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【商社就活】#1 総合商社とは?

総合商社は、新卒人気企業ランキングにおいて常に上位に位置付けれていますが、その実態を理解している人はそう多くはありません。
そもそも総合商社は、多岐に亘る機能を持ち、様々な業界や顧客との接点を持ち、幅広い商品・サービスを提供し、世の中の様々な課題を解決しています。また、時代の変化に先取りする形で自己変革を続けています。
第4次産業革命やデジタル化が叫ばれている昨今、総合商社は生き残りをかけた過去最大の変革期を迎えています(ここでは新しい商社像を「次世代商社」と呼びます)。
今後数回に亘って、総合商社について説明していきます。今回は、総合商社の歴史や機能について説明の上、現在商社が直面している課題について私見を述べていきます。

【この記事で説明すること】
・商社の歴史や、商社の持つ多様な機能について
・現在の商社の課題について


自己変革

商社は、いつの時代においても「存在意義」を問われ続けてきました。そのたびに商社は、新しい事業分野への進出、ビジネスモデルの変革、機能の高度化、海外事業の強化等、絶え間ない「自己変革」によって「存在意義」を証明し続けてきました。

時代の変化が一層早くなる将来において、商社はより一層「存在意義」を問われることが予想されます。しかし商社は、その柔軟性や行動力などの強みを発揮して「自己変革」を引き起こし、「存在意義」を証明し続け、さらなる進化・発展を遂げるでしょう。また、そこで働く人材も「危機」を「チャンス」に変え、「自己変革」によって「成長」を続けていくでしょう。


【考えてみよう】
過去、商社はどのような危機に直面し、それをどのようにして乗り越えてきたと思いますか?


商社の歴史と未来

(戦後)「総合商社の創設」
多様な商品・サービスを取り扱い、多様な機能を発揮し、グローバルに事業を展開する会社を総合商社と定義すると、三井物産、三菱商事は戦前、それ以外は戦後が総合商社としてのスタートと言われています。三井物産、三菱商事以外は、創業自体は戦前ですが、戦後までは、ある特定の商品・サービスを扱うなど「専門」商社であったと言えます。
総合商社の成り立ちを分類してみると以下となります。

1)財閥系(三井物産、三菱商事)
2)繊維系(伊藤忠商事、丸紅等)
3)鉄鋼系(日商、岩井産業等)
4)新規(住友商事)

第二次大戦後、資源の乏しい日本が「貿易立国」を目指し戦後復興を遂げていく中、商社は、貿易の担い手として積極的に海外進出し、グローバルネットワークを構築して日本経済の発展に大きな役割を果たしてきました。


(1960年代)「商社斜陽論」
当時、商社の利益の源泉は「トレード」中心でしたが、メーカーが成長していくにつれ、メーカーは海外に独自の販売ネットワークを構築するようになりました。コミッションを得て仲介の機能を果たす商社は不要という「商社斜陽論」が1960年代に出てきました。
それに対し商社は、「投資機能」「オーガナイザー機能」「情報収集機能」など、商社ならではの機能を発揮し、商権の拡大を通じてトレード強化を図りました。商社はメーカーが必要とする原材料の調達やメーカーと一緒に製品を売り込む海外市場を開拓し、逆境を乗り越えますます業容を拡大していきました。


(1971年〜75年:オイルショック前後)「商社批判」
1971年のニクソンショックをきっかけとするドルの変動相場制への移行とその後の円高、1973年の第一次オイルショックによる原油価格の急上昇により、日本の高度成長は終わりを告げました。田中角栄首相の「日本列島改造論」は投機的な土地取引を助長し、物価と地価の高騰を招きました。日本経済が急激な物価上昇によって混乱した時期に、商社による生活物資の買い占めや売り惜しみが狂乱物価の元凶とされ、商社は社会的批判の的となりました。商社は、自らの活動が社会に及ぼす影響と社会的責任の大きさを自覚することになります。


