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貴女は「パッドマン」で新年早々非常識になりなさい


(画像は公式サイトから引用)


Bloody men! Half hour man bleeding like woman, they straight dying.
(阿呆共! 阿呆が真の女のように血を流せば、30分で死ぬ)
――劇中の台詞より――


ようこそいらっしゃいました。わたくしは日々大量のテキストを執筆していますが誰にも読ませるつもりはありません。ですが、「ザ・ボーイズ」が「プリーチャー」に続いてAmazonプライムでドラマ化され今年公開されるという絶好のタイミングであるにもかかわらず「ザ・ボーイズ」の続きを全然出版する気配のない業界に業を煮やしたわたくしが精魂を投入して執筆した「ザ・ボーイズ」のレビューが無期限公開見合わせの処分を受けたために正月早々焼き討ち衝動に駆られつつあったわたくしは、真の女の映画「パッドマン」を鑑賞してこの身に宿った破壊の力を解放することをなんとか思いとどまったということを、一応、報告しておきましょう。





平安時代を参考にロックなさい


本来、真の女は本質的に常識とは相容れぬ存在です。ところが世間は常識というものを根本的に誤解しているため、常識に重きを置かない真の女が、一方でクラシックなロック等の過去の遺産への称賛を惜しまないことを、あたかも矛盾した態度であるかのように考えるのです。いうまでもなく、真の女とは何かを知るものであればそのような誤解とは無縁なのですが。

たとえば、真の女の始祖の一人として名高い、堤中納言物語に登場する「虫愛ずる姫君」は、「人はすべて、つくろふところあるはわろし(どいつもこいつも、見た目取り繕ってるからダメなんだよ)」という理由で当時のメイクの常識である眉抜きを行わないどころか、お歯黒に至っては「さらにうるさし、きたなし(もっと面倒くせえし、きたねえ)」と言い放って拒否し、いと白らかに笑みつつ、この虫どもを、朝夕べに愛したまふのです。

このような真の女である虫愛ずる姫君がひとたび口を開こうものなら

「人々の、花、蝶やとめづるこそ、はかなくあやしけれ。人は、まことあり、本地たづねたるこそ、心ばへをかしけれ(そのへんのやつが、花とか蝶ばっかり好んでんのはつまんねえしダセえ。人間は、見た目じゃなくて真の姿を、本質を追求してこそソウルが輝くんだろうが)」

「烏毛虫の、心深きさましたるこそ心にくけれ(毛虫の、沈思黙考してる佇まいがグッとくる)」

と平然と時代を超えたクオリティの名言を連射し、親が姫君に

「人は、みめをかしきことをこそ好むなれ。『むくつけげなる烏毛虫を興ずなる』と、世の人の聞かむもいとあやし(結局ルックスが世間の好感度を左右するものだ。『キモい毛虫の何が面白いのだ』と世間から言われたらダサいと思わないか)」

みたいなことを言って矯正を試みれば、姫君は

「苦しからず。よろづのことどもをたづねて、末を見ればこそ、事はゆゑあれ。いとをさなきことなり。烏毛虫の、蝶とはなるなり(知るかよ。ありとあらゆることを考えて未来を踏まえてこそ、物事は意味を持つんだろ。単純な話だろ。毛虫だからこそ蝶になれるんだよ)」

と切り返して全然聞く耳を持ちません。貴女も古典を重んじる真の女であれば、是非ともこの、平安時代に生まれた痛快なパルプ短編小説をチェックすべきでしょう。

このような真の女である姫君の存在は、平安時代においてロックが既に完成していることを完全に証明しています。ですから貴女は是非とも平安時代を参考にしてロックし、常識に立ち向かう必要があると言えるでしょう。

それなのに、世の阿呆共とファッション腐女子は、常識というものを過大評価しすぎです。挙げ句、トランプの如き典型的阿呆が要職に就くや否や、「ポスト・トゥルースの時代だ」などと何ら内実が伴っていない空虚な言葉をもてあそびつつ、トランプ批判を通じて自らの正義に自己陶酔しているだけで、偉そうなことをほざきながら実は自分も何ら世界に貢献していないという単純な事実を忘れていられているというおめでたさです。

