実感を宿す(助詞と語尾を変化させる)
太字の英語をどう訳すべきだろう。
To be loved like that makes all the difference.
あんな風に愛されると、すべてが変わる。
少しも間違っていはいないけど、死んでいる文章。
これにどうにか命を宿らせようとして、
「あんな風に愛されると、すべてが変わるのだ」
などとやってしまいがち。それらしいけど、読んでみるとアンバランスだしすごく気持ち悪い。そして、実感が伴わない。
柴田元幸先生の「正解」はこうだ。
こんな完璧な訳があるだろうか。
いくら過去のことでも、thatに引きずられた「あんな」は要らない。「そんなふうに」で説得力は十割増しになる。
助詞の「と」を変えるという発想を持てば、makesに最もふさわしい「ことで」が出てくるかもしれない。
語尾を変えてみるという発想を持てば、「変わる」じゃなく「変わってくる」という、臨場感にあふれた表現に行き着くかもしれない。
「すべてはいっぺんに」
allを活かしきる、意味もリズムも完璧な表現。文章全体のバランスにも貢献している。
こういうのは正直、暗記課題みたいなものだと思っている。「all=」の暗記ではない。日本語表現の引き出しに入れるための暗記だ。
柴田先生の訳を読んでいると、やっぱり翻訳には正解がある、と思ってしまう。
『ムーン・パレス』は、青春とユーモアと哲学にあふれた本当に面白い物語です🌕
面白くて飛ぶように読める。でも、柴田先生の訳でなければとても最後まで読みきれない本だと思います。
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