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SC100人会レポ-ト 第1部「最高の学びの場のデザイン」

5月11日(土)に開催された「100人の科学コミュニケータ―で"乾杯"大交流会」のパネルディスカッションの様子をレポート。科学館、研究機関、教育機関に所属する科学コミュニケータ―たちが「最高の学びの場のデザイン」をテーマにトークを繰り広げました。※第2部は後日公開、第3部「科学コミュニケーションをアップデートせよ!」はこちら

パネリスト
なおやマン 島崎直也(sakumo佐久市子ども未来館 館長)
野副 晋(千葉市科学館 課長/科学コミュニケータ―)
高橋将太(高エネルギ―加速器研究機構 広報室)
岡本 元達(大阪教育大学附属高等学校池田校舎 教員)

ファシリテーター
高橋 麻美(MSC日本事務所 漁業担当オフィサー)

「きっかけ」や「専門」「教育」として学びを提供

科学館や研究機関、学校現場はいずれも、社会の中で「科学に関する学びの場」としての役割を担っています。登壇者の自己紹介に続き、それぞれのモチベーションや目標を整理するところから始まりました。

なおやマン:佐久市子ども未来館は、「毎日の当たり前をワクワクに」というコンセプトで、「“もの”と“ひと”のコミュニケーション」を大切にしています。“もの”と“ひと”も全て含めて、お互いが尊重し合える社会をつくっていきたい。

野副:千葉市科学館はお子さんの来館が多いので、個人的には、キャリアの「きっかけ」になる場でありたいと思っています。将来ノーベル賞受賞者や偉大なエンジニアが誕生した時に「子供のころに千葉市科学館に行ったのがきっかけ」と言ってもらえたら良いな、と。

将太:素粒子を知ってもらいたい。できれば、「宇宙」と同じくらい“市民権”がある言葉にしていきたいです。素粒子研究は巨額な投資が必要なビッグサイエンスでもあるから、そういう関心も持ってもらいたいし、研究機関として、そのための学びの場も提供していきたいですね。

岡本:今の社会は、課題を発見する力や、解決する力が必要とされる時代。学校では、知識を習得して専門性を高めるだけでなく、そういう力を身に付けてもらいたい。受け身ではなく、アクティブに学んでいく生徒を育てたいと思っています。

麻美:こうしてみると、「きっかけ」や、「説明責任」のニュアンスもあったし、あと「育てる」「教育」のように、「学び」といっても、いろいろなキーワードが出てきますね。

キーワードが出揃い、話はそれぞれの場の特性や大切にしていることに進みます。

なおやマン:子どもたちに、大人の事情や社会と関係ないところで、自分の力を自由に使ってもらいたいと思っています。職業体験や商品開発のように、社会に触れながら学ぶ場も大切なんだけど、それだけじゃなくて。子どもだからこそできることでも、力を出しほしい。そこでの発想から、大人が学ぶこともできるんじゃないかと。

野副:千葉市科学館は教育委員会との結びつきが強い。具体的に、小中学校の校長など、キャリアを積んだ教員OBが科学館アドバイザーとして6人所属していて、市内の学校は100%科学館に来てくれます。学校ではできない、科学館ならではのことを提供するように心がけています。

将太:研究所の特色は、本物の研究者がいること。研究者はみんながみんな、教えるのが上手なわけではありません。でも仮に、話が難しくて全部わからなかったとしても、熱い想いや、研究を面白がる姿勢を伝えられるメリットは大きいと思っています。人柄や熱意を見せる学びも、アリなんじゃないかな。

岡本:科学館や研究所のような専門的な場がある中で、学校がなぜ必要か。おそらく2つあって、ひとつは「多様な人がつながる場所」。趣味趣向が似た人が集まるSNSと違って、学校は価値観や興味が多様です。もう一つは、専門的なことを学ぶにも、「学び方」を知っている必要がある。試行錯誤して失敗しながら学んでいく、そういうプロセスの体験が重要だと考えています。

左から熱弁をふるう岡本さん、高橋さん、野副さん、なおやマンさん

「学ぶプロセス」の体験を実装するための障壁は?

「試行錯誤から学ぶプロセスを体験する」ことは「科学の考え方を身につける」ことでもあり、みんなが重要性に共感するところ。そうした「学び」は、どうすればつくっていくことができるのでしょうか?

麻美:岡本さんが言うようなマインドは、先生方の間ではマジョリティなんでしょうか?

