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しんぐるまざあず・ふぉーらむの不正会計は「古典的」な粉飾決算

皆さん、こんにちは。
気が付けば半年以上ぶりの投稿となります。

本当は、Colaboを巡る裁判の一つでも争点となっているある事項について触れようと思っていたのですが、ちょうど「認定NPO法人 しんぐるまざあず・ふぉーらむ(以下、同法人)」における不正会計がニュースとなっていたので、急遽こちらを解説していくこととします。
既に報道並びに同法人による公式発表によって事件の経緯は明らかにされていますので、詳細は割愛します。

事件の概要

それぞれに書かれている通り、”A”という会計を担当していた職員による不正行為であるとほぼ断定されています。
既に明らかになっている概要を整理すると、以下の通りです。

  • 不正会計は2019年度~2022年度にかけて、A氏による帳簿の改ざんや寄付金収入の隠蔽、預金の引き出しなどによって行われていた。

  • 金銭の管理も含め2022年5月まで会計はほぼA氏一人が行っていた。

  • 現時点で明らかになっている「使途不明金」は総額で802万7603円。まだ調査中のため、金額は今後増える可能性がある。

  • 23年5月、22年度(同法人は3月決算)の決算業務の過程で現金の残高不足が発覚。その直後、A氏は無断欠勤し、同法人は10月31日付で懲戒解雇処分。現在、刑事告訴を準備中。

  • 赤石千衣子理事長及び事務局長は自ら減給処分を行うとともに、上記の使途不明金相当額の補填を行った。

  • 既に第三者委員会が発足しており、最終的な報告は2024年1月の予定。

  • (所得税の寄付金控除が適用される)認定NPO法人の認定期間が2023年10月に満了し既に更新申請を行っているが、今回の事件を受けて更新が認められない可能性が高い。

少なくとも現時点で明らかになっている限りでは、今回の不正会計はA氏個人による粉飾決算行為であり、同法人が組織ぐるみで意図的な不正行為を行ったというものでありません。そもそも、A氏が横領した疑いが濃いとされる802万円はあくまで民間からの寄付金が主であり、Colabo等でバッシングの対象になった「公金」と必ずしもイコールではありません。
ただ、同法人からすれば結果として寄付者や支援者、あるいは行政の信頼を裏切る事態を招いてしまったことに変わりありませんので、事件が起きた背景の解明や事件を未然に防ぐ防止策を真摯に講じなけれなならないことは、言うまでもないでしょう。

不正会計はどのようにして行われたか

2020年度からの事業の急拡大

同法人は2020年度より食糧支援事業(DAIJOUBU!食糧支援)を新たに行っています。これは、コロナ禍や物価高騰により家計に深刻な打撃を受けるひとり親家庭のために米などの食料を提供する事業なのですが、支援家庭は2020年度の延べ23620世帯から2022年度には31980世帯と大幅に増加しています。
下記の表をご覧ください。こちらは同法人がホームページに掲載している決算報告に基づいて受取寄付金及び現預金残高の推移を表にしたものです。

受取寄付金は現物による寄付を含んでいます。

ご覧の通り、2020年度を境に受取寄付金も現預金残高も大幅に跳ね上がっているのがお分かりでしょう。このことからも、食糧支援事業に連動して法人や事業全体の規模も急拡大していることが明確に見て取れます。

なお、2022年度に現預金残高が大幅に減少していますが、同時に「特定資産」勘定170,000千円が新たに計上されており、預金の一部がこの勘定科目に振り替えられていること、並びに2022年度の会計報告によると「使途等が制約された寄付金等の内訳」が423,913千円から255,574千円(うち「緊急支援・食糧支援事業」に係る寄付金等は227,387千円から37,037千円)に減少していることによるものであると考えられます。

会計業務は殆どA氏一人で担っていた

その一方で、2022年5月まで会計業務はA氏一人が担っていた状況が続いていました。同年6月及び10月に一人ずつ追加で増やしましたが、やはり業務の急拡大に伴う事務負担が大きかったと考えられます。
今回の不正会計疑惑が発覚したのも2022年度決算ということから、複数人体制としたことがもしかしたら大きかったのかも知れません。

会計職員が増えるまでは、経理業務も現金や預金の管理もほぼA氏が一人で担っている状態が続いていたようです。
中小企業なら社長の夫人や母親が帳簿や預金を管理することは珍しくありませんが、経理と財務(お金の管理)をきちんと分けるのは内部統制の一丁目一番地でもあります。
というのも、帳簿や証憑を操作することが出来る人が同時にお金も管理することが出来たなら、勝手に帳簿や請求書を書き換えたり隠したりすることで、勝手に預金を引き出して移動したり、逆に入って来たお金を故意に隠したりすることが、いくらでも可能になるからです。

業務の急拡大と内部統制の欠陥が不正の遠因?

