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【25卒】 総合商社 業界研究 (決定版)

総合商社に少しでも興味関心のある25卒就活生の皆さん!
総合商社は、さまざまなビジネスを、グローバルベースで、大規模におこない、新卒採用における人気企業ランキングで常に上位を占める人気業界という認識を、皆さんはお持ちだと思います。
では、次の問いに明確に自分の言葉で答えられますか?

『なぜ、総合商社は150年以上にわたり存続し、ここ10年で業績を大きく伸ばし、将来性のある業界と言われているのか?』

この noteの有料コンテンツ『【25卒】総合商社 業界研究(決定版)』では、「第一部 総合商社研究」で、8つの視点から広く深く総合商社業界を説明します。「第二部 他業界研究」では、総合商社に近い13つの業界・業態について説明し、それらと比較することで、より総合商社業界の理解を深めていきます。なお、「第二部 他業界研究」は、複数の24卒就活生が、社員訪問やセミナーなどの就活を通じて得た情報を元に執筆しています。活きた情報が詰まっています。
当コンテンツの対象者、ゴール、目次は以下の通りです。

【対象者】
・総合商社が第一志望で、絶対に総合商社の内定を獲得したい人
・さまざまな業界を研究中だが、総合商社に関心のある人
・総合商社と他業界の違いを理解したい人
・まだ志望する業界が定まっていない人
・総合商社業界の志望理由を作りたい人 など

【ゴール】
・総合商社の特徴を多面的に深く理解する。
・総合商社を他業界との比較において理解する。
・総合商社とはどのような業界かを、自分の言葉で語れるようになる。

【字数】
8万3000字


『第一部 総合商社研究 第二章 総合商社とは?【具体的な内容】 (1)社会的使命』 までは無料ですので、ぜひお読みください。
また、本コンテンツは、7大商社各社の説明もありますが、メインは総合商社業界全体の説明です。7大商社各社について、より詳しく知りたい場合は、『7大商社 徹底比較 (決定版)』を参考にして下さい。現在販売しているのは【24卒版】です。【25卒版】は、2023年10月初旬に販売予定ですので、少しお待ちください。

【24卒】 7大商社 徹底比較 (決定版)


第一部 総合商社研究

序章

【考えてみよう!】
なぜ、総合商社は150年以上にわたり存続し、ここ10年で業績を大きく伸ばし、将来性のある業界と言われているのか?
その理由を、幅広く考えてみよう。

(1) 総合商社は150年以上にわたり形を変えて存続する業界

『今から150年前 「紅忠(べんちゅう)」開店。伊藤忠・丸紅はここから始まった。』
2022年12月21日付の日経新聞に、伊藤忠商事と丸紅の共同広告が掲載されました。見開き2ページの広告で、1872年(明治5年)に、大阪本町に開店した「紅忠」の創業150周年を祝うものです。その開店にさかのぼること14年。1858年に近江商人である伊藤忠兵衛は、麻布の持ち下りで創業し、現在の伊藤忠商事と丸紅の礎を築きました。

2023年12月21日付 日本経済新聞より

この広告の上部に書かれている文章の文字が小さいので、参考までに以下に記します。

私たちの創業者である初代伊藤忠兵衛は、
1858年(安政5年)近江から他国への持ち下り商いを始め、
1872年(明治5年)大阪本町に
最初の店舗となる「紅忠(べんちゅう)」を開店しました。
それから150年、
「商売をする者は世の中の動きに機敏に反応し、
和合を大切にして業務に励み、お客様や社会の利益を図る」
という紅忠の精神は、今も両社に受け継がれています。
私たちはそれぞれが独立した総合商社でありますが、
社会をより良くするという同じ志を持つ仲間でもあります。
サステナブルな世の中を実現していくために、
私たちはこの想いを忘れずに、それぞれの強みを生かしながら
協力し、新しい時代を切り拓いていきたいと思います。

2023年12月21日付 日本経済新聞より

伊藤忠商事と丸紅の創業は、165年前の1858年であり、非常に長い歴史を持っています。他の商社も下図の通り歴史は長く、一番新しい豊田通商でも75年の歴史を持っています。業界全体として長い歴史を持つ業界と言えます。
総合商社は現在まで、事業の拡大や専門商社の買収などを通じて、総合化を進め、規模を拡大してきましたが、基本的に新規参入が無く、約20年前に現在の七大商社体制となった以降、顔ぶれに変化はありません。
また、海外には「総合商社」という業態は無く、日本固有の業界と言われています。


