新しいとか美しいとか

最近、なんだか芸人であれば考えを巡らせないといけないことが立て続けに起きた気がする。
ちょっとその前にも個人的にハッとさせられたこともあって、僕の頭の半分くらいは「期せずして考えちゃうこと」で埋め尽くされてしまった1~2週間だった。
本当は「面白いこと」だけを考えていたいのだけど、なにぶんまだまだ勉強の身だからそれを考えざるを得ない。


2週間前、事務所のネタ見せがあってそこで最近よくやっているネタを作家さんに見せたのだが、そこで言われたダメ出しが「展開がない」だった。
僕としては後半、ストーリーはあることをきっかけに展開しているものだと思っていたから寝耳に水だった。
それのダメ出しをいただいて、あぁなるほど作家さんが展開させてほしいのはストーリーではないのだなと思ったわけだが、そのあと作家さんはこう続けた。
「まぁそういうお笑いが今は新しくていいなぁとも思うし、分かるんだけども。」


自分のネタにメスを入れてどうこう解説するのは野暮なので、これを架空のコントで説明すると(コント自体が架空のものだからなんか二重敬語みたいだな)

『ファミレス』
A:いらっしゃいませ。お客様、何名様でしょうか?
B:一人です。
A:禁煙席と喫煙席どちらになさいますか?
B:禁煙で。
A:かしこまりました。それでは店員を呼んで参りますので少々お待ちください。
B:いやお前誰やね~ん!
A:僕ですか?山本です。あの。
B:だから誰やねん!あの、ってどの山本や!
A:あぁ、苗字だけじゃピンと来ないですよね。義治です。山本義治。
B:ずっと誰やねん!聞いたことないわ!

というネタがあったとします。面白すぎてごめんなさい。
このネタの面白いポイントは、店員(だと思っていた人)が誰やねん!とツッコまれるボケを放っていくところなんですけども、作家さんはこの誰やねん!のバリエーションが欲しいと主張したということです。
さらに、求める展開、起承転結の「転」の部分は、【誰やねん!を軸にした「転」】にしてほしいということだと僕は解釈しました。
例えば、AとBの関係性が逆転してAがBに対して「誰ですか!?」となっていくだとか。まぁ分からないけどそういうことです。
あくまで色んな「誰やねん!」を使うと。

でも僕は

A:本当に分からないですか?この腕の傷を見ても。
B:その傷…まさか!

まぁこのあとは思い付きませんが、要はストーリーを軸として展開を考えてしまったわけですね。
で、そこの中で出てくる面白いポイントはノーマルな「誰やねん!」だったというわけです。


たしかにそう考えると作家さんの言うほうが飽きないし面白さは拡がっていきそうなものだけど、僕が作った展開でも決してスベるわけではない。
むしろけっこうウケるネタである。
じゃあなんでウケるかというと、それはきっとそのキャラの強さであったりそのキャラが発しそうな生っぽいボケであったり、やっていることのバカバカしさがあるからで、それを評価してくださっての「まぁそういうお笑いが今は新しくていいなぁとも思うし、分かるんだけども。」という言葉に繋がるわけだ。

僕はそうやって言ってくださったことに嬉しさを覚えたと同時に、「新しいとは?」とも思った。
まぁこれはきっと【賞レース的な基準から逸脱しているから】新しいということなのだろう。(やっている笑いの取り方的には発明と言えるほど新しくないので。)
で、考えてみたら、この【賞レース的な基準】というものがなかなか厄介だった。

僕は正直言って、型にハマりきったネタが好きではない。
「あー、はいはい。そうくるよね、はい、そうきたら、うん、そうだよね。」と面白さは分かるし笑うけど心がワクワクしない。
「ノーミスだったな。」としか思えない。形は美しいかもしれないけど。
けどこれが案外【賞レース的な基準】だったりするんだよな、と今回のダメ出しで改めて思った。言葉にされたからさらに思った、と言ったほうが正しいか。
まぁそれだけじゃ優勝はおろか決勝にも行けないだろうけど、求められた基準をクリアしつつさらに上の発想を持って来い、というのが勝ち抜くコツなのか~?とふんわり考え始めた秋である。


本当はただ面白いと思うことだけをやるのがいいんだよなぁ。
傾向と対策なんて考えないほうが絶対にいい。

そもそも芸人っていうのは本質的に「面白いかどうか」しか考えていない。

そこからさらにその面白さを際立たせるには?と考えて付け加える味付けが演出というやつだ。

キングオブコント決勝後の反応を見ていると(ネットだけだけど。ここは広いようで狭い)なんだか味付けのほうだけ独り歩きしていて、これまた色々と考えてしまったわけである。


総じて思うのは、面白いかどうかだけを見てほしいなぁということなんですよね。
「美しさ」はたしかに大事な要素ではあるけども、そこだけをフォーカスされてしまうとやっているこっちとしては戸惑ってしまう。と、思うのは僕だけなのだろうか。
まぁ観る側に何かを強要することはできないのだけど、今から面白いことやりますよって言って板についているのだからそれを主に見てほしいね、というよりも、僕は考察の余地が入らないほどくだらなくてバカバカしいものを作っていきたいねっていう話でした。

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