見出し画像

「才能ではなく努力を褒めろ」の研究は再現性がないという事実

才能ではなく努力を褒めると子どもは伸びる。「Growth Mindset(グロースマインドセット)」と呼ばれる成長のための心理的枠組みの構築について、それを子どもの教育に活かそうという論調が日本の子育て社会を席巻している(と思う)。

努力を褒める。日本人にとても聞こえのいいスローガンだと思うし、実際、そうしてあげたいなと強く思う。

けれども、その根拠となった20年前の研究はその再現性において問題があるらしい。

Praise for intelligence can undermine children's motivation and performance.(知性を褒めることは子どものモチベーションとパフォーマンスを低下させる(or害する))」と題された研究は、1998年に発表され、瞬く間に教育現場に広まり、様々な場所でその取り組みがなされてきた。けれども、結果として「あまりうまくいっていない」というのが現状のようだ。2018年には過去の実践研究を網羅したメタアナリシスで「 ‘little to no effect of mindset interventions on academic achievement for typical students’(一般的な学生について、グロースマインドセットを目的にした介入は学業的な達成にほとんど効果がない)」と結論づけられている。イギリスやチェコの学校での調査では悪影響があるという結果も出ている。(「記事:The Growth Mindset Problem」より。)

上記の記事の中で、この研究を論文として発表した著者の一人である研究者Carol Dweckの2017年のブログが紹介されていた。タイトルは「Growth mindset is on a firm foundation, but we’re still building the house(グロースマインドセットの基礎は強固だ、けれどもまだその上の家は建築中だ(直訳))」。

グロースマインドセットを教育現場に導入しようとする過程で、多くの誤解が生まれていてうまく運用されていない、というのがこの研究者の主張だ。上のブログとは別に、2015年のインタビューでも以下のようなことを言っている。

「‘The thing that keeps me up at night is that some educators are turning mindset into the new self-esteem, which is to make kids feel good about any effort they put in, whether they learn or not. But for me the growth mindset is a tool for learning and improvement. It’s not just a vehicle for making children feel good.’ 私を夜も眠れなくさせているのは、教育者の中に、グロースマインドセットの概念を「どのような努力をしても子どもの気分をよくしてあげる」ような新しい自尊心に変換してしまっている、人がいるということです。 しかし、グロースマインドセットは学習と成長のためのツールです。ただ子どもたちをいい気分にさせるための道具ではありません。」(拙訳失礼します。)

「努力を褒める」、けれども、「どのような努力でも褒めていいわけじゃない」。

おそらくそこが、教育現場での実践でこの理論が失敗してきたポイントなのだと思う。

昔、一緒に働いていた教員に「本当に誰でも実践できる素晴らしい教育方法があるならとっくに世の中変わっているはずだ」と言われたことがある。

本当にそうだと思う。

理論を簡単に取り上げて「成果があると信じ込ませる」のは罪だと思う。