(2) 総合商社の2022年度決算は絶好調

2022年度の日系企業の連結ベースでの純利益ランキングは以下の通りです。三菱商事と三井物産は、総合商社で初めて連結純利益が1兆円を超えました。ランキングは3位と4位です。
企業の業績を測る指標は複数ありますが、「連結純利益」に注目すれば良いでしょう。「連結純利益」とは、親会社だけでなく、国内・海外子会社および関連会社を含めたグループ全体の最終的な利益を指します。
ランキングでは、伊藤忠商事は9位、住友商事は17位、丸紅は19位と五大商社はすべて20位以内にランクインしています。また、豊田通商は34位、双日は88位と、七大商社すべて100位以内にランクインしています。
伊藤忠を除く6社は過去最高益を更新し、前年比20%以上増加しています。
円安や資源高の恩恵を受けていますが、総合商社業界は総じて好業績であると言えます。

また、2023年度業績予想は以下のとおりです。2022年度よりも下がるものの、それでも高い利益水準を維持することが予想されます。

次に、リーマンショック後の2009年から2023年見通しまでの15年間の連結純利益の推移を見ていきましょう。
下記のグラフは、七大商社の連結純利益の「平均額」と「合計額」を表しています。
「平均額」で見ていきますと、2010年代前半は2000億前後で推移しています。その後、資源バブルの陰りにより、資源・エネルギー投資の減損損失(*)により、住友商事は2014年度に、三菱商事・三井物産・豊田通商は2015年度に赤字に転落します。この損失は一過性のものでしたので、その後業績は回復し、2010年代後半は、2200億円から3200億円の間で推移していきます。コロナの影響で、2020年度に業績が落ち込んだものの、円安や資源高のプラスの影響や、事業ポートフォリオの多様性の効果により、他業界に先駆けて業績は回復し、2021年度以降は、5500億円から6500億円で推移しています。
つまり、リーマンショック以降、右肩上がりで利益を増やしています。

*減損損失:減損とも言います。簡単に説明すると、企業が保有する固定資産の収益性が低下したことで、投資額の回収が見込めなくなった場合、その下落分を損失として損益計算書(P/L)に反映すること。

下図は、商社各社の連結純利益を表しています。現時点では、三大商社(三菱商事・三井物産・伊藤忠商事)、五大商社(住友商事・丸紅)、七大商社(豊田通商・双日)の3つのグループに分かれており、その差は広がっていると言えます。細かいグラフですので、参考としてイメージで捉えて下さい。


(3) 世界的に有名な投資家も日本の総合商社に注目

ウォーレン・バフェット氏

『投資の神様』と呼ばれるウォーレン・バフェット氏は、2020年に日本の五大商社の株式をそれぞれ5%取得しました。2023年4月には、その保有比率を7.4%まで増やし、今後9.9%まで増やしていく可能性があるとしています。バフェット氏は、「五大商社株はまだ割安であり、かつ長期にわたって成長する」と見ています。
バフェット氏が『投資の神様』だといわれる理由の一つは、投資家として世界一の富豪だということです。個人資産額は1097億ドル(約14.5兆円)と言われており世界第6位。その上にいるのは、すべて実業家です。それだけ業界や企業の目利きに優れていると言えます。
「情報を武器に金だけではなく人を投資することで、投資の成功率を高める」というビジネスモデルは、日本の総合商社最大の特徴であり、バフェット氏はそこを評価したと言われています。また、総合商社は、バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイと事業が似ており、将来、事業のパートナーとしての関係を築くことも考えているようです。
バフェット氏は、株式を長期保有することで有名であり、総合商社の成長は長期に亘り続くと見込んでいます。

次に、総合商社の株価について見ていきましょう。2003年以降の三菱商事の株価チャートは以下のとおりです。20年前の2003年は約1000円。現在(2013年7月現在)は約7000円ですので、株価は約7倍と跳ね上がっています。推移を見ていくと、2000年代後半は資源バブルで株価は上昇しましたが、2008年のリーマンショックで株価暴落しました。その後、取り戻すも2015年度のエネルギー・資源投資の減損による赤字決算で下落します。その後、2020年のコロナで下落するも、円安や資源高の恩恵を受けるとともに、事業ポートフォリオの多様性により収益は過去最高を更新。バフェット氏の投資効果もあり、2021年以降は急騰しています。三菱商事以外の商社の株価も同様の動きをしています。

これらから、「なぜ、総合商社は150年以上にわたり存続し、ここ10年で業績を大きく伸ばし、将来性のある業界と言われているのか?」という問いに対する答えの一端が理解できたと思います。
それでは、これからより深く総合商社の世界に入っていきましょう!