貴女は、正月休みもとうに終わったのですから、このようなおめでたさから一刻も早く目を覚ましなさい。貴女は常識という言葉を前にして臆病になりすぎです。常識などというものは、社会の同調圧力を通じて沈黙と思考停止を強いるプロトコルに過ぎません。そのようなことも知らずに貴女もただ沈黙して思考停止しているだけだから、トランプが出現する前だろうと後だろうと関係なくそもそも人類の歴史上これまで真実が社会で重視されたことなど一度もないという単純な事実から目を背けており、トランプが出現する前から大量破壊兵器も何もないよその国にでっち上げの口実で軍隊を送り込み平気で破壊するというデタラメがまかり通っていたのであって、トランプの台頭は人類が昔から相も変わらぬプレ・トゥルースの時代を生きているに過ぎないという事実を暴露しただけなのに、貴女は事実に怯えるがあまり、「ポスト・トゥルース」などという欺瞞に盲従して、トランプの阿呆を批判するためにクリントンのようなファッション腐女子を支持するが如き愚行に走っている有様です。

貴女が目を覚ますまで、わたくしは何度でも繰り返します。いいですか、真実など何の価値もない世界、常識という言葉で欺瞞のプロトコルに人々を従わせる世界こそ、今わたくしたちが現実に生きている、昔から全く代わり映えのしない世界です。常識の内容は常に間違っているか、そうでなければ何の根拠もない決めつけに過ぎず、常識が常識でいられるのは、常識が沈黙と思考停止によって守られているからです。

一例を挙げましょう。ロックミュージックの世界でギターをプレイする阿呆共は、もう50年以上、阿呆の一つ覚えで「マイナーペンタトニック」と呼ばれるスケールを弾くのが常識になっています。そして、ギターに手を出した若いキッヅはまず最初に「マイナーペンタトニックを弾け」と教えられ、なぜメジャーキー(長調)の曲でマイナー(短調)のスケールを弾くのか深く考えもせずに弾いてみると実際かっこいいのでマイナーペンタトニックばかり弾く阿呆の一つ覚え状態となり結果として音楽的に上達しなくなるのでほぼ大抵のキッヅはそのままギターから離れていきます。要するに、「マイナーペンタトニック」などという常識扱いされているスケールが実際には完全に間違っているにもかかわらず沈黙と思考停止によって守られているがために、このような悲劇が昔から繰り返されてきたのです。

ですから貴女も真の女を目指すのであれば、「マイナーペンタトニック」を根本的に疑ってかからねばなりません。試しに検証してみましょう。

Eマイナーペンタトニックであれば、そのスケールを構成する音はE(ミの音です)、G(ソの音です)、A(ラの音です)、B(シの音です)、そしてD(レの音です)となっています。二番目のG音がルートであるEから見て短三度の音程となっており、三度の音が長三度ならmejya(長調)になるところが短三度になっているために、マイナー(短調)の響きのように聞こえるので、「マイナー」ペンタトニックと一般に呼ばれています。

ですがこれは本当に、短調の音階なのでしょうか? 短三度の音があるから「マイナー」ペンタトニックなのは常識だと決めつけずに、ちゃんとスケール構成音を今一度検証なさい。G以外の構成音、E、A、B、Dの4音は、どのような関係にある音かを確認すると、それぞれルート、4th、5th、そして7thの音になります(ちなみにDを7thと呼ぶのは、ルートから見て短7度の音程にある音を単に7thと呼んで長7度の音を区別してメジャー7thと呼ぶという意味不明な慣習があるからです)。

ルート、4th、5th、そして7thの音、これは一体……その通りです。「マイナー」ペンタトニックを構成する5つの音のうち4つは、sus4コードを構成する音なのです。もしこれをsus4コードの分散和音と解釈するなら、この4つの音に加えてメジャーだろうとマイナーだろうと3rd音を入れるのは変……もうお分かりでしょう。「マイナー」ペンタトニックのG音は、マイナー3rdではなく、正確には増9度、#9thというオルタードテンションノートと解釈すべきです。