(1970年後半〜80年前半)「商社冬の時代」
この時期は、オイルショックの後遺症による世界経済の停滞や円高の進行により、商社の業績が低迷しました。「商社冬の時代」と言われ、商社の将来に対し懐疑論や悲観論が出されました。日本の産業構造が重厚長大から軽薄短小に転換していく中、商社を経由しないメーカーによる直接輸出の増加、すなわちメーカーの商社離れが進んだことが背景にありました。メーカーが独自に海外ネットワークを構築し、商社に優位性があった「金融機能」「情報収集機能」が相対的に低下しました。商社がトレードにおいて機能を発揮する余地が小さくなっていったわけです。また、為替の変動相場制への移行やオイルショックによる資源ナショナリズムの高まりに伴い、「為替リスク」や「カントリーリスク」といった新たなリスクが増大しました。
それに対し商社は、海外投資事業を強化しました。円高の進展を受けメーカーが積極的に海外に進出したのを機に、商社は「海外投資事業」に積極的に取り組みました。資源分野では、開発に対する投資がより大きな規模で行われるようになりました。資金調達手段の多様化による金利負担の軽減、リスク管理強化による不良債権の防止などの守りの強化、新分野への取り組みにより、商社はこの危機を乗り越えました。
1985年のプラザ合意後の円高と原油安、国内不況によって、商社の業績は低迷しました。このような経営環境下、商社は大きな経営改革を迫られました。「売上高」よりも「利益」、「口銭収入」よりも「投資・事業利益」、「単体決算」よりも「連結決算」を重視するようになりました。
1980年代後半になると、日本国内にバブル景気が訪れ、世界経済も顕著に回復し始め、商社の業績は回復に向かいました。バブル期は、円高が追い風となり、海外製造業への投資が活発におこなわれました。また、情報産業ビジネスへの参入も積極的におこないました。一方、金融自由化とバブル経済を背景に「財テク」が積極的におこなわれ、地価高騰下、「都市開発」「不動産ビジネス」も積極的におこなわれました。業績の回復とバブル経済の浮かれた雰囲気により、「経営改革」は後手にまわり、未曾有の危機であるその後の「商社崩壊論」に続いていきます。


(1990年代)「商社崩壊論」「IT革命下の商社不要論」
1990年1月、バブル経済は崩壊し、株価や地価が急激に下落しました。その後日本は、「失われた10年〜20年」とも言われる長い低迷期に入りました。
商社は1990年代半ば、バブル崩壊の後遺症やアジア通貨危機によって、未曾有の経営危機に陥りました。商社は、バブル崩壊後の不良債権処理と、経営改革やビジネスモデルの変革を同時並行でおこなう必要に迫られました。
バブル崩壊後の不良債権処理については、自力でおこなうことができない会社を対象に、業界の合併、再編が進みました。また、さまざまな商品・サービスを取り扱う「総花的」なビジネス領域は変革を強いられ、「選択と集中」により不採算事業を整理し、立て直しを図りました。具体的には、兼松は1999年、不採算部門から撤退し、得意分野に特化し、事業規模は3分の1になりました。総合商社の看板を下ろしたわけです。トーメンは2000年、不採算事業の縮小をおこなうと同時に、豊田通商と業務提携し、2006年豊田通商はトーメンを吸収合併しました。日商岩井とニチメンは、それぞれリストラをおこなった上で、2004年に合併し双日となりました。その結果、商社業界は7社に集約されました。
既存事業の部門ごとの別会社化もおこなわれ、その別会社化を他社と共同でおこなうケースも見られました。たとえば鉄鋼部門については、2001年に伊藤忠と丸紅の鉄鋼部門が分社化・合併し、伊藤忠丸紅鉄鋼が誕生しました。同様に2003年には三菱商事と日商岩井(現、双日)の鉄鋼部門からメタルワンが生まれました。
それまでは取引形態(輸出、輸入、三国取引、国内取引)や事業領域は各社似たりよったりで「総花的」でしたが、事業領域の絞り込みと不採算事業からの撤退によって、各社はそれぞれの強みとされる高利益分野により多くの経営資源を投入するようになりました。総合商社の看板を下ろすところまではいっていませんが、各社の特徴が出てきたのはこの時期です。
経営体質の抜本的な改革については、売上高重視から利益重視に転換しました。資本効率を重視するようになり総資産を圧縮し、財務の健全化を果たしました。ROA(Return On Asset、総資産利益率)やネットDER(Debt Equity Ratio、負債比率)という指標が重要視されるようになりました。事業投資・事業経営の推進や新しいビジネス領域への進出に伴い、「リスク管理」「財務管理」「組織・人事管理」といった新たな管理体制が確立されました。
ビジネスモデルに関しては、バブル崩壊に伴う「商社崩壊論」に加え、IT革命によって仲介業者としての商社機能が不要になるとする「商社不要論」が台頭してきました。
それに対し商社は、新たな活路を「事業投資」に求め、資源・エネルギー分野への大型投資や、中国をはじめとするBRICs諸国や、アジア等の新興国での事業を積極的に展開しました。また、国内において川下ビジネス、特に小売業への進出に力を入れ、「バリューチェーン」の構築に注力するようになりました。「バリューチェーン」とは、原料調達、生産、加工、流通、販売といったビジネスの各段階を、別々のものとして捉えるのではなく、全体として捉え、全体最適によって効率的に利益を上げる仕組みです。「川上から川下までを繋げたビジネスモデル」とも言えます。同時期に資源バブルによる多額の利益の計上もあり、経営改革は成功しました。2005年頃から商社全体の利益が急拡大し、2008年のリーマンショックによる世界金融危機でその勢いは鈍ったものの、その後も利益を伸ばしています。