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第一章 総合商社とは?【総括】


総合商社は、新卒人気企業ランキングにおいて常に上位を獲得していますが、その実態を理解している人はそう多くはありません。
そもそも総合商社は、多岐にわたる機能や様々な業界・顧客との接点を持ち、幅広い商品・サービスの提供を通じて、世の中の様々な課題を解決しています。また、時代の変化に先取りする形で自己変革を続けています。
一方で、脱炭素化やDX化が叫ばれている昨今、総合商社は生き残りをかけた過去最大の変革期を迎えているとも言えます。
冒頭に掲げた、『なぜ、総合商社は150年以上にわたり存続し、ここ10年で業績を大きく伸ばし、将来性のある業界と言われているのか?』という問いに対し、8つの視点から説明していきます。第一章で【総括】として概要を説明しますので、まずは全体像を捉えてください。その後、第二章でそれらの【具体的な内容】を説明しますので、理解を深めて下さい。


【考えてみよう!】
総合商社の特徴を表すキーワードを複数挙げてみよう。

(0) 総合商社の概要

■ 総合商社の区分
現在、総合商社は、7社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅、豊田通商、双日)で構成され、総称として「七大商社」と呼ばれています。下図のとおり、「三大商社」「五大商社」と括られることもあります。
「財閥系」(三菱商事、三井物産、住友商事)と「非財閥系」(伊藤忠商事、丸紅、豊田通商、双日)に分けられることもありますが、財閥を超えたビジネスが一般的になっていますので、現在は、それほど大きな意味は持たないと言えます。また、「資源系」と「非資源系」と区分けされることもあるが、2000年代から2010年代前半にかけては、資源に強い商社と非資源に強い商社に分かれていましたが、資源系商社は非資源にも力を入れてきていますので、現在はそこまで明確に区分けできるものでもありません。

■ 業務内容
業務内容としては、「トレーディング」「事業投資・事業経営」が両輪で、今後も変わらないでしょう。
加えて、昨今は「DX化」に注力しており、デジタルやテクノロジーを活用して、既存ビジネスの効率化(コスト・マンパワー・時間などの短縮)や、既存ビジネスにおける新たな価値創造、さらには今まで商社が携わってこなかった新しい事業領域における新規ビジネス創出に力を入れています。

*DX(Digital Transformationの略):デジタル技術を用いて社会を良くすること。

■ 事業領域
商社で扱っていない商材はないと言われるほど、事業領域はかなり広いです。「資源分野」では、鉄鉱石、石炭、石油、LNG、非鉄金属などです。「非資源分野」では、電力、自動車、食料、繊維、生活資材、情報、金融、不動産、物流、ヘルスケアなど多岐にわたります。
これらの商材を日本のみならず、先進国・途上国にかかわらず、グローバルで展開しています。


(1) 社会的使命

商社業界は、長い歴史の中で培ってきた信頼・実績や、アセット(資金力・人材・ネットワークなど)の豊富さから、大きな「社会的使命」を担っていると言えます。具体的には、エネルギー・資源の安定供給、インフラ整備などの国作り、バリューチェーン構築による産業の変革など、商社にしか果たせない「社会的使命」を担っています。また、SDGsの17のゴールに代表されるような世界共通の大きくて難易度の高い社会課題に挑んでいる業界です。
高い収益性を確保しつつ、社会貢献性の高いビジネスを、長期的な視点で行うのが総合商社の特徴です。つまり、収益性と社会貢献性の両立を高い次元で実現しているのが総合商社です。
また、総合商社は、「〇〇のような社会を実現したい」「△△といった社会課題を解決し、豊かな社会を作りたい」「お客様のXXといったニーズに応えたい」といった高い志を持った社員が集まる業界であるとも言えます。

第二章では、総合商社の社会的使命に関して、企業理念の視点と、商社が解決すべき課題と解決方法の視点から、具体的に説明していきます。


(2) 総合力

「商社」は「商事会社」の略語です。「商事会社」とは、商行為(モノを買ったり売ったりすること)を業とする目的で設立された会社のことです。では、「商社」の前に付いている「総合」にはどのような意味があるのでしょうか?
「総合商社」とは、下図のとおり、「総合力」すなわち「9つの広がり」を備えている業界であると私は考えます。総合商社は、「総合力」を発揮し、課題解決と収益化の両立を高いレベルで実現する業界であると言えます。
この「総合力」は、長い歴史の中で培ったものであり、一朝一夕で備えられるものではありません。そのため、総合商社業界に新規参入企業が無いのはそれが理由だと考えられます。