岡本:現実はそうなっていなくて。理科の授業の実験も、現場は「なるべく失敗させない」という意識が働きます。でも、実験をやることの本当の価値は、なかなかうまくい中で「なんでやろ?」って考えて、検証していくことだと思うんですよ。

野副:実は、科学館も似た悩みを抱えていて。親の思いは「成功体験をさせたい」んです。ワークショップで意図的に試行錯誤する時間を入れても、「もっと手際よく」と言われてしまうこともある。

岡本:次の指導要領には「研究のプロセスを学ぶ」が入っていて、授業でやるタイミングに来ているんです。でも、教員全員が指導要領を読み込んで、ちゃんと実施することは、現実的には難しい。意識を変え、それを実現するという二重の課題が、現場にはあります。

会場とインタラクションしながらディスカッションを進めるファシリテーターの高橋麻美さん

ならば、「大人は学びのターゲットにならないの?」。会場からのコメントを受けて、話が展開します。

野副:千葉市科学館も、大人向けの研究者を呼んだ講座など、いろいろな方々を招き入れるよう試みています。ただ、一番来てほしい“子供の親”にリーチするのがなかなか難しい。

なおやマン:子どもの力をよく見て、それを発信していくことで、大人が子どもから学べることの可能性は大きいと思うのですが。

将太:研究所のイベントもシニアは来てくれるんですが、30〜40代は難しい。企業さんと組んでカフェでイベントやったり、ニコ生をやったりと、試行錯誤しています。小学生向けのイベントに親子で来てもらい、家に帰ってから「今日はどうだった?」みたいな対話が生まれる形を狙うのも良いかも。

麻美:親御さんに触れる機会が多そうな学校現場は?

岡本:学校も預かった生徒を育てる場なので、保護者への教育は難しくて。親御さんにも信念があったり、「放任主義で任せています」だったりするんですよ。踏み込むのはリスクもあるし、できることの限界を超えてしまうんです。

連携とマッチングで突破口を見い出せ!

「試行錯誤して学ぶプロセス」の価値は、知識や情報と異なり抽象的なことや、成功体験を求める大人の気持ちもあり、浸透しにくい現実があるようです。その障壁を突破するために、どんなトライができるでしょうか?

麻美:学校の中だけで実現が難しいのだとしたら、研究所とか、外に預けてしまうことは可能なんですか?

岡本:外部の力を借りられるなら、とてもありがたいです。学校は生活指導とか、いろいろなことをやる必要があるので。ただ、そういう人がどこにいるのか分からない状態なんです。

麻美:将太さん、KEKにはそういう依頼とか、来たりしますか?

将太:依頼に応じて「KEKキャラバン」のような形で、研究者が無償で出前授業をやることも可能です。ただ、研究者たちは指導要領読んでないけど、良いのかな?

岡本:指導要領を読むのは「できれば」くらい。それ以上に大事なのは、教育現場とコミュニケーションをとりながら「こういうのができる」とマッチングさせることです。指導要領には「科学館や大学と連携するときには、この項目」というオーダーもあるから、それに基づいても良いわけだし。

将太:逆に、こちらのプログラムを先生方向けにアレンジして、どんなものか知ってもらうこともできそうですね。

「学び」を根本的に変えていく難しさをあらためて感じながら、最後はそれぞれの立場からのマッチングの話に。

将太:組織の壁もありますよね。協定とか必要になるし。慎重になりすぎて機を逸してしまうところを、改善できないかなぁ。

野副:特に公的なところは、平等を意識しすぎるとなかなか難しい。さりとて、例えば校長先生との直接の縁で事業を始めると、校長先生が交代するときに終わってしまう。入り口は属人的で良いから、それを組織と組織の関係に発展させることが、大切じゃないですかね。

将太:それは、組織としてのモチベーションだけで片付く問題でもなくて。やっぱり仕事は増えるわけだから、うまく回していく工夫なんかも必要で。

岡本:壁という意味では、いきなり教育委員会だと一番壁が高い。なので、教員の研究会と連携してみるところからはじめるのも良いかもしれません。

野副:千葉市科学館は、教育委員会との結びつきが強いから、なんかやりたい人、ひとまず連絡ください!

麻美:どこに働きかければいいのか。どう壁を突破するのか。「うちとやりましょう」「ぼくたちはこんな事できます」って、発信していくことが大事ですね。

「最高の学びの場」をテーマとしたセッションは、「試行錯誤しながら学び方を身に付けていく」をどう実現していくのかを中心に展開しました。現場の文化を変えるところまでは一筋縄ではいかなそうですが、さまざまな立場の人が存在する科学コミュニケーション界隈が連携を図ることで、少しずつ突破口を見出せるのかもしれません。

文章:谷明洋

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