【まつもと演劇祭】『竹の籠』について@志月ゆかり

 おはようございます。業界的にはいつ何時でも、おはようございます。もしくはお疲れ様です。志月です。そういえば初回では書きそびれましたが、しづき、と読みます。
 本当は第二回のnoteは前回ちらりと言及したように、旗揚げ公演の演目『アイカとメグミ』の話をしようかと思いましたが、それ以前に私にとって大きな一つの区切りがありましたので、そのお話でもしようかと思います。

 10月6日から8日の3日間、前の週の前夜祭を入れると5日間、私が活動拠点としている松本で、国内有数の地域演劇祭である「まつもと演劇祭」が開催されました。参加団体の皆様、受付や運営業務で支えてくださった皆様、観劇や応援をしてくださった皆様、ありがとうございました。ゆめのあととしては何も関わっていませんが、中の人である志月ゆかりは、演劇祭の参加団体の一つ「1.6畳×志月ゆかり」の一員として参加していました。参加といっても、私は脚本担当でしたので、当日できたのはちょっとした受付のお手伝いと、舞台に立つ1.6畳の横澤のぶさんを後ろで見守ることくらいでしたが。
そうそう、終演後にお客様と少しだけお話ができました。良い脚本だったと言っていただけて、志月脚本に乗りたいと言っていただけることもあって、本当に嬉しかったです。

 横澤のぶさんと組むことになったきっかけも、まつもと演劇祭でした。去年の演劇祭で、アルプス乙女ユニオンズの役者として参加していた私は、少しの間松本に滞在していた、仙台の演劇人であるのぶさんと出会いました。まつもと演劇祭や、当時私が乗っていた別の舞台の、稽古場見学や準備のお手伝いに来てくれていたのぶさんと少し話をする機会があって、その頃から「このひとは良い役者さんになるだろうな」「チャンスがあれば私の脚本に乗らないか勧誘できないかな」と、別にさしたる根拠のないうちから、役者に飢えていた私(今でも飢えています)はそんなことを考えていました。なぜそんな風に思ったのかはわかりません。整った顔立ちところころ変わる表情と声の調子からでしょうか。けれど、実際演劇祭での舞台を観てもわかる通り、私の見る目は間違っていなかったと言えるでしょうね。
 ですから、まつもと演劇祭の打ち上げにのぶさんが遊びにきてくれたとき、のぶさんが「一人芝居をやってみたいんだよね」と、その時はまだ軽い調子だったその言葉を発したのを、私は見逃すわけにはいきませんでした。「え、私脚本書きますよ」と、この話題を冗談でも軽い世間話でも終わらせるまいと飛びつきました。それまで一人芝居を書き上げたこともなかったのに、よくそんなことが言えたなと思います。けれどもその後のぶさんと話す中で、こんな風に作りたい、竹取物語原作で作るならかぐや姫はこう作りたい、という感覚が非常に似通っていたこともあって、この話は現実味を帯びていきました。

 誰かのために脚本を書く、あるいは依頼されて脚本を書くということを、何度もやってきた時期でした。物語の構築のための材料が純粋に自分から生じたものではない脚本は、書きたいものを書きたいように書く類の脚本とはまた違った難しさがあります。上演時間、役者の人数、題材や内容に縛りのある状態で、どれだけ良いものが書けるか。依頼主の意向に沿いながら、自分の言葉を見失わずに書くのは大変なことなのだと、後から知りました。そして結局今の私にはそれはできなかったと言わざるを得ません。「自由にのびのび書いてくれた方が面白い」とのぶさんに言わせてしまったのは私の敗北です。今の私に書ける一番良いものを書いたつもりではあるけれども、台詞が、言葉が、書いているその場の勢いと語呂の良さだけで選ばれる瞬間があること、それを見抜かれること、発話のしやすさを優先しすぎて引っ掛かりがない台詞も言いづらいものなのだと知らなかったこと、同じ座組の方々に「入れてほしい」と言われていたシーンを結局まともに入れて構成できなかったこと、そしてそれをアンケートに書くほどお客様にも感じさせてしまったこと。この脚本を書くにあたってもっとすべきことがあったのだろうと思わずにはいられません。

 のぶさんは、私がのぶさんのために初めて書いた一人芝居の脚本を、とても大事にしてくれました。私は未だかつて、私の脚本をここまで大事に読み込んで、考察して、もう味なんかしないんじゃないかと思うくらい噛みしめて、表現しようとしてくれた俳優さんに出会ったことがありませんでした。お客様があの舞台を観て、脚本が良かったと感じてくれたのなら、それは全部のぶさんのおかげです。私が性格悪く台詞の奥に隠している登場人物の本当の思いや、さらっと吐いている嘘、強い恨みつらみの言葉に忍ばせた別の思いを全部わかった上で発話し、時間があちこちへ飛び回る物語のシーンの繋ぎを、お客様にそうとわかるように丁寧に演出し、本番になってなお何か新しいものを感じつづけようとする姿勢で、本気で臨んだからこそ、私のわかりづらい脚本が何か意味を持ってお客様まで届いたのでしょう。のぶさんに私の脚本を演じてもらえて、私は本当に幸せ者です。

 ですから、のぶさんとの縁をここで終わらせる気は全くありません。いつか松本に来たいと思ってくださっているのぶさんを迎え入れて、今度はゆめのあとででも、一緒に作品を作れたらと思っています。そのためにも、今度はもっと良いものが作れるように、楽しんで作れるように、もっと脚本の腕を磨きつつ待っていようと思います。

 今度のゆめのあと旗揚げ公演も、一人芝居を二本立てでお送りします。のぶさんに負けないように、私も全力で作らなければ。
 次こそは旗揚げ公演の演目の話をさせていただきますね。
 それではまたお会いしましょう。志月でした。

〈ゆめのあと お問い合わせ先〉
X(Twitter): @Theater_Yumeno
Mail: theater.yumenoato@gmail.com
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