第二章では、上記の「9つの広がり」に関して、一つひとつ具体的に説明していきます。


(3) 自己変革

商社業界に限らず、業界理解を深めるには、その業界の歴史を振り返り、時代の変化にどのように対応してきたかを理解するのが良いでしょう。
商社は、いつの時代においても「存在意義」を問われ続けてきました。特定の商材を持たないからこそ、「存在意義」の示すのは難しいものです。しかし、商社は、新しい事業分野への進出、ビジネスモデルの変革、機能の高度化、海外事業の強化等、絶え間ない「自己変革」によって「存在意義」を証明し続けてきました。
時代の変化のスピードが加速する将来において、商社はより一層「存在意義」を問われることになるでしょう。しかし商社は、その柔軟性や行動力などの強みを発揮して「自己変革」を引き起こし、「存在意義」を証明し続け、さらなる進化・発展を遂げるでしょう。また、そこで働く人材も「危機」を「チャンス」に変え、「自己変革」によって「成長」を続けていくでしょう。
 実際、商社は、グローバルベースでの社会環境や経済環境等の時代の変化に対応し、時には時代を先取りし、ビジネスモデルを【トレーディング→事業投資・事業経営】へと進化させてきました。これからは、脱炭素のようなより大きく、より複雑な社会課題に挑み、また、DXを活用した業務効率化や新規ビジネス創出を目指していきます。

第二章では、総合商社の歴史と機能・事業内容について、具体的に説明していきます。


(4) 人材戦略

「人が資産」である商社において、「人材戦略」は、「事業戦略」と並ぶ経営の両輪です。従来の商社パーソンは、リーダーシップ・コミュニケーション力・人間力(信頼や謙虚さなど)・バイタリティなどが高く求められてきました。これらは今後も不変であると考えられます。
グループ連結経営を推進していく上で、グループ会社の経営を担う経営人材の育成は、商社の人材戦略における重要課題ですが、VUCAの時代で生き残るには、人材多様化を強力に推進し、多様な人材が「自分らしさ」を発揮でき、それらを融合できる環境の整備が求められます。

*VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったもの。先行きが不透明で将来の予測が困難な状態を言う。

商社はかつてはバブル時代の栄養ドリンクのCMのキャッチコピーである「24時間戦えますか?」を代表する業界であり、長時間労働が美徳とされてきました。また、お客様との関係維持・強化のため、接待文化が強い業界でもありました。現在は、多様な人材が最大限に力を発揮するため、また、社員一人ひとりが健康で高い生産性を実現するため、「働き方改革」に積極的に取り組んでいます。
さらに、VUCA時代においては、考える力(課題発見・解決力)や、デジタル・テクノロジー・リテラシー(デジタル・テクノロジーを活用して、業務効率化や新規ビジネス創出を行う力)が求められています。

第二章では、下図をベースに総合商社が求める人材について説明していきます。


(5) 組織戦略

総合商社の組織は、伝統的に「タテ割り組織」です。「タテ割り組織」とは、商品・サービス分野別に事業領域を軸に組織を構築するものです。このような組織体制は、B to Bビジネス(Business to Business:企業間取引)のように、対面業界(例えば化学品業界、食品業界)が明確な場合に有効であると言えます。
この「タテ割り組織」は、現在も主流であるものの、B to Cビジネス(企業(business)が一般消費者(Consumer)を対象に行うビジネス形態)の増加や、解決すべき課題の複雑化により、「タテ割り組織」だけでは十分に対応しきれなくなっています。そこで近年は、組織横断型の「ヨコ型組織」が増えてきています。
コーポレート部門(総本社)については、機能別の組織になっています(人事部、経理部など)。コーポレート部門は、各々の専門性の発揮を通じて、経営や管理を担い、営業と共にビジネスを推進したり、営業の牽制機能を発揮したり、社内ルールを整備したりする重要な役割を担っています。

第二章では、総合商社の組織体制とヨコ型組織について具体的に説明していきます。


(6) 商社ビジネス

商社ビジネスの基本は「トレーディング」です。サプライヤー(売主)とバイヤー(買主)の間に入り、仲介役として商品を売買する仕事です。
トレーディングの仲介役としての機能が徐々に低下している中、積極的に事業投資を行い、投資先に経営人材を派遣し、投資先の企業価値を高めていくことに力を入れています。また、投資先を自分たちのバリューチェーンに組み込み、既存のバリューチェーンで不足する機能を補強し、バリューチェーンを強化することも行なっています。
現在は、「トレーディング」と「事業投資・事業経営」は、成長のための両輪となっています。
最近は、脱炭素などの社会課題に向き合い、ビジネスを通じた社会課題解決を目指しています。また、デジタル・テクノロジーをビジネスに掛け合わせ、既存ビジネスの効率化や価値向上、新規事業創出を目指ししています。
モノの売り買いを行うトレーディングは引き続き重要ですが、現在は、ビジネスを仕組み化することで、収益性と課題解決の両立を持続的に実現していくことを目指しています。また、ビジネスであげた収益を、別の社会課題解決に投資することで持続可能な社会の実現を目指しています。