これで貴女は欺瞞の常識に覆い隠されし真実を見いだすこととなりました。「マイナー」ペンタトニックというスケールの正体は、sus4コードに#9thを盛るという、かっこいいに決まっているハーモニーです。「マイナー」を付けて呼ぶのは単なる間違いであり、貴女がEコード上でEの「マイナー」ペンタトニックを弾くとき、実際には、貴女はただのEコードをsus4#9thという浮遊感とエッジィさを兼ね備えたサウンドにリハーモナイズしているのです。これほどのサウンドですと確かにハーモニーとして最強感があり、阿呆共が阿呆の一つ覚えで「マイナー」ペンタトニックを50年も60年も飽きもせずに弾いているのもやむを得ないと言えるかもしれません。

ですが貴女はマイナーペンタトニックの欺瞞から目覚め、常識に覆い隠されていた音楽の真実に触れたのです。自分をただのギターキッヅであると思い込んでいた貴女は知らず知らずのうちに、シンプルなEコードをEsus4#9thという前衛的なハーモニーにリハーモナイズする高等テクニックを身につけていました。ですから貴女は、今すぐさらなる音楽の探究に赴くことが可能なのです。

真の女であるこのわたくしが、手始めにどのように探求すればよいのか教えてあげましょう。「マイナー」ペンタトニックが実際はsus4#9thだと知った貴女はこう疑問に思うのではないでしょうか……#9thを9度のもう一つのオルタードテンション♭9thに入れ替えると、どうなる……? 

結論から言うと貴女の探求はまたしても報われました。「マイナー」ペンタトニックの構成音のうち、#9thを♭9thに入れ替える(EキーならG音の代わりにF音を入れる)と出現するのは、日本の伝統音楽でいう陰旋法です。このスケールはジャズミュージシャン等によってそのまま「インセン・スケール」と呼ばれて愛用されており、普通のEコードでこのスケールを使えば、たちまちEフリジアンというエキゾチックなハーモニーにリハーモナイズされるのです。


この曲の冒頭で一瞬流れる、不協和音のようでもあり和風なようでもあるミステリアスなピアノのサウンドが、陰旋法ないしフリジアンハーモニーのサウンドです。貴女は一瞬で、ただのEコードをモダンジャズ最盛期の斬新なサウンドにリハーモナイズする術を手に入れました。使いようによってはお手軽に和風サウンドにもスペイン風の哀愁あるサウンドにもできるでしょう。貴女は自らの成長を喜びなさい。そしてこのわたくしに深く感謝なさい。

このように、常識が破壊されるだけで貴女はあっという間に真の女として格段にレベルアップを果たしました。もう貴女は骨の髄まで染み渡るほどに深く理解したはずです。常識などというものは有害であるかさもなくば無益なものであり、破壊されて初めて価値が生じる程度のものでしかありません。

このようにわたくしの言葉で蒙を啓かれた貴女は早速C4を抱えて破壊目標オブジェクティブに突入しようとするのでどうしようもありません。わたくしが一言でも貴女に闇雲に突撃するよう言いましたか? 常識などさっさと爆破してしまうに越したことはないとはいえ、何の計画も無くただエクスプロー支部を抱えて右往左往しても、うろうろしているうちに制限時間を迎えて爆死するだけでしょう。それでは単なる非常識な社会の敵でしかなく、世間から自爆テロ犯扱いされて村八分になるのがオチです。いいですか、常識ひとつ爆破するだけでも、真の女は目標破壊後の脱出プランまで視野に入れた入念な破壊計画を立てて挑むものなのです。先程わたくしが貴女の目の前でマイナーペンタトニックの常識を鮮やかに爆破マルチキルさせましたが、注意深くわたくしの言葉を聞いていれば、一見無造作に見えるわたくしのムーブも、実は置きエイムなどを駆使しながら注意深く目標に接近し、ティーガーの後部燃料タンクに慎重に狙いを定めて必殺のパンツァーファウストを叩き込んだものであることが貴女にも分かるはずです。

