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“フラットな組織の副作用”に先手を打つ。株式会社HERPがコーチングを学ぶ理由

2022年11月からスタートした法人向け人材育成・組織開発のサービス「THE COACH for Business」。「個人の力を、組織の力に。」をコンセプトに、個人と組織の「自ら育つ力」を耕し自律共創型組織づくりの伴走をおこなっています。

今回はそんな「THE COACH for Business」を導入いただいた、株式会社HERPの冨田真吾さんにインタビューを実施。

「採用を変え、日本を強く。」というミッションを掲げるHERPは、2017年の設立以降、ユーザーの課題に真っ直ぐ向き合うことを目的としてフラットな組織づくりに取り組んできました。また、組織の成長に伴い、2023年には新たな事業と部署を発足。組織体制が変化したばかりのタイミングで、コーチングの基礎を学ぶ3日間の研修を実施しました。

ミッションに向けてますます躍進していくHERPが「THE COACH for Business」を導入したのはなぜなのでしょうか?詳しく伺います。


事業の複線化と共に見えてきた、“フラットな組織の副作用”

HERP 冨田真吾さん

——まずは、「THE COACH for Business」の研修を導入いただく前に、HERPが感じていた組織の課題を教えてください。

私たちは2017年の設立以降、メンバーそれぞれが自分で課題を見つけて解決まで進める“自律型組織”を目指してきました。

そうしたなか、2023年は“フラットな組織の副作用”を感じ始めた頃でもありました。誰が最終意思決定者なのかが曖昧であったり、「会社が自分に期待することは何なのか」が明確ではないが故に、活躍できるメンバーほど日々の業務に追われ、新たなチャレンジができず成長実感が得られないことも懸念されていました。

——フラットな組織ゆえの課題が見えてきた頃だったんですね。

さらに2023年の夏頃、「採用を変え、日本を強く。」というミッションに向かうべく、事業の複線化を行いました。これまで企業向けのデジタル人材採用管理システム「HERP Hire」を軸に事業を成長させてきましたが、2023年9月にローンチした「ジョブミル」β版をはじめとする複数の新規事業を展開しています。

事業が1つだったこれまでは、開発と営業、そしてバックオフィスと、それぞれが担う役割がシンプルでしたし、会社のビジョンへのつながりも感じやすかったと思います。しかし、事業が複数になると部署や役割も増えます。その上、新規事業や不確実性の高い事業開発はすぐに結果が出るとは限りませんから、停滞感を感じることもあるかもしれません。

すると、会社としての一体感の欠如や、自分や他のメンバーが進めている仕事が「会社のミッションにどう役立っているのか」が理解しづらく、貢献実感が得にくい。

フラットな関係性の中でも、組織とメンバーの間で will/can/must をすり合わせ、貢献実感・成長実感をより得られる環境をつくりたいと思い、部署ごとのリソースマネジメント責任者の選任と、メンター制度発足の2つを行いました。

「メンティーの可能性を信じる」HERPのメンター制度とコーチングの相性

——HERPのメンター制度とはどのようなものですか?

一般的なメンター制度は、熟達しているメンターが成長過程のメンティーに対して1on1を行うというイメージかと思います。HERPの場合は、社歴が短いメンバーが社歴の長いメンバーのメンターになる場合もありますし、もちろん年齢差も関係ありません。自分のメンターになってほしい人をメンティー側が指名する形をとっています。

HERPのメンバーは、伴走してくれる人さえいれば、自身の課題を見つけ解決する力を持っています。そのため、メンターの役割も「一緒に課題解決をする必要はなく、メンティーが新しい視点を獲得することに貢献できたらOK」としています。

——「メンティーの可能性を信じる」という意味では、コーチとクライアントの関係性と近いものを感じますね。

まさにそうです。メンターというアプローチは、ティーチングやコンサルティング、コーチングなどさまざまなコミュニケーション手法の組み合わせだと認識していますが、HERPのメンター制度にはコーチングの要素が強いのではないか、と。

しかし、コーチングとはどんなものなのか、体系化されたものが当時の社内にあったわけではありませんでした。そこで、社内の共通言語を獲得するために「THE COACH for Business」の研修実施が決まりました

対話がうまくいかないのは、コミュニケーションのスタンスが異なっているから

——コーチングの中でもさまざまなサービスがある中で、「THE COACH for Business」に決めた理由は何だったのでしょうか?

他社サービスと比べてみたときに、講師との相性が良いと感じたからです。HERPを思考優位型か感情優位型かという枠組みに当てはめるなら、どちらかというと思考優位なメンバーが多い組織と言えます。

コーチングそのものがソフトな領域であることを理解しつつも、合理性を重視するメンバーでも受け入れやすいような説明ができたり、自分たちとビジネス経験におけるバックグラウンドが近い講師をアサインいただけそうかといった点を重視していました。

加えて、大企業の経営陣向けのコーチングよりも、ベンチャーやスタートアップといった成長過程にある組織におけるコーチングの重要性を説いている姿勢にも共感し、THE COACHを選択しました。

——今回の3日間の研修では、メンター、メンティーを問わず約20名がコーチングの基礎を学びました。実際に受講してみていかがでしたか?