第二章では、以下のような図を用いて、8つの実際に行われているビジネスを通じて、商社ならではのビジネスの特徴を説明していきます。これらの図は、プレスリリース等のニュースを図にしたものです。

■ 伊藤忠、店舗で衣類回収・再利用 スタートアップと連携https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2022/220331.html
https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2023/230131.html

【解決すべき課題・ビジネス概要】
繊維産業の課題は多く、具体的には「廃棄される繊維・アパレル製品の削減」「ライフサイクルの長期化」「消費者意識の変化(環境への配慮を基準に製品を選ぶ人の増加)への対応」などが挙げられます。環境負荷を軽減して持続可能な成長を維持していくことが世界的に求められているため、資源循環型ビジネスへの関心が高まっています。そこで、伊藤忠は、リユースやリサイクルを通じて資源循環型ビジネスを展開する株式会社ecommitと共に、日本市場における繊維製品の回収サービス(Wear to Fashion)を展開していきます。

【商社・当社がやる意義】
商社は、あらゆる産業や企業との接点を持っており、ある特定の領域で強みを持つ企業と協業し、ビジネスの仕組みを構築することを得意としています。また、豊富な資金力を活かして規模の拡大をスピード感を持って推進することも強みとしています。伊藤忠は、祖業が繊維であり、現在に至るまで「繊維No1商社」であり続けています。そのため、高い信用力、幅広いネットワーク、繊維・ファッション産業におけるビジネスノウハウを、他の商社よりも有しています。


(7) 将来性

世界的に有名な投資家が注目しているからというだけでなく、商社は将来性の高い業界であると考えています。理由は、これからの時代、課題発見・課題解決する力が重要となりますが、商社は、優秀な多様な人材、多くの産業・顧客との接点、グローバルなネットワーク、豊富なビジネスノウハウなどを備えており、課題発見・課題解決する力に優れていると考えられるからです。
また、課題解決においては、自社だけでは実現は難しく、高い技術力や優れたアイデアを持つベンチャー企業などと協業する機会が増えていきます。その中心となって事業を推進していく力が商社にはあると考えます。
さらに、イノベーションに関してですが、イノベーションを「既存のモノとモノの新たな結合により、新しい価値を生み出すこと」と定義すると、商社は、多様な商品・サービスを扱い、様々な産業との接点を有し、様々な顧客・パートナーとの付き合いがあります。イノベーションを生み出すネタは無限にあり、イノベーションを生み出す土壌が整っていると言えます。

第二章では、総合商社の将来性について具体的に説明していきます。


(8) 商社業界の課題

商社業界は、近年業績が絶好調で、高い将来性が感じられますが、同時に、課題も抱えています。私の考えを以下記します。

・他業界の参入の脅威: IT等のテクノロジーを強みを持つ新興企業が、商社の既存の事業領域に参入してくる脅威。

・「情報」の優位性の低下: 商社は今まで「情報」を囲い込むことによって、その「情報」の価値を高めてきたが、今後は「情報」をシェアすることによって「情報」の価値を高めていく方向に考え方を変えていけるか。
 
・ビジネスモデルの多様化への対応: 商社には、B to B や B to C 以外のビジネスモデルに関する知見やノウハウが、必ずしも新興企業に比べ豊富とは言えない。商社として、どのように新しいビジネスモデルを構築していくか。
 
・時代に即したあるべき組織体制の模索: 社内でのカニバリ(「カニバリゼーション」の略で、自社の中で競合し、利益を食い合うこと)を極力避け、お客様のニーズを満たし、社会の課題を解決するのに最適な組織体制を築けるか?

・社員の慢心やおごり: 業績好調だからこそ社員に慢心やおごり、油断が生まれていないか?

・デジタル・テクノロジー・リテラシーの習得: デジタル人材をスピード感を持って、質・量ともに確保・育成できるか? 
 
・事業計画の不適合性: 商社には、収益性やリスクマネジメントの観点から、事業計画を緻密に立てる文化があるが、VUCAの時代にそのやり方が通用するか?

