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ピンチをアドリブで乗り越える技 84/100(キャラ)

自問自答を繰り返しながら、
アドリブと演技の関係を
追求していってみようと思い立ちました。
100回(?!)連載にて、お送りします。


ところで、

いま乗っている飛行機の前の席に、おそらく多動症、ADHDなどと診断されるのであろう男性が座っています。

私が席に着いた時には、すでに大声で一つ席を隔てた人と話してました。

いや、大声というか、喋りかたの圧が凄くて、絶え間なく話し続ける感じ。

様子を見ていると、窓際に座っている話し相手の男性は初対面の他人で、私の前の席の彼が、身を乗り出して一方的に話しかけているのを、穏やかな声で受け答えし、時には質問をして興味を示す、優しそうな雰囲気の男性です。

大きめな声で、ずーと話してるだけなら、まあ、イヤホンを着ければいいのですが、やたらと座り方を変えたり、リクライニングをしたり、戻したりと、私の前の背もたれが、常に小刻みに動き続けます。

ちなみに、まだ離陸してません。

すっごく気になるし、多少イラっとするほどに、気が散る存在が目の前に居て、このまま2時間のフライトを続けると思うと、先が思いやられます。
でも、役者としては最高のモデルです。

フランスのル・コック系のエキササイズなんですが、イギリスの演劇学校では『キャラクター・マスク』という授業があります。

真っ白な無表情の『ニュートラル・マスク』(能面ではありません、あれは無表情ではないので!)の授業を終えてから行う授業なのですが、みんな苦戦しがちな授業です。

簡単に言えば「ああ、たしかにこういう人居るよねぇ」という程度の、フィクションギリギリな実在しそうな変わったキャラを演じる、という授業です。

あらゆる部分を誇張して、特徴的なキャラにはするのですが、そこにはリアルさがなくてはいけません。

この授業を受けて、街中へ出てみると、この社会はいかに多種多様な、個性的なキャラクターで溢れているか気付かされます。

いわゆる、キャラの濃い人たちです。

私たちは、結構それぞれみんな変わっていて、その度合いがかなりキツイ人も、よく観察していると、相当数いて、特に都会では、それらの人達がひしめき合って生きています。

あ、因みに前の席の彼、離陸とほぼ同時に、急に眠り始めました。

一応、滑走路を加速しだすタイミングで、リクライニングは元に戻したんですが、地上を離れて、数秒後にはまたリクライニングを倒して熟睡。

飲み物のサービス中も寝ていて、カートが私たちを通り過ぎてから起きた彼は、4秒毎ぐらいの頻度で、後ろを振り向いて、飲み物をもらうためにCAさんの気を引こうとしてます。その度に背もたれがガックンガックン。
呼び出しボタンの存在を知らないのでしょうか。

話を戻します。

キャラクターを作る時、たとえばテンポはどうかを考えます。

0を静止
10を走り回るほどのハイテンポ
5をその丁度真ん中ぐらいの標準とします。

東京の人はおそらく6ぐらいのテンポで歩きます。
南国は4ぐらい。
ロンドンは7ぐらいです。

そして、いま前にいる彼は9ぐらいで行動してます。

耐えきれずに、とうとう立ち上がって、CAさんのほうへ歩いて行きました。

よく見ると、バリカンで短く刈り上げた頭を、かく癖があるようです。だから短くしてるんでしょうか?

9ぐらいのテンポで行動するキャラクターは、刈り上げが相応しいのかもしれませんね。長髪は鬱陶しいのでしょう。

今も絶え間なくガッタンガッタンと動く、私の目の前の背もたれを見ながら思うのは、これにイライラするのは簡単です。

でも、ヘリコプター理論で考えれば、たいした問題ではないです。

そして、あのメリル・ストリープが言ったように、
役者は共感するのが仕事です。

自分がこういう役を演じるとしたら、自身をどのように変化させようか。

なぜ、このテンポで行動してしまうのか、彼としては生きづらく感じるのか、それさえも気にならないほどに、意識が飛び回ってしまうのか。

そう、おそらく、ただ単にテンポが速いだけでなく、意識が四方八方に向いてしまうのでしょう。テンポはその結果かもしれません。

すごい速さで捲し立てるように話す時、息継ぎはどこでしているのか?目線は変化しているか?ジェスチャーはどうか?落ち着こうと自分で思うときは、どうするのか。

そんな事を問い続けたくなるのが、役者です。

着陸した瞬間にリクライニングを倒して、それが私の膝を打って、また少しイラッとしました。

着陸して背もたれ倒すなんてあります?!

でも、この世の中には色んな人がいて、それぞれに理由があり、悩みがあり、葛藤があるのだろうという想像力を働かせて、それを再現するのが役者なので、そこに共感する観点に立つと、見方が変わります。

ピンチに陥ったとき、少しでも冷静さを保つための、お役に立つこともあるのではないかと思ったのでシェアしました。

あ、立つ、といえば。

機体が駐機場に完全に停止する4秒前に、シートベルトを跳ね上げて、立ち上がり、誰よりも早く荷物を下ろし始めましたね…やっぱり

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