公開されました。2022年8月15日 16時58分 BST

著者紹介
チャールズ・フォスター
グリーン・テンプルトン・カレッジ・フェロー、オックスフォード大学法学部客員教授

1989年以来、子供と若者のための英国唯一の性同一性診療所を提供してきたタヴィストックセンターの臨床判断と臨床カウンセリングは、現在、一部の元患者が起こした臨床過失の請求により、法廷で検討されることになっているようです。

同クリニックを運営するNHSトラストは、王立小児科・小児保健カレッジの前会長Hilary Cass氏による2022年2月の中間レビューを受けて既に閉鎖が決まっているが、特にいわゆる思春期ブロッカー薬の使用に焦点を当てた集団訴訟に直面していると伝えられている。

キャスのレビュー

キャスのレビューは、NHSイングランドが2021年に設置した多職種レビューグループ（MPRG）（まだ正式には報告されていない）と、2020年のケアクオリティ委員会のレビューの結果を基に作成されたものである。彼女の報告書は、1つのセンターのみによる子どもの性同一性サービスの提供を批判し、地域サービスの確立を推奨している。

しかし、指摘された懸念は、構造的なものだけではありませんでした。キャスは、そのセンターの "主に肯定的で非探査的なアプローチ、しばしば子どもや親の期待に左右され、サービス提供の遅れによって生じた社会的変遷の程度 "というMPRGの批判に同意しています。一次ケアと二次ケアのスタッフは、他の臨床場面で採用するよう訓練されたアプローチとは相反する、疑う余地のない肯定的なアプローチを採用するよう圧力を感じていると彼女に話した。

キャスは、「小児期や思春期における性別の不一致が、個人にとって移行が最善の選択肢となる先天的で不変の現象であるか、あるいは発達、社会、心理的要因の範囲に対するより流動的で一時的な反応であるかについての合意が欠けており、多くの場合、開かれた議論がなされていない」と指摘しています。専門家の経験と立場が、その臨床的アプローチを決定するのです」。

キャスの改革案のひとつは、特に示唆に富んでいる。2022年7月にNHSイングランドに宛てた書簡の中で、キャスは性別再調整クリニックに関わるスタッフについてこう主張している。"性的な苦痛を抱える子どもや若者のケアを、より広い子どもや若者の健康の文脈の中に組み込むために、...関連するサービスを横断して働くことによって、広い臨床的視点を維持すべき "と。

言い換えれば、性別適合は、それ自体が知的、倫理的、臨床的な島であり、異なる基準やスキルが適用されるべきものであると見なすべきではないのです。性別適合がもたらす臨床的・倫理的問題は、時に小児医療の他の分野と決定的に関連しています。

臨床過失訴訟において、そのような主張はどのように組み立てられるだろうか？キャスの報告書（中間報告）から結論を導き出すことには慎重であるべきだが、彼女の批判が正当であるならば、不十分な調査、他の病態の無視、不十分な研究の治療法の使用、患者の同意に関する問題など、いくつかのタイプの申し立てがありそうである。

不適切な調査

性別適合クリニックに来院する患者さんは複雑です。キャスは、「性別の不一致の原因が1つである可能性は極めて低い」と指摘しています。多くの著者は、性別の表現を生物学的、文化的、社会的、心理的要因の複雑な相互作用の結果であるとみなしています。彼女はまた、タヴィストックサービスに紹介された子どもの約3分の1は自閉症または他のタイプの神経多様性を持っており、ケアの子どもは過多であったことを観察しました。

このような複雑さには、洗練されたニュアンスと学際的なアセスメントが必要です。タヴィストックのアセスメントは厳格に審査されます。もし、ある評価が、関連する専門分野の責任ある意見団体によって承認されない場合（有名なボラムテスト - Bolitho v City and Hackney Health Authorityのケースで説明されているように - 職業上の過失訴訟ではよくある）、義務違反があることになります。そして、その違反が法律で認められた何らかの損害や損失（例えば、身体的損傷）を引き起こした場合、賠償金が支払われることになります。

その他の病態

キャス氏は、タヴィストックに来院する子どもたちの多くは、複雑なニーズを抱えていると指摘します。「いったん彼らが性別に関連した苦痛を抱えていると認識されると、地域のサービスで通常管理されているはずの他の重要な医療問題が、性別違和というラベルに包含されることがあります」。

タヴィストックでの長い待ち時間はこの問題をさらに悪化させ、子どもたちは「適切な評価、治療、ケアなしにかなりの期間」放置されることになりかねないのです。このような他の医療問題を見過ごしたことが過失とみなされ、損害が生じた場合、再び補償が必要となります。