・合議制の弊害: 現在の合議制の進め方では、とんがったユニークなアイデアが埋もれてしまう可能性があるのでは?

・利益規模が間尺にあわない: どんなに素晴らしいアイデアでも、利益規模が小さい場合、埋もれてしまわないか。

第二章では、総合商社業界が抱える課題について具体的に説明していきます。


以上が総合商社に関する【総括】です。なんとなくイメージは湧いてきましたか?それでは、【第二章】では、一つひとつ具体的に解説していきます。

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ちなみに【第二部 他業界研究】では、商社志望者が受けることの多い13つの業界・業態について説明しています。以下が、そのうちの一つである「専門商社」に関する説明です。もちろん総合商社の研究を深めていくことは大事ですが、同時に他業界を理解することで、総合商社との違いが鮮明になり、より一層総合商社の理解が深まっていきます。


(1)専門商社

【業界サマリー】
・食品、鉄鋼、機械など特定の分野の商材を取り扱う商社
・専門分野への深い知識が蓄積され、取引先との良好な関係性が長年維持されている
・求める人材像は総合商社と似ている(高いコミュニケーション能力やリーダーシップのある人、自ら考えて行動できる人など)

■代表的な企業
・業界順位(売上高順): メディパルHD、アルフレッサHD、三菱食品、日本アクセス、日鉄物産、伊藤忠丸紅鉄鋼、阪和興業、メタルワン、JFE商事、神鋼商事、長瀬産業、伊藤忠エネクス、岩谷産業、稲畑産業、東レインターナショナル、帝人フロンティア、蝶理、豊島
・鉄鋼専門商社: 日鉄物産、伊藤忠丸紅鉄鋼、阪和興業、メタルワン、JFE商事、神鋼商事
・繊維専門商社: 東レインターナショナル、帝人フロンティア、蝶理、豊島
・化学専門商社: 長瀬産業、稲畑産業
・食品専門商社: 三菱食品、日本アクセス
・医薬品専門商社: メディパルHD、アルフレッサHD
・燃料・エネルギー専門商社: 伊藤忠エネクス、岩谷産業
・総合商社系専門商社: 三菱食品(三菱商事)、日本アクセス(伊藤忠商事)、伊藤忠丸紅鉄鋼(伊藤忠商事・丸紅)、メタルワン(三菱商事・双日)、伊藤忠エネクス(伊藤忠商事)
・メーカー系専門商社: 日鉄物産(日本製鉄)、JFE商事(JFEホールディングス)、神鋼商事(神戸製鋼所)、東レインターナショナル(東レ)、帝人フロンティア(帝人)、蝶理(東レ)、稲畑産業(住友化学)
・独立系専門商社: 阪和興業、豊島、長瀬産業、岩谷産業

■社会に果たす役割
総合商社と同様に、時代の変化を先取りする形で自己変革を続け、世の中のさまざまな社会課題を解決することが役割です。その中でも専門商社は特定の事業分野の商材をメインに取り扱うため、中軸となる事業分野の業界に対して特に強みを持って社会課題を解決します。
総合商社と違い「トレーディング」によって収益を生むことが基本のビジネスモデルとなっていることが多いですが、大手の専門商社は資本力もあり、川上から川下までのバリューチェーンの拡大を狙う企業もあります。

■ モノ or サービス
サービスを提供します。専門商社の収益の基本となるトレーディングビジネスを例に挙げると、例えば鉄鋼系専門商社であれば鉄鋼の生産者から原材料を仕入れ、取引先の鉄鋼メーカーに販売する商取引業務を行います。そのため商社(専門商社)は具体的にモノを生産するのではなく企業と企業をつなぐ役割を担うことが求められていると言えるでしょう。

■ toB or toC
toBのビジネスが主です。総合商社は toCのビジネスも行っていますが、専門商社はトレーディング中心の収益構造であるため主にtoBのビジネスであると言えます。

■ 将来性
総合商社と比較して「狭く深く」関連する分野や業種の企業に精通しており安定的で盤石な顧客基盤を築いていますが、一方で取り扱い商材が限られる分、それらのニーズが減少するリスクに備える必要があります。またトレーディングがメインの機能であるため、仲介機能の中抜きリスクも存在します。専門商社はこれらのリスクを、狭く深い専門性で存在意義を発揮すること、取扱商材の幅を広げること、川上から川下までのバリューチェーンを構築することでカバーしています。

■ 規模感
一般的には、総合商社の数ある事業本部の中の1〜2つの事業本部ほどの規模感です。ビジネスの規模感では総合商社の方が大きいですが、特定の分野に強みを持つ分、高い競争力を持つ企業もあります。

