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照明は点ける?点けない?

このマガジンは建築士である私が、どのような考えで建築写真を撮っているかご紹介するものとなっています。
クライアントである建築士が欲しい建築写真のヒントになればと考えています。

建築空間には2種類の光源があります。
外の自然光と照明器具の人工光です。
今回は人工光の扱いをどう考えて撮影しているか解説します。

1.照明器具の役割を考える

照明器具はなぜ必要なのか?

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それは暗い場所を明るくするためですね。
そのため夜の建築写真を撮る時は、必ず照明を点けます。
当たり前なんですが、この当たり前についてちゃんと考えることが大事です。
例えばこの写真(自邸です)

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南側に面したLDKで明るく開放的

写真と一緒に、よくありそうなキャッチで説明されていたとします。
矛盾していませんか?
南側の光が入っていて明るいと言っているにも関わらず、左上の照明器具が点いている。
これを見たお客さんの中では、「本当は暗いんじゃないの?」なんて疑ってしまう人もいるかもしれません。
やはりそこはなぜ照明器具を点ける必要があるのか、空間と説明が一致している必要があります。

2.イメージと実際の写真にはギャップがある

では先ほどの写真の矛盾を解いたものがこちらです。

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照明が消えていて、程よく陰影が出ていて、光の光線もわかって、南側に面した明るい空間なんだなということが素直に伝わります。
しかし実際撮影し、レタッチしていないデータでの見え方は違います。
それがこちらです。

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ただ撮るだけだと左側は真っ暗なんです。
実際現場に来た時のイメージはレタッチ後のもので間違いないと思います。
人の目や脳は優秀なカメラで、明るい部分と暗い部分の差を自動補正して見せてくれます。
写真はただ撮るだけでは自動補正されないので、明るい所は明るく、暗い所は暗く写ります。
この差を埋めて、人が見ている自動補正後のイメージに近づける作業がレタッチ(現像)作業になります。
今回の写真でのレタッチ工程は、シャドー(暗い部分)を上げて(明るくする)、ハイライト(明るい部分)を下げて(暗くする)、明暗差を小さくして、あとは全体の明るさとコントラストを調整したといった感じです。
実はこのレタッチ工程の差が、住宅1件5万円で撮ってくれる人と、20万円で撮る人の差である場合があります。
写真って現場でシャッターボタン押して終わりでしょ?なんて勘違いされている方がいます。
でも見ての通りレタッチでここまで写真は変わりますし、当然時間もかかります。
この時間のかけ方の差が人工料の差になり、価格差になるといった仕組みです。
例えば20万円の撮影技術の中には露出ブレンディングといった手法を用いる方がいます。
同じ構図で露出別(明るさ)に写真を撮影し、それを合成することで白とびや黒つぶれのない、滑らかな光で空間を表現する手法です。
1枚の写真を仕上げるのに何枚も写真を撮り、それをパソコン上で合成して、レタッチすると文字にするだけでも労力がかかることと容易に想像つくと思います。
どれぐらい手間のかかる作業か興味ある方は、以下のサイトで見ることができますが、おそらくハイアマチュア以上のレベルで写真をやっていないと理解できないと思います。

3.伝えるイメージの違いで使い分ける

一般向けの住宅情報誌に掲載している写真の8割(感覚的に)は、昼間でも照明を点けているのに対して、プロ向けの雑誌、例えば新建築の住宅特集に掲載されているものは照明が消えている場合が多いです。

それはなぜか?
私の考えでは、おそらく伝えたい情報の違いによるのかと考えられます。
同じ構図で照明の点灯、消灯で見比べてみましょう。

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<照明点灯>部屋の隅々まで光が回っていて、陰影が少なくて全体的に明るい印象でが伝わってきます。

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<照明消灯>庭から光がさしてきて、素材に陰影があり、無垢床や天井のシナ合板の質感が伝わってきます。

「全体的に明るい」「庭から光がさして」という部分に注目します。
まず写真を見た時にそれぞれどこを見ましたか?
点灯時の写真はボヤッと全体を見て、消灯時の写真は庭の方から見ませんでしたか?
この違いの理由は、写真の見え方の特徴として明るい方から見るという特性があるからです。
次に陰影の差ですが、陰影があるものには立体感を感じます。
立体感があると、素材の質感が伝わってきて、どんな触り心地なんだろう?とか想像を掻き立てる要素になります。
この二つの違いから、照明点灯時は3秒でページをめくるような一般住宅情報誌のような広告向けの写真で、消灯時は3分でも凝視できそうなプロ向けの情報量の多い写真という違いが生まれます。
逆にこれらの伝わる印象を理解した上て空間づくりをすることで、広告面でも目を止めてもらえ、凝視しても想像が掻き立てられるものになると考えられます。

4.まとめ

照明を点けるか、点けないかで伝わる印象が全く異なります。
どう伝えるか、どんなテキストにのせて伝えるかによって矛盾を生じて恥ずかしい思いもしかねません。
また人の目で見る印象と、写真で撮った印象を埋めるレタッチ作業が重要で、そこにプロに頼んだ際のコストの差が出ている場合があります。
建築写真は住宅会社、設計事務所の仕事を次のお客さんに伝える大事なツールです。
どのように伝えたいのか、どのように伝わるのか、それが誰をターゲットにしたどの媒体に載るのかによって使い分けても良いかもしれません。
それらの判断で迷った際は、この照明をなぜ点けたのかといった根本に戻って考えてみてはいかがでしょうか。

私の撮影実績は、ポートフォリオサイトからご覧いただけます。


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