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ヤフーはなぜ”岩田社長のみ”を標的にするのか

”売渡請求”は最後の切り札となるか

7月17日にヤフーが連結子会社であるアスクルの岩田彰一郎社長の再任に反対すると発表してから9日間が経過しました。アスクルは取締役や社外役員で結成している独立役員会がヤフーを批判する記者会見を行いました。しかし、無情にもヤフーとプラスは24日、岩田社長の再任に反対する議決権をオンライン経由で行使したと発表。岩田社長の退陣は不可避の状況です。

アスクルは26日(今日)、「ヤフーに対する当社株式の売渡請求にかかる取締役会の招集」を発令。取締役会を定時株主総会の前日の8月1日に実施すると発表しました。”売渡請求”という最後のカードがヤフーの動きを止めることができるのか、最後まで予断を許さない状況です。

”岩田降ろし”の理由を分析

ヤフーとプラスは、アスクル経営陣の刷新を求めているのではなく、あくまで岩田社長だけの退陣を求めています。その理由が、周辺取材から少しだけ見えてきました。

アスクルの元社員は・・・

岩田社長は”イエスマン”を周りに配置し、耳の痛い忠言をする管理職を退けてきた。裸の王様となり、周りが見えなくなっている

と言います。退職している方なので、経営陣に不満があるのかもしれません。ただ、嘘をついてはいないと思いますので、真実も含まれていると思います。

岩田社長のワンマン体制が本当であるなら、ヤフーがロハコ事業の獲得のために岩田社長のみを引きずり降ろそうとしている狙いが理解できます。

プラス今泉社長との遺恨

さらにアスクルの元社員は・・・

プラスから派遣され、アスクルの副社長に就いていた前田恵一郎氏は短期間で解任している。その頃から岩田社長に対するプラスの今泉公二社長の心象は良くなかったのではないか

と推測しています。ロハコ事業のヤフーへの譲渡案はプラスの今泉社長の発案だったといいます。プラスの影響力を低下させていった岩田社長に不満を持つ今泉社長とヤフーは手を組み、”岩田社長降ろし”を仕掛けたと推測することができます。

岩田社長退陣後のシナリオは?

アスクルの最後の一手"売渡請求"が実現するのかどうかはわかりません。株主総会後もこの対立が長期化する可能性もあります。ただ、現状では株主総会で粛々と岩田社長(ならびに岩田社長を選任した社外取締役)が退陣に追い込まれることは必至です。

岩田社長退陣後、アスクルはどうなってしまうのでしょうか?現場は混乱して、機能不全に陥るのでしょうか?その点に関してもアスクル元社員の意見が参考になるかもしれません。

岩田社長が去った後は、吉田取締役COOが代表に就くと思う。プラスからアスクルに来ている古株社員は、定年退職まで岩田体制で過ごしたかったと思うので、ヤフーの影響力が増すことにヒヤヒヤしているだろう。若手社員はヤフー色が増すことに期待してるのではないか

と分析しています。実際はどうか分からないですが、この話が本当であれば、岩田体制崩壊後の混乱は限定的かもしれません。

ヤフーはジワジワと支配する

ヤフーはまず、トップだけをすげ替えた後、まずは現場の混乱を落ち着かせると思います。しかし、実効支配の状況は変わりませんので、ジワジワとヤフー色に染めていくでしょう。

組織体制を変えたり、人員(とくに高齢社員)を整理したりするでしょう。出資比率の見直しや完全子会社、上場廃止までやるかは分かりません。ただ、元々の狙いであるロハコのヤフーへの譲渡はほとぼりが冷めたタイミングに実行するでしょう。

アスクルがヤフーにほぼ半数の株式を売り渡した段階でこうなることは決まっていたのかもしれません。今回の件でコーポレートガバナンスの重要性や親子上場の問題など大変勉強になりました。ただ、最後にはっきりしたのは(まだ終わっていないですが)、資本の力には逆らえないという当たり前のルールだったということになるかもしれません。

EC業界向け専門紙「日本ネット経済新聞」で記者してます。EC、通販、モノづくり、流通、マーケティングなど取材していく中で紙面には書かない自分の考えや疑問について書いていきたいと思います