ですから貴女は学ばねばなりません。常識が欺瞞のプロトコルに過ぎない以上は真の女は原理的に非常識にならざるを得ませんが、だからといって真の女が為すべきことは、自らの非常識ぶりをさらけ出すことではありません。それが常識を目の敵にして周りを無視して突っ込もうとする阿呆共と、常識にすがって肩を寄せ合い怯えて暮らすほかない憐れなファッション腐女子に対する慈愛と寛容の心をもって、丁寧に優しく常識を爆破する真の女との違いであることを、「パッドマン」の鑑賞を通じて貴女は学ぶのです。


登場人物


ラクシュミカント

我こそは全インドに清潔で安価なパッドを普及させる者なりとばかりに、周りも自分も全く顧みることなく常識の破壊を目指して一直線に突き進む阿呆です。妻を愛するがあまりのその情熱だけは褒めてやりましょう……と言いたいところですが、インドであろうと世界のどこであろうと、パッドに関するデリケートな話題に前のめりで食いついてくる阿呆はキモいという当然の事実を全く分かっていない底なしの阿呆であるため、この者が苦境に陥っても、今ひとつ共感できません。周囲の迷惑を無視して暴走した末、とうとう故郷を追われることになりますが、パッド開発を志した後、二年も経ってからようやく、パッドに使われる吸水素材がそのへんにあるただの綿ではなく、吸水性に優れた特殊なセルロース繊維であることに気づくという、観客としては頭を抱えるほかない阿呆ぶりをさらけ出します。


パリー

ご丁寧にも借金まで抱えて絶体絶命の苦境に陥るラクシュミカントの前に現れるのは、名前からしてストレートに致命の一撃を連想させる真の女です。ナチュラルに常識を常識とも思っていない真の女ですが、阿呆と違い非常識そのものの本質を敢えてさらけ出すような愚は犯しません。何の脈絡もなく突然登場した瞬間に熟練のタブラ演奏でロックし観客を熱狂させる姿からは強烈な真の女のオーラが放たれ、観客は一発でこの者が真の女の中の女であることを思い知ってしまうため、「映画の途中でちょい役で出てきただけだと思ったら実は重要人物だった」みたいな演出を監督は意図したのでしょうが、正直完全に失敗しています。この者は登場するや否や「カレーを摂取するだけでKAWAII」等の真の女のムーブを立て続けに繰り出しますが、真の女の本領が発揮されるのはラクシュミカントに真の女の真の英知をあっさりとしかも惜しみなく授け、自らも実践して見せて阿呆を導きつつ、同時にさりげなく大量のファッション腐女子を救済するシークエンスです。繰り返しになりますが、常識を破壊するにあたって、真の女は目に見える表面的な常識を直接攻撃するかのような阿呆の振る舞いとは無縁です。そのような目に見えて危険なムーブは阿呆や憐れなファッション腐女子を怯えさせるだけです。真の女たる者、常識の背後でどのような社会のシステムが作動しているのかに着目しそのシステム脆弱性にピンポイントでハッキング攻撃を仕掛け大規模ブレイクダウンさせるものであるということを、貴女は是非ともこの者の華麗なムーブから学びなさい。一見、この者がパッド販売を行うだけでトントン拍子で阿呆とファッション腐女子が救済されているだけのように見えても、真の女である貴女は、表面的な見せかけの常識に隠された社会構造のレイヤーで数々の常識が派手に連鎖爆発していることに気づくとともに、この者が何のためらいもなく容赦ない大破壊をあっさり敢行する様に、真の女の真の恐ろしさを見いだし震え上がるでしょう。


優しく、さりげなく破壊なさい


以上のとおり、貴女は平安時代とパッドマンで鍛えるべきことが完全に証明されました。

貴女は、非常識であることを受け入れなさい。そして同時に、非常識であることを奥ゆかしく秘めなさい。真の女の真の破壊工作は、優しい笑顔の裏で入念に練り上げられるものであり、常識の破壊は「気づいたら爆破された」くらいのさりげなさで行われるのが最も効率的なのです。

それが理解できたら、貴女は覚悟を決めて新たな一年に第一歩を記すのです。貴女を待つ、大いなる非常識のオデッセイへと……