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選択肢がある不自由さ

FROM 安永周平

有名な話なので、あなたもご存知かもしれませんが、ロバート・チャルディーニ博士の著書『影響力の武器』の中で、人間の意思決定に関する面白い実験が紹介されています。あるスーパーのジャム売り場に試食品を置いて実験を行ったところ、ジャムの種類の数によって、立ち寄った人がジャムを購入する割合が変わることがわかったのです。具体的には…

パターンA:24種類のジャム → 立ち寄った人の3%が購入
パターンB:6種類のジャム → 立ち寄った人の30%が購入

と、実に10倍以上もの差がつきました。これは「選択肢の矛盾理論」と呼ばれており、人は選択肢が多ければ多いほど、決断することができなくなるという事実を示しています。

選択肢が多いほど決められない矛盾…


普通に考えれば、選択肢が多ければそれだけ「自分に合ったもの」を選べる可能性は高くなるでしょう。ところが、現実はそうではなく、選択肢が多いほど人は決めることができなくなるのです。これは、多過ぎる選択肢が意思決定に必要なエネルギー(ウィルパワー)を私たちから奪うためだと言われています。

たとえば、スティーブ・ジョブズは公の場に出る時は、いつもISSEY MIYAKEの黒のタートルネックに、リーバイスの501、足元はニューバランスのグレーのスニーカーと決めていました。というのも、彼は意思決定に必要なエネルギーを「毎日の服を選ぶ」という面倒な選択によって浪費しないようにしていたのです。それによって、限りあるエネルギーを経営者として重要な判断をするために使っていたのですね。これは、私たちも見習うところがあるのではないでしょうか。

「先延ばし」でエネルギーは減り続ける


さて、ウィルパワーが一定以下になると、先の実験のように「ジャムを買う」という決断を先延ばしにしてしまいます。ところが、決定しなくてはいけないことを頭の中で先延ばしにしておくと、”無意識に”気にした状態が続いてしまいます。そしてお察しの通り、この状態はエネルギーを消費し続けます。言ってみれば、人は行動ではなく「意思決定」によって疲れるのです。

そう考えると、あまり多くの選択肢を持つというのも考えものです。昨今、生き方の選択肢も増えているからか、人生に迷う人が増えているように思います。特に女性は、ひと昔前は「専業主婦一択」だったのが、時代が変わり、今では色んな生き方の選択肢が持てるようになりました。だからこそ「自分が何をしたいのかわからない」と悩む人も多いのでしょう。

「複数の選択肢を持つことが大切だ」とか「あれもやりたい、これもやりたい…全然時間が足りない」とかいうのは、一見、とても意欲的な生き方のようにも思えます。しかし、限られた時間を何に使うのか決められないという点では、無駄にエネルギーを消費し続けている状態だとも言える気がします。

購入の意思決定をしたばかりの顧客に…


ところで、この選択肢の話は、営業マンが商談をする際にも役立ちます。営業をしている人なら誰しも、お客様から見込み客となりそうな知り合いを紹介して欲しいと思うでしょう。新規開拓営業の大変さを考えると、営業先での紹介によって見込み客が獲得できるのなら、こんなに嬉しい話はありません。

ですから、あなたも商談後に、勇気を振り絞って「誰か紹介してくれませんか?」と、聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、残念ながら、この聞き方では実際に紹介してもらえる可能性は低いでしょう。その理由の1つは、聞き方が漠然とし過ぎている…つまり、選択肢が絞り切れていないことです。

たとえば、あなたが友達と話をしていて「何か面白い話して」なんて無茶ぶりされたとしましょう。さて、あなたは今すぐにできるでしょうか?きっとあなたもこれまで、面白い話は何度も聞いたり、体験したりしたことがあるでしょう。ところが、突然言われて、すぐに出てくるかというと…これは芸人さんでも難しいのではないでしょうか。

「参照範囲」を示して選択肢を減らす


ですから、相手が答えを思いつきやすくなるように聴くことが大切です。これはトム・ホプキンス氏の名著『営業の魔術』の中で、1つの解決策が紹介されています。それが「参照範囲を示す」という方法です。たとえば…

営業「そういえば、ゴルフが大好きだっておっしゃってましたよね。」

顧客「ええ、始めてもう10年になります。退職したら、毎日プレーするかもしれませんね。今はほら、週末しかできないから。まあ、そうは言っても毎週末やってますがね。」

営業「へえ。よく一緒にラウンドするゴルフ仲間などはいらっしゃるんですか?」

顧客「ええ、もちろん。鈴木さん、田中さん、佐藤さんの3人かな、よく一緒に回るのは。」

営業「山田さん、もしご存知だったらでいいんですが、その中に○○を必要としている人は…」

…といったように聞くわけです。これによって「全ての知り合い」という多過ぎる選択肢が、「ゴルフ仲間」という少ない選択肢に絞られました。こうなると、知り合いの名前を挙げてもらえる可能性は上がるでしょう。あなたがこれまで、紹介を求める時に「誰か…」と言ってしまっていたのなら…ぜひ1度試してみてくださいね。

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