(2010年代後半)「第4次産業革命」と「Digital Transformation」の進展による既存ビジネスのDisruptionの危機
2010年代に入っても全般的に商社の業績は好調で、特に事業投資・事業経営からの利益の拡大が続いていきます。一方、ITをはじめとする最先端テクノロジーを活用し、イノベーションによって新たな価値・サービスを創出する新興企業がいくつも台頭してきました。これらの新興企業は「業界の垣根」を超えていることが特徴ですが、すでに世の中にあるビジネスをDisrupt(破壊する)していくことになるため、商社にとって脅威の存在となります。
このような時代において商社は、Disruptor(破壊者)となって自分たちの既存ビジネスを自らぶっ壊すか、もしくは別のDisruptorと組むかの選択を迫られるようになるかもしれません。「第4次産業革命」や「Digital Transformation(DX)」の時代は、商社にとって「進化・成長のチャンス」となるのか、それとも「淘汰の危機」となるのかは、各社がいかに課題を克服できるかにかかっています。商社が抱える課題については後述します。現在、商社は過去とは比較にならないほど、「存在意義」を問われていると思います。


商社の機能と事業内容
「トレード」と「事業投資・事業経営」が商社ビジネスの「車の両輪」

①トレード
トレードとは、商品の輸出入、日本国内での商品取引、海外間での商品取引(三国間取引)の総称です。商社のビジネスはトレードからスタートしましたので、トレードは商社ビジネスの「原点」と言えます。トレードの使命は「モノ」や「サービス」を、有るところから無いところに運ぶこと、つまりに「モノ」や「サービス」のギャップを埋めることです。例えば、資源・エネルギーの乏しい日本に海外から輸入するということや、日本の品質の高い工業製品を海外に輸出するといったことです。この任に当たる商社はいち早くグローバルに、情報・顧客・物流のネットワークを構築してきました。トレードは、こうした商社の持つ優位性を活かしたビジネスであると言えます。
トレードの利益は、「コミッション(口銭=こうせん)」と「マージン(売買差益)」の二つです。「コミッション(口銭)」は、顧客にかわって売り先や買い先を探し、それらをつなぐことで得る利益です。通常、運送料、保管料、金利などのコストに加え、販売ルートの開拓に対する手数料が含まれます。商社は自ら在庫リスクを抱える必要はありません。商品取引を継続的に行って「コミッション(口銭)」を得る権利が「商権」です。
一方、「マージン(売買差益)」は、モノを安く仕入れて高く売り、その差額を稼ぐということです。価格リスクや在庫リスクは商社が抱えます。


②事業投資・事業経営
商社がトレードから事業投資・事業経営にシフトしていった背景は、先に説明した通りです。
事業投資の目的は、最初は投資先とのトレードを強化することにありました。つまり、商社自身が取り扱う原材料などの商材を、投資先に売りトレードメリットを得るということでした。その後、投資した会社に経営人材を送り込み、Hands-On経営(=投資先の経営に深く関与)をおこない、長期的な視点に立ち投資先の企業価値を極大化していくことを目指すようになりました。特に1990年代後半あたりからこの傾向が強まってきました。この頃から各社とも「経営人材」の育成に力を入れるようになり、「経営人材」を継続的に輩出する仕組み(経験付与や研修)を構築しました。商売センスを備えた「経営人材」が求められるようになったわけです。
商社の投資は、投資銀行のように単に利益性の高い企業に投資して高配当を得ることだけが目的ではなく、また、ファンドのように、投資先に経営者を送り込み、大胆な不採算事業の切り離しや人員削減といったリストラを断行し、短期間でV字回復させてキャピタルゲインを得ることだけが目的でもありません。商社の投資の特徴は以下の通り、「長期」が基本です。