「今まで自分の中になかった考えやスキルをインストールできた感覚がうれしい」「他のメンバーと普段はしないような対話ができた」など、メンバーたちは私が思っていた以上に、コーチングというものの世界観を受け入れてくれたようです。

——仕事の場面では、学んだことをどのように生かされていますか?

まだ挑戦中ではありますが、例えば1on1の際に「今日はコーチング的に引き出してほしい」「今日は解釈を加えずに、ただ話を聞いてほしい」など、コミュニケーションをメタ的に捉えることができるようになったことはとても良かったと感じています。

「今求めているコミュニケーションのスタンスは何なのか」を先に擦り合わせておくことで、対話がうまく進みやすくなる。反対に、対話がうまく機能しないときに、「人として合わない」など、相性や人間性に帰着させる必要がなくなるのはとても良いことですよね。

一方で、今回研修を受けたメンバーのうち、そんな風に日々のコミュニケーションで生かす方法を探求しているのは、全体の2〜3割程度なのではないかとも思っています。私としても全員にコーチングを使いこなしてほしいという考えを持っているわけではなく、例え2〜3割だったとしても「コーチングは自分の人生を良くするものだ」というくらいに熱量高く学んでくれた人がいるだけでも大きな成果だと思っています。

その2〜3割の人たちが、学んだことを組織やチームにきっと還元してくれるでしょうし、これから研修を受けたメンバーがチームのリーダーになっていくことを思うと、長期的に作用するものなのではないか、と。

思考優位なビジネスで見落とされがちな心の声

——研修後に、講師より参加者からのアンケートのご報告やHERPの組織づくりへのフィードバックなどをさせていただきました。何か印象に残っていることはありますか?

講師の方からは、そもそもビジネスは思考優位で進めるものだから、思考優位に振り切っているところはHERPの強みであると、フィードバックをいただきました。

そして、それと同時に、今後HERPがどんどん世界に羽ばたいていく際に、“思考優位でいなくてはいけない”と感情を否定するようなカルチャーが意図せず蔓延してしまうと、会社の器としていつか限界がきてしまうかもしれないともおっしゃっていただきました。

特に日本人は感情優位の人が多いとも言われているようなので、そうした傾向なども踏まえると、HERPの思考優位が強いカルチャーはたしかに特殊なのかもしれません。

——HERPの強みと伸び代の両方が見えてきたわけですね。

「感情を大切にしよう」と私自身は、これまで意図的に言葉ににしてきました。でも、心のどこかでは、ビジネスに向き合っている限りは、「思考優位で意思決定やコミュニケーションをしなくてはいけない」とも思い込んでいたことに気がつきました。

それは、もしかしたらフラットな組織であるが故なのかもしれません。トップダウンな組織であれば、上司の感情で意思決定されるような場面も往々にしてありそうですが、フラットであろうとすると、誰かの独断ではなくて「合理的で誰から見ても正解であること」を求めるようになります。

しかし、いくらそれが正解だったとしても「この作業は辛いからやりたくない」とか「合理的ではないけど、こっちのほうがかっこいいと思う」とか、そういった感情寄りの声を発しづらくなってしまうこともあるのではないかと。「これが正解なんだから、しんどいなんて思っちゃいけない」と、自分の感情を抑圧してしまうこともあるかもしれません。

ビジネスは思考優位で進めるものではあるけれど、人間の性質のごく一部でしかない。そう思うと、感情も意思決定の指標の一つに含めても良いのではないかと思うようになりました。

例えば、「Aの選択のほうが合理的ではあるけど、Bのほうが直感的に魅力を感じる」などです。感情も組織の大切な要素として、オープンに出し合えるようなカルチャーが創れるといいなと感じています。

組織の課題は顕在化してからでは遅い

——「THE COACH for Business」をどんな組織に勧めたいですか?

私たちのように組織の人数が増えたり事業や部署が増えたりすると、会社のビジョンが浸透しづらくなり、組織としての一体感が薄れていくことも考えられます。組織が成長していく過程で次々と立ち現れる懸念に対し、先に手を打っておくことはとても重要だと思っています。

HERPも事業の複線化をきっかけとした課題が顕在化する前に、メンター制度の確立や部署の設置、コーチング研修の実施などさまざまな手を打ちました。組織の課題は、顕在化したときに着手するのでは手遅れですし、少しでも余裕のあるうちに何かできることを検討しておかないと組織内のことに追われてユーザーが蔑ろにされてしまうことも考えられます。

そういった意味では、HERPのように組織体制に変更が起きたタイミングなどで、こういった研修も含めて組織の中を見直しておくことを強くお勧めしたいです。
また、思考優位で進めるビジネスというものは、人間の一面でしかないと思っています。本当に世の中を良くしようと思ったら、メンバーの多面的な側面や複雑な課題に向き合う必要がある。そこに向き合う覚悟ができている組織にとっては、コーチングはとても意義のある学びだと考えています。

——本日は貴重なお話をありがとうございました!

執筆:佐藤伶