それでも赤石理事長や事務局長はじめ理事がA氏の業務をつぶさにモニタリングしていれば、不正会計を未然に防ぐことは出来たかも知れません。しかしながら、これでは理事の負担が増えるばかりか、理事自身に会計に関する知識が無ければ十分に機能するとは言えません。まして、2020年度以降の業務の急拡大を受けて、ただでさえ多忙を極めていたであろう赤石理事長らが十分に目を光らせるのは無理があると言わざるを得ないでしょう。

各年度の決算では監事による監査が行われていますが、そもそも株式会社における監査役のような位置づけで必ずしも公認会計士のような専門家ではなく、決算日(3月31日)時点における現預金残高を残高証明書等とチェックして終わる簡易的な手続きに限られていると推測されます。
これも粉飾決算の常道ですが、事前に帳簿操作や預金の移動を行い、決算日のときだけ帳簿と預金口座の残高を一致させることもよくあります。
確かに決算日時点の残高を照合することも不可欠ですが、それだけで会計の数値の適正性を十分に担保できるとは限らないのです。

そのためにも、会計業務を複数人で行うことで不自然な処理を行わせないようにするとともに、経理と財務の担当を完全に切り分けて相互にチェックし合う体制の構築が欠かせません。

もっとも、現時点ではあくまで中間報告に過ぎず、今後の調査次第では更に新たな事実関係が明らかになる可能性もあります。こればかりは、来年1月に予定される最終報告を待つしかありません。

あくまで「古典的」な粉飾決算に過ぎなかった

Twitter(X)の一部の界隈では、「ナニカグループの悪事が再び明るみに出た」といったような騒ぎもあったようですが、繰り返すように少なくとも現状明らかになっている範囲では会計担当者であるA氏による資産の横領を目的とした粉飾決算であり、同法人の組織ぐるみあるいは赤石理事長が何らかの邪な意図を持った行為ではありません。

むしろ、会計担当者による不正行為としては古典的な事例というのが率直な私の感想でした。

私自身、地元の新聞記事で掲載されるような不正会計事件の生じた企業にも関与したことが何度かあります(関与するのは事件が発覚した後)が、いずれも会計責任者が単独で企業の資産を横領し、それを隠ぺいするために粉飾決算を行ったパターンでした。それを可能にしたのも、やはり会計業務がほぼ単独、あるいは当事者同士で容易に共謀が可能だったという状況でした。

上場企業でも経理責任者が経理だけでなく預金の管理も一手に担っており、その地位を利用して粉飾決算を行い企業の資産を横領した事例も現実にあります。

詳細について明らかになるのは今後の話でありますが、見る限り同法人における不正会計の手口は決して高度かつ巧妙とは言えないものです。
ただ、同法人の組織内部における内部統制の欠陥を突いたものであることは間違いありません。

しかしいずれにしても、高い公益性を持ち所得税の控除制度も適用される認定NPO法人である限り、たとえ予見不可能なものだったとしても、それで言い訳が付くわけではありません。
前述したように、職務の分担やルールの整備といった会計業務に関する内部統制の構築がまずは欠かせません。

しかし一方で、公益性がゆえにわずかな過ちも許さない厳格さがNPO法人や公益法人に課されるのが果たして本当に良いのかは、正直同意しかねます。
確かに杜撰な会計体制を放置してはいけませんが、その一方で業務そのものをぎりぎりの人員で回しており、なおかつ会計の専門知識すら知らないままでいるケースも往々にしてあります。非営利団体がゆえに会計に十分なリソースをそもそも割くことができず、それ以前に十分な会計や内部統制の知識がなかったこともあり得ます。

大事なことは、厳罰化よりも公共性の高い法人の健全な会計体制を確保し、もって本来の業務が円滑に遂行できることを担保することです。
無暗にハードルを高くしても、ハードルをクリアするための知識も能力も無いままでは業務を遂行できる組織そのものがなくなり、本来の公共性という目的が損なわれてしまいます。

加えて、これはColaboの件にも言えることですが、弱者(女性あるいはその子どもなど)に対して税金などの公金が充てられることをよしとしないがために、公益法人その他公益性の高い業務を行う団体に対し殊更高いモラルや業務の適正性を要求する姿勢にも懸念を覚えます。
確かに業務の公共性ゆえに一定以上のモラルが求められるのは理解できますが、それ以外の条件は一般の私企業と何ら変わらないのです。
どんなに崇高な社会的使命を背負ったとしても、給与を一切受けないで業務を続けられる人はいません。
繰り返しますが、大切なことは社会のための事業が健全に継続することであって無私の精神ではありません。

いずれにしても、こうした公益目的の企業が少しでも最小限の負担で公正性や効率性を保ちながら業務を継続できるようサポートすることこそ、職業専門家の本来の使命であると認識しています。


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