1)「商権」獲得を目的とする投資ーコミッション(口銭)やマージン(売買差益)の獲得
2)投資先からの事業利益
3)子会社への経営参加を通じた「製造業」や「サービス業・小売業」への進出(事業の拡大、バリューチェーン構築)。買い付けた原料や製品を加工し、付加価値を高めてから販売するという点においては、トレードの発展系とも言えます。商社のビジネスの領域は、製造業やサービス業・小売業に拡大していっていると言えるのです。
4)配当収入の獲得(一般投資、スタートアップへの投資)


③バリューチェーン(川上から川下までをつなぐ)
「トレード」や「事業投資・事業経営」とは別の切り口として、「バリューチェーン」の構築があります。「バリューチェーン」とは、原料の開発・調達から、製造・加工、流通、販売・サービスまでのいわゆる「川上から川下まで」を対象とし、各々のビジネスの付加価値を高め、それらを連鎖させることで、より高いリターンを目指すことです。繊維、食料、資源、エネルギー、自動車、鉄鋼などある特定分野における「バリューチェーン」の構築のみならず、分野を横断して構築する場合もあります。


④イノベーションによる革新的な価値創出
現在は「第4次産業革命」や「Digital Transformation(DX)」の時代と言われています。デジタルやテクノロジーの進歩により、多くのIT企業を中心としたDisruptorが、業界の壁を超え、商社の既存のビジネスモデルを脅かしています。商社は、自らが持つ多様性を最大限に活かし、イノベーションを通じた革新的な価値を創出できるかどうかが、今後の成長の鍵となります。ビジネスのやり方が、プロダクトアウト(商品・サービス優先)からマーケットイン(ユーザー優先)に変わってきている中、商社はいかにして「自己変革」を遂げることができるかが問われています。


商社の今後の課題

【考えてみよう】
現在、商社が抱えている課題にはどのようなものがあると考えますか?

繰り返しになりますが、商社は、この「第4次産業革命」や「Digital Transformation」の時代において、「存在意義」を強く問われています。各社とも相当の危機感を持って「自己変革」に取り組んでいます。私見となりますが、商社の抱える課題を【機能】【組織・人事】【仕組み】の三つの観点から述べていきたいと思います。

【機能】
1)商社の優位性の低下
①「ボーダレスさ」の優位性の低下
商社の強みは、商品・サービス・事業分野・客先・機能などにおける「多様性」にあり、全方向に柔軟にアクセスできる「ボーダレスさ」に優位性がありました。しかしながら、新興企業は、IT等のテクノロジーを軸に業界に関係なく参入してくるため、商社の持つ「ボーダレスさ」の強みは徐々に失われているように思われます。
②「情報」の優位性の低下
1990年代までは、商社は「情報」において優位性がありました。この優位性はいち早く築いたグローバルネットワークと多種多様な顧客との接点によるものですが、商社はこの優位性を活用し、交渉を有利に進めたり、新たな価値を顧客に提供したりしてきました。しかし、インターネットの普及、技術の進歩、グローバル化の進展によって、商社の持つ「情報」の優位性は徐々に失われてきました。加えて、昨今は情報をオープンにしてシェアしていく時代となりました。商社は今まで「情報」を囲い込むことによって、その「情報」の価値を高めてきました。今後は「情報」をシェアすることによって「情報」の価値を高めていく方向に考え方を変えていく必要があるように思います。

2)ビジネスモデルの多様化への対応
商社のビジネスモデルは、もともとはB to B(Business to Business) 中心でしたが、1990年代後半以降のリテール分野への進出に伴いB to C(Business to Consumer)も一般的になりました。ここ数年、デジタルやテクノロジーの進歩によりC to C(Consumer to Consumer)やC to B(Consumer to Business )といった新しくより複雑なビジネスモデルが生まれてきました。商社には、B to BやB to C以外のビジネスモデルに関する知見やノウハウが、新興企業に比べ豊富とは言えません。商社として、どのようにして新しいビジネスモデルを築いていくかが課題であると思われます。

【組織・人材】
3)時代に即したあるべき組織の模索
商社の本社組織は、従来、商品・サービス分野別(プロダクトアウト型)の「縦割り組織」が基本です。この商品・サービス分野別の「縦割り組織」のコンセプトを維持しつつ、これまでに、以下の観点から改編を繰り返してきました。

・事業領域の変化や事業の拡大・縮小に伴う改編
・ビジネスにおけるシナジー(相乗効果)追求のためのくくりの変更
・意思決定スピードアップのための組織のフラット化
・人材の有効活用や育成の観点からの改編

