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Blueneck


 Druid City Pride Festivalに出かけた。LGBTQ+のお祭りだ。ステージでは歌手やドラーグクイーンがパフォーマンスを披露し、周りでは様々な団体がテントを構えて広報活動を行っている。テントの一つでblueneck(青い首)と書かれたTシャツが売られているのが目に入った。見慣れない言葉である。redneck(赤い首)は知っている。田舎の保守的な白人、特に南部の男性を指して使われるのを聞いたことがある。元々は野外労働で首が赤く日焼けした白人農業労働者を指して用いられたそうだ(『ランダムハウス英和辞典』)しかし、blueneckとはなんだろう。
 店番をしている人に聞いてみると、It means country democrats”(田舎の民主党員のことだよ)と教えてくれた。続けてそれはChris Housmanという歌手のグッズであること、Housmanの1番のヒット曲が”Blueneck”だということ、さらにいままさにステージ上で歌ってるのがその人であることも教えてくれた。
 南部というと保守的な土地というイメージがある。共和党支持者が大半を占める州をレッドステート、民主党支持者が大半を占める州をブルーステートというが、アラバマを含めて南部の多くの州はレッドステートだ。共和党の色である赤とレッドネックの赤には重なり合うところがある。共和党支持者が多い南部のステレオタイプ的な人物像であるレッドネックをもじって、田舎の民主党支持者を表す言葉としてブルーネックという言葉を作ったのだろう。今回改めて調べてわかったのだが、共和党は赤、民主党は青という現在の色分けが定着したのは2000年の大統領選以来のことである。その先駆けとなったのがNew York TimesとUSA Today。New York Timesのグラフィックデザイナーによれば、その理由はとても単純なものだった。共和党(Republican Party)と赤(red)は頭文字が同じだからである。これ以来、現在の色分けが定着した。Blueneckという言葉の登場は、共和党と赤の結びつきが人口に膾炙し、さらに南部の白人といえば共和党支持者というステレオタイプが浸透したことを物語っている。こうした前提があってこそ、この表現が意味をなす。
 さて、肝心のHousmanの歌だが、サビは保守一色で塗り上げられた南部イメージを揺さぶる。最初の二行は"I'm a good ole boy with a bleeding heart / Just a homegrown hick with a hybrid car"(俺は同情好きのお人好し / 地元育ちの田舎者でハイブリッド車に乗っている)と歌う。南部的・農村的・保守的なものと北部的・都会的・革新的なものが混ざり合っている。"a good ole boy"は南部的なお人好しを意味する。"a bleeding heart"も同様に同情的な人に使うが、保守派が革新派を揶揄して使うことが多いそうだ(『ランダムハウス英和辞典』)。"a homegrown hick"は地元育ちの田舎者。ステレオタイプなイメージとしてはピックアップトラックに乗っている。対してa hybrid carは都市的なイメージを喚起する。南部に住んでいるからといってみんながみんなピックアップトラックに乗っているわけではない。サビの最後にblueneckが登場する。

"Yeah, I guess I'm a red state Blueneck"(そう、俺はレッドステートのブルーネックなんだろう)

Chris Housman, "Blueneck"

共和党が支配する保守的な州に住む田舎者のなかにも民主党を支持する革新的な人びとがいる。その当然すぎる事実を、Housmanはpride songに乗せて改めて教えてくれた。

今回取り上げた表現

Blueneck:南部、特に非都市部の民主党支持者。
Redneck:南部白人のステレオタイプ的な人物像の一つ。肉体労働に従事していて保守的な政治観を持っているとされることが多い。

クリス・ハウスマンのほか、二人のドラッグクイーンがステージ上でパフォーマンスを披露した

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