思春期抑制剤

文献上十分な正当性が認められない治療を行ったことは、臨床過失のケースにおいて最も議論を呼び、最も関連性の高い問題であると思われる。タヴィストック病院は、性同一性についての決定的な決定がなされるまでは思春期を阻止することを目的とした思春期ブロッカー薬の使用で脚光を浴びている。批評家によれば、これらの薬物がどのような取り返しのつかない変化を引き起こすかについて、十分な知識がないとのことである。

Cassは、思春期ブロッカーに関する既存の文献の多くは、主に幼児期に発症した出生届を出した男性のコホートに基づいていると指摘した。しかし、最近の症例構成は全く異なっており、10代前半に発症する出生届を提出した女性が主体となっている。

キャス氏は、手紙の中で、10代前半までのセクシュアリティとジェンダー・アイデンティティの発達を促す思春期ホルモンの役割を十分に理解しない限り、これらのホルモンの急増を止めることが心理的性差とジェンダー成熟に与える影響について確信が持てない、と述べている。「したがって、思春期ブロッカーが意思決定の時間を稼ぐのではなく、その意思決定プロセスを混乱させるかどうかについては知る由もない」と彼女は述べた。

さらに、思春期の性ホルモンの急増が、「実行機能（計画、意思決定、判断に関係する脳の部分の成熟）の基礎となる神経回路の経験に依存した再配線のための臨界期を開始する引き金となるかもしれない」という懸念もあった。もしそうであれば、思春期ブロッカーによって脳の成熟が一時的あるいは恒久的に阻害され、リスクを伴う複雑な意思決定を行う能力に大きな影響を与える可能性があり、また長期的な神経心理学的影響も考えられる。現在までのところ、思春期ブロッカーが神経認知発達に及ぼす短期、中期、長期の影響に関する研究は非常に限られています」。

これらの言葉は、NHSトラストに対するクレームを処理するNHS Resolutionの廊下で混乱を引き起こしているでしょう。医学的見解の責任ある機関は、利用可能な証拠に基づいて思春期ブロッカーを処方しているだろうか？そうでなく、処方によって損害が生じた場合、請求は成功する可能性がある。

インフォームドコンセントの欠如

過去数十年にわたり、医療行為への同意に関する英国法は、患者の自律性を擁護することにますます重点を置くようになっている。治療が合法であるためには、十分な説明がなされなければならない。

タヴィストック病院は圧倒的な仕事量を抱えており（紹介数はここ数年で急激に増加）、そのために熟慮と説明の時間が少なかったのかもしれない。Cassは、「両親は...神経障害の子どもや若者の脆弱性について懸念を示し、これらの子どもや若者のコミュニケーションのニーズが評価プロセスや治療計画中に適切に反映されていないと表明している」と報告しています。弁護士は、「肯定的な文化」が貢献したのかと問うかもしれない。

そして、圧倒的に、研究不足の思春期ブロッカーの問題が再び出てくる。キャスは、報告書の冒頭の「子供と若者への手紙」の中で、「医師が治療を処方するときはいつも、あなたが大きくなったときに『なぜ誰もそんなことが起こるかもしれないと教えてくれなかったのか』と言わないように、利益が副作用を上回るとできる限り確信したいのです」と書いている。これには、治療を受けることと受けないことのリスクとベネフィットの両方を理解することが含まれます」。これは法律と倫理を正確に言い表していますね。

全く新しい治療法が必ずしも不適切というわけではありません。そうでなければ、技術革新はありえないのです。しかし、ある治療法が通常期待されるようなエビデンスに裏付けられていない場合、同意を得るためのプロセスを綿密に踏まなければならない。特に、説明の負担が大きい。十分な説明のない治療は、義務違反となります。

この訴訟の脅威は、性別適合性クリニックにどのような影響を与えるのだろうか？

キャスは、「子どもや若者のための性別適合手術のサービスを減らしたり、やめたりしてはいけない」と、はっきり言った。「逆に、もっと身近なところで、より多くのサービスが必要なのです」。NHSは、2023年春に全面オープンする予定のロンドンとマンチェスターの最初の2つの地域ハブのネットワークを作成することである。訴訟は、これらの提案に影響を与えることはありません。

しかし、訴訟による金銭的な影響は、このサービスが何を含むべきかということに心を集中させるだろう。潜在的な請求権者の数は不明です。訴訟当事者の弁護士の中には、1000人以上の個人請求者がいて、個々の請求額は数百万ポンドに及ぶと話す人もいれば、請求者の数がそれほど多くなるのかどうか疑問視する人もいる。

いずれにせよ、今後、患者に対する調査やカウンセリングはより充実したものになると思われる。思春期ブロッカーは、少なくとも現在主流となっている10代前半の出生届を出した女性への投与は中止され、熱心な研究の対象となりそうです。