■ 求める人材像
・コミュニケーション能力が高い人
商社の仕事は企業と企業、人と人を繋ぎ、橋渡しをする仕事です。そのため両者から信頼を得て、うまくコミュニケーションを取る力が求められます。総合商社と比べて人間関係が狭いため、より近い距離で長期的な関係を築くことが重要です。
・自分の頭で考えて行動できる人
市場を分析し、将来性を見据えて行動できる人が向いているでしょう。人や企業の橋渡しをする際にどの人、どの企業の橋渡しをすれば良いかを見極める必要があります。また社会情勢に常にアンテナを張り、消費者の動向や経済の変動を分析し、世の中の変化に対応しながら業務を遂行することが求められます。
いくつかの専門商社の求める人材像を例に挙げると、以下の通りです。
日鉄物産「自分で考え、選択をして、その選択に責任を持って仕事に邁進していくことができる人」
阪和興業「固定観念に縛られず、自分の頭でアイデア豊富にモノを考える」「予測や判断の難しいことにも、物怖じせずに果敢に取り組む」「困難な状況にもあきらめずに、粘り強くその壁を乗り越える術を考える」「地に足をつけて、着実に目標に向かって努力する」
三菱食品「情熱を持って食の未来を切り拓きたい人」

■ キャリアプラン
企業により異なりますが、定年まで勤め上げる人もいれば、ステップアップを目指して転職する人もいるようです。専門商社では以下のような市場価値の高いスキルが身につくと言われています。
・顧客や取引先との長期的な信頼関係構築能力
・扱う領域に関する専門知識
・英語などの外国語スキル

■ 海外駐在の機会
総合商社と比べるとやや少ないと言われますが、海外駐在の機会はあります。鉄鋼系専門商社ではアメリカや中国、ASEANに駐在する人が多いようです。

■ スペシャリスト or ゼネラリスト
どちらとも言えるでしょう。各商材に詳しくなるという意味ではスペシャリストですが、業務としては総合商社と同様に企画調査から営業まで幅広い業務に携わり、さまざまなスキルを身につけられるという点でゼネラリスト的な働き方であるとも言えます。

■ チームで or 個人で
総合商社と同様、チームで働くことが多いです。一つのプロジェクトに多くの社内外の人が関わるため、チームワークが求められます。一方、個人としても総合商社と同様マルチタスクをこなす必要があるため、日々のスケジュール管理や業務の効率化など個人で工夫して業務をこなす力も必要です。

■ 給料・福利厚生
給料:初任給は総合商社とほぼ同等ですが、平均年収は総合商社が1500万円程度であるのに対し専門商社は900〜1200万円です。
福利厚生:十分に良いと言えます。食事と家具家電付きの寮やライフイベント支援制度など充実しており、働きやすい環境が整っています。

■ 勤務地
東京勤務が中心ですが、地方や海外の可能性もあります。

■ WLB(残業時間)
30〜50時間ほどです。

■ 接待・飲み会の頻度
総合商社と同程度です。商社は自社製品を持っていないため、取引先との安定した関係構築が重要になります。そこで良好な人間関係を築くためのツールとして、接待や飲み会は欠かせないと言えるでしょう。

■ 業界に向いている人(属性・経験)
内定者には、体育会、海外経験者(帰国子女や留学生)、理系院生(特に企業が専門とする事業分野の専攻)の属性の人が多いです。


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第二章 総合商社とは?【具体的な内容】


(1)社会的使命

総合商社は、時代の変化に合わせ、「自己変革」を繰り返し、長きにわたり社会に貢献してきました。
一方、総合商社が果たすべき「社会的使命」については、いつの時代においても不変であると言えます。
ここでは、総合商社の「社会的使命」について説明していきます。
まずは企業理念の視点から見ていきましょう。

■ 企業理念

【考えてみよう!】
以下は各社の企業理念ですが、共通する要素は何だと思いますか?

