俺みたいになるな。

僕は常日頃から相方であるSAMIDAREにとある忠告をしている。

「俺みたいになるな」

これは主に私生活における「俺」だ。
もはや相方という立場を越えて、6年早く生まれた人生の先輩としての忠告である。

ときどき彼を見ていて思う。
根本の性格というか気質というか、僕に似ている。
だから心配になることがあるのだ。特に対人関係。さらに言うと女性に対して、だ。

どう考えてもこの二人は女性への対応が苦手すぎる。
それはすでにほとんど恋愛をしていないという、『恋愛の実績がないという実績』が物語っている。
二人の実績を合わせても成人男性の恋愛実績の平均値を下回るのだから困ったものだ。
そして、僕は恋愛を拗らせに拗らせた結果、いまとんでもないしっぺ返しを食らっていると言っても過言ではない。

だから僕は言うのだ。
「俺みたいになるな。今のうちに早く彼女を作っておけ。」

僕はこのなんとも力強い忠告を彼と出会ったときから口酸っぱく言っている。
本当になってほしくないから。ただ辛いだけなのだよ若人よ…。といった具合である。

その甲斐あってか、彼に初めての彼女ができたのはもう2年以上前のことである。
その出会いも鮮烈なもので、彼が20歳の誕生日を迎えたのでみんなで彼の初飲酒を見届けようと集まった居酒屋で逆ナンされたのだった。

僕が常々言っていた「彼女を作れ」。
相方に巡ってきた大チャンスである。

しかし僕はあろうことか最も身近な男に突如訪れた"モテ"に大いなる嫉妬を覚え、「はいはい!!俺にはお笑いしかないんだよ結局!!」と叫びながらその場でノートパソコンを開きネタを作り始めてしまった。

だから言っているんだ。
「俺みたいになるな。」と。

それからしばらく経ったある日、ライブが終わり劇場を二人で出たその瞬間、SAMIDAREが僕に打ち明けた。
「俺、あの子と付き合うことになったわ。」

僕は言っていた。
「早く彼女作りなよ。」
喜ばしいことに、彼自身にとっても念願の、そして僕にとっても悲願の彼女が彼に出来たのだ。

しかし僕はあろうことかその場で身を震わせ、少し間を置いてから「うあーーーーー!!!!!」と叫びながら30メートルほど目を瞑って走ったのだった。

だから言っていたんだ。
「俺みたいになるな。」と。
こうなってしまうから、人の幸せを素直に喜ぶその前に一回一回半狂乱に陥ってしまうから、言っていたんだ。

でも聞いてほしい。
冷静さを取り戻したあとはしっかりとおめでとうと言った。言いましたから。
まぁ今さらそんなことを付け加えても失ってしまった好感度は取り戻せないだろうが。

その後はと言えば、やはりSAMIDAREもこちら側の人間だ。
数ヵ月で別れてしまい、以来全くと言っていいほど色恋沙汰はない。
そして僕はまた言い始めた。
「俺みたいになるから早く彼女を作ったほうがいい。」
以前よりもだいぶ説得力が上がったはずである。
なってほしくない「俺」を彼は目の当たりにしたのだから。

僕は先日、珍しく合コンに参加した。
僕だってやはり彼女が欲しいから。
なんなら年齢的にも早く蹴りをつけたいところでもあるのだから、苦手だからと敬遠している場合でもないのだ。

結果は火を見るより明らかで、大惨敗だった。
一人は場を盛り上げて女性陣から面白いと拍手を送られ、一人はそのルックスと落ち着いた雰囲気からしっかりと一人の女子のハートを射止めたようだった。
僕は何もしていなかった。
面白い奴にツッコミとも言えない、もはやただの合いの手と化したような薄っぺらな言葉を当てるだけ当て、話の流れで自分をアピールするようなこともなく、ただ酒を飲み飯を食い、終電を逃して2時間かけて歩いて帰っただけだった。
女性陣から見て左側の端の風景は、数日経った今、僕の顔も思い出せないくらいにぼんやりとしていることだろう。

こんな情けないことあるのかと狼狽し、翌日SAMIDAREにこの顛末を話した。
彼は笑いながら話を聞き、「まぁライブで面白く話しなよ。」と言ってくれた。僕のように説教じみた忠告をすることもなく。

何も成し遂げられなかったのになぜか救われた気分になった僕はそのとき本当に、本当に少しだけ、ほんのりと思ったのだった。

「こいつみたいになりたい。」と。

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