一方、海外は地域ごとにくくりますので、本社の「縦割り組織」と海外の「横割り組織」を、どのように融合し全体最適を図っていくかが、今までの組織に関する課題でした。縦割りが強い会社もあれば、横割りが強い会社もありますが、「縦」と「横」の2軸にどうブリッジを掛けていくかが議論の中心であり、今後もこの議論は続いていくものと思われます。
これに、昨今「マーケット」という軸が加わり、要素が3軸となってより複雑になりました。マーケットイン型の組織が求められるようになり、消費者を起点としたバリューチェーンやビジネスプラットフォームの構築という観点で、組織がどうあるべきかの検討が進められています。
今後、既存ビジネスを磨いていくのに適した組織と、時代の変化に敏感に反応しイノベーションを引き起こすのに適した組織が、会社の中で混在していくことになります。これに日本や海外といったロケーションが絡んできます。時代の変化に合わせ、その時々の最適な組織を構築していく「柔軟性」が、今後ますます求められます。最近では、さまざまな企業で、進展著しいデジタル技術のビジネスでの活用を推し進めるチーフ・デジタル・オフィサー(CDO)の設置や、新規ビジネス創出を目的とした全社横断的な組織が積極的に作られています。

4)社員の意識改革と知識・スキルのアップグレード
①社員の慢心やおごり
コロナにより業績が一時的に低迷していますが、比較的商社の業績は良いため「今後もこのままで大丈夫だろう」という慢心や危機感の欠如が社員の間に生まれていないか、注視する必要があります。
また「商社に勤めている自分はエライ、スゴイ」と勘違いし、驕り(おごり)高ぶっている人もいます。業績の良い今こそ、気を引き締める必要があります。
②知識・スキルの陳腐化
時代は確実に変化しており、求められる知識・スキルもそれに伴い変化してきています。特に中堅・ベテラン社員に見受けられますが、過去の成功体験ややり方に固執し、知識・スキルが陳腐化している恐れがあります。また、全体に言えることですが、デジタル・テクノロジー・リテラシーが低いと言えます。「Growth Mindset」を育み、「学びなおし」の仕組みを整備していく必要があります。


【仕組み】
5)イノベーションを阻害する要因の除外
①事業計画の不適合性
商社では、新規ビジネスをおこなう際に、緻密な事業計画が求められます。その計画には収益計画やリスク分析などが含まれますが、これらには、過去の成功・失敗から得たノウハウがぎっしり詰まっており、事業の成功の確率を上げ、失敗を未然に防ぐためのものです。ただ、将来が予測できず、トライ&エラーを繰り返しながら事業を育てていくイノベーションを伴う新規事業については、従来のやり方が適さなくなっています。新規事業の決定プロセスにおいては「柔軟性」が求められます。
②合議制の弊害
誰もが良いと思うアイデアは、イノベーションを起こすには必ずしも良いアイデアではなりません。イノベーションに繋がる良いアイデアというのは、100人のうち数人が良いと感じるアイデアです。現在の合議制の進め方では、とんがったユニークなアイデアが埋もれてしまう可能性があります。
③利益規模が間尺にあわない
商社は、利益規模が比較的大きいビジネスをおこないます。イノベーションを伴う新規事業は、将来大きく花ひらき、大きな利益をもたらすかもしれませんが、それは誰も予想することができず、スタート直後の利益は微々たるものです。そのため事業計画が承認されず、どんなに良いアイデアでも埋もれてしまう可能性があります。


冒頭に、商社はいつの時代においても「存在意義」を問われ続けてきたと書きました。世の中が大きなうねりを起こし変化している現在ほど、「存在意義」を問われている時代はないと思います。私見となりますが、商社の課題について書かせていただきました。各社ともそれらの課題を強く認識しており、課題克服に向け取り組みを強化しています。商社はこれらの取り組みを通じて、「危機をチャンスに」変え、さらなる進化・発展を遂げていくことを期待しています。

次回は、【商社就活】#2 商社における成長とキャリア です。お楽しみに!

【まとめ】
・商社は、過去に何度も危機を迎えてきたが、そのたびに「自己変革」によって乗り越えてきた。
・各社が「第4次産業革命」や「Digital Transformation」の時代における課題をどう認識し、どのように対応しているか、要注目。
【参考文献】​
・田中隆之(2017年)『総合商社−その「強さ」と、日本企業の「次」を探る』祥伝社.
・小林敬幸(2017年)『ふしぎな総合商社』講談社.
​・一般社団法人 日本貿易会(2019年)『商社〜グローバルな価値創造に向けて〜−商社ハンドブック2019』


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