【三菱商事】

三菱商事 三綱領 『統合報告書2022』より

【三井物産】

三井物産 経営理念(MVV) 『統合報告書2022』より


【伊藤忠商事】

伊藤忠グループ企業理念 (ホームページより)

「売り手よし」
「買い手よし」
「世間よし」

自社の利益だけでなく、取引先、株主、社員をはじめ周囲の様々なステークホルダーの期待と信頼に応え、その結果、社会課題の解決に貢献したいという願い。「三方よし」は、世の中に善き循環を生み出し、持続可能な社会に貢献する伊藤忠の目指す商いの心です。

伊藤忠商事ホームページより


【住友商事】

住友の事業精神 『統合報告書レポート2022』より


【丸紅】

丸紅 社是と企業理念 (ホームページより)


【豊田通商】

豊田通商 企業理念 統合レポート2022より


【双日】

双日グループ企業理念 ホームページより


各社の企業(グループ)理念における共通項を抽出すると以下となります。

■三菱商事:所期奉公
事業を通じて、物心共に豊かな社会の実現に努力すると同時に、かけがえのない地球環境の維持にも貢献する。

■三井物産:Mission 世界中の未来をつくる
大切な地球と人びとの、豊かで夢あふれる明日を実現します。

■伊藤忠商事:三方よし
自社の利益だけでなく、取引先、株主、社員をはじめ周囲の様々なステークホルダーの期待と信頼に応え、その結果、社会課題の解決に貢献したいという願い。「三方よし」は、世の中に善き循環を生み出し、持続可能な社会に貢献する伊藤忠の目指す商いの心です。

■住友商事:自利利他公私一如
住友の事業は、住友自身を利するとともに、国家を利し、社会を利するほどの事業でなければならないという経営姿勢を表す言葉。つまり、「住友の事業は、自分たちだけが利潤を上げることのみを目的とするのでは不十分であり、国家や社会の利益をかなえるほどの壮大な事業でなければならない」という意志が込められています。

■丸紅
丸紅は、社是「正・新・和」の精神に則り、公正明朗な企業活動を通じ、経済・社会の発展、地球環境の保全に貢献する、誇りある企業グループを目指します。

■豊田通商
人・社会・地球との共存共栄を図り、豊かな社会づくりに貢献する価値創造企業を目指す

■双日
双日グループは、誠実な心で世界を結び、新たな価値と豊かな未来を創造します。

これからから読み取れる共通することは以下の4点だと考えます。

・「豊かな社会の実現」と「地球環境の保全」の両立を図ること、つまり、「持続可能な社会の実現」を目指していること。
・「持続可能な社会の実現」を、事業を通じた新たな価値の創造によって実現しようとしていること。
・自社の利益と社会の利益の両立を目指していること。つまり、「収益性」と「社会貢献性」のバランスを大事にしていること。
・真摯さ、誠実さ、公平さを大事にし、様々なステークホルダーからの信頼を大切にしていること。

まとめると商社の存在意義というのは、「様々なステークホルダーとの信頼関係を大切にし、事業を通じて新たな価値を創造することによって、持続可能な社会を実現すること」であると言えます。

*ステークホルダー:株主・経営者・従業員・顧客・取引先のほか、金融機関、行政機関、NPOなど、企業のあらゆる利害関係者。

■ 課題解決

次に、商社が解決すべき課題という視点で考えていきましょう。

【考えてみよう!】
総合商社が解決しうる世の中の課題は何だと考えますか?

皆さん、「SDGs」はご存知ですか?誰ひとり取り残されることなく、人類が安定してこの地球で暮らし続けることができるように、世界のさまざまな問題を整理し、解決に向けて具体的な目標を示したのが、SDGs(持続可能な開発目標)です。
2015年に国連で採択され、国際社会は一致団結して、2030年にこれらの目標を達成することに合意しました。
SDGsには17のゴールがあり、これらは2030年のあるべき姿を表しています。その下にある169のターゲットは具体的な目標が示しており、その目標の達成度を測るために、232の指標が設けられています。

国際社会が一致団結して、長期的に取り組んでいくこれらのSDGsは、それだけグローバルに共通した課題であると言えます。また、解決の難易度が高い課題であるとも言えます。まさに、グローバルに豊富なアセットを活用して課題解決に挑む商社が解決すべき課題であると言えます。

SDGs 17のゴール

最後に、事業を通じて、世の中の課題を解決するのが民間企業と定義すると、5W1Hの観点で、総合商社が課題に対してどのようにアプローチするかを纏めたものが以下となります。

このように、総合商社の「社会的使命」とは、上述の「様々なステークホルダーとの信頼関係を大切にし、事業を通じて新たな価値を創造することによって、持続可能な社会を実現すること」に、「豊富なアセットを活用した仕組みづくり」や「長期的に」という要素を追加して、「様々なステークホルダーとの信頼関係を大切にし、豊富なアセットを活用した仕組みづくりなどの事業を通じて、長期的な視点で新たな価値を創造し、持続可能な社会を実現すること」になると考えます。

【考えてみよう!】
他の業界についても、世の中の課題に対し、5W1Hの視点でどのようにアプローチしているか考えてみよう。


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