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限定感が鍵!ディズニーのEC戦略

あえて”不便なEC”をやる理由

ECの利点は場所や時間に拘束されずに買い物を楽しめることですが、最近は場所も時間も限定されたECと言うのが出ています。例えばディズニーのスマホアプリで利用できるEC「東京ディズニーリゾートショッピング」はその典型です。場所や時間を限定することで、”体験”と紐づけたショッピングを演出でき、ユーザーへの付加価値を高めることができるのです。

「東京ディズニーリゾートショッピング」は昨夏に提供を開始した「東京ディズニーリゾート・アプリ」の機能として提供されているECサービスです。最大の特徴は、ディズニーリゾートに行った人しか利用できないということ。しかも、行ったその日しか注文できないようになっています。普通に考えたら不便ですが、この”限定感”がディズニーファンの心をとらえています。

ディズニーの物販戦略

私の奥さんは生粋のディズニーファンです。日々、ディズニーグッズの動向を追い、買う気もないのにディズニーストアに立ち寄ったりしています。最初は意味が分からなかったのですが、話を聞いてみると、ディズニーは限定商品がめちゃくちゃあるということが分かりました。ちょっとディズニー好きの人でも当たり前の話かもしれませんが、男の95%はどこの店でも同じディズニーグッズが通年売られていると思っています。

シーズンやイベントごとにさまざまな商品が出るため、ファンはお気に入りのキャラクターの新しいグッズが出ていないか、今年のイベントのコスチュームはかわいいのか、チェックせずにはいられないのです。グッズもエンタメと言うわけですね。

当然、東京ディズニーリゾートの中でしか買えないアイテムもあります。日本における総本山だから当たり前ですよね。聖地に赴かないと出会えないアイテムがあるのです。

UXと売上の最大化を両立

ディズニーリゾートはいつも人でごった返しています。先日も年間の入場者数が過去最高を更新したというニュースがありました。奥さんによると春休みが一番混むらしく、年間パスポートを持っていても、その期間は聖地に足を運んでいなかったです。

ディズニーリゾートに行った方は、帰り際にお土産としてグッズを買い求めます。行ってすぐ買ったら1日中邪魔でしょうがありません。みんな帰りに買うのです。でもそうすると必然的にみんなが帰る時間にグッズショップが激混みします。買いたいものがあったけど、レジに並ぶ列を見てあきらめて帰る人もいるでしょう。これはディズニーにとっても、来園者にとっても悲しい結末です。

「東京ディズニーリゾートショッピング」はそんな悲しい結末を回避できる素敵なツールです。チケットを読み取ることで来園者を見極め、パーク内の限定商品をアプリで購入できます。アトラクションやパレードの合間にショップでグッズをチェックし、気に入った商品をアプリで購入すれば、商品は自宅に届けてもらうことができます。購入は来園した日の23時30分まで。当日しか買えないという限定感を訴求することで、帰りの電車で買うかどうか迷っていた人も、ポチっと購入ボタンを押してしまうわけです。

AKB商法も構造は同じ

以前、AKB48の劇場版CDを販売している会社に取材した際に、こういう話を聞きました。劇場版CDは元々、劇場で手売りしているCDのことで、アイドルの手から買うことができるという魅力があったそうです。しかし、AKB48の人気が高まるに従い、劇場版CDを求める人の列が長くなり、しまいには警察からおとがめを受けるほどの長蛇の列ができてしまったそうです。

そこで運営側が考えた手法が、「アイドルと握手してCDを売る」のではなく、「CDを買った人がアイドルと握手できる」という風に順番を入れ替えたそうです。握手(体験)とCD(モノ)を同時に提供するのではなく、提供のタイミングをズラすことで、販売のキャパシティーを最大化しようとしたわけです。

ディズニーも同じで、「来園してその場で買える」を「来園したらアプリで買える」と変えたことで、物理的なキャパシティーを取り払うことができました。この手法は今後、ミュージシャンのライブでの物販でも生かされるかもしれません。

ECのメリットである「どこでも誰でも買える」は、体験と紐づいたショッピングを演出する上では邪魔になることもあるようです。ユーザーのショッピング体験を輝かせるためにはあえて不便ともとれる限定感を演出することも一つの手かもしれません。


EC業界向け専門紙「日本ネット経済新聞」で記者してます。EC、通販、モノづくり、流通、マーケティングなど取材していく中で紙面には書かない自分の考えや疑問について書いていきたいと思います