がある。

本質的な意見が出る。

後々の陰口や批判も少なくなって組織としての変なエネルギーロスにもならない。陰口とか言っていると「あの時言うべきだよね。当事者意識ないね。」とか「他責だね。」と言われちゃう。

ミッション(ツリー)は、期初に必ず行われるキックオフミーティングの場で全社キックオフ→部単位キックオフ→グループキックオフと共有される。

共有された側も”自分事”にするために、「自分は明日からどうするか?」というディスカッションがキックオフミーティングの中で行われる。

ミッションに個人の想いやエネルギーを乗せていく。ミッションが自分事になる。


人事制度への接続は当然スムーズ


ここまで前振りをきっちりとやり、みんなを巻き込んで納得感と当事者意識を醸成していく。

時間や労力は多少かかるが、最終的にどっちの方が経営効率がよいか?という話。費用対効果はかなり良い。1度、2度実践すれば、もう次からは当たり前に必要なものとして定着する。

この後で、やっとミッションを評価シートにおとしこむ。(評価シートは「will/can/mustシート」。古い人は「ミッションシート」とも呼ぶ)

人事制度との接続がやっとここから始まる。

人事制度側への”お膳立て”は十分。

当然各人のミッションやゴールは強く意識される。それを3か月後、半年後に評価されることに意味が出てくる。

ゴールに対して、内発的動機付けができている状態とも言える。それを(外発的動機付けが主な機能である)人事制度で補強する。このニコイチができている状態を期初に頑張って作り上げる。

「評価されたいから頑張る」の状態ではない。

「業績管理が強いと、人事制度が強い。」というのはこういう事だと思う。


 

とても長くなってしまったので、タテの2つ目とヨコは次回にします。

本日のまとめ

人事制度のお兄ちゃんである業績管理は、業績を題材にしたコミュニケーション管理という捉え方ができると思う。
業績(=ゴール)は、見える化(ツリー化)したりもしながら、みんなの自分事になるまで想いを乗せていくのが経営としては費用対効果がとてもよい。
そこまで業績管理側でお膳立てすれば、内発的動機付けは完了。外発的動機付けの役割をもつ人事制度とサンドイッチができる。


次回は、リクルートはめちゃくちゃ「ちょっと相談いいですか。」の文化。この相談の中で繰り広げられるコミュニケーションが、カルチャーの醸成と浸透に直結する、という話を書